ゆうこすがさまざまな分野のプロフェッショナルから学ぶこの連載。今回は、クリエイターに限らず多くのビジネスパーソンの悩みの種であるアイデアや企画の発想法について学んでいこう。
(編集部)
動画を作ろうと思っている人の中には、伝えたいことは明確にあるものの、それをどう相手に伝えるか悩んでいる人は多いのではないだろうか。自分の意図や思いを効果的に伝え、多くの人の心をつかむ動画を作るには、アイデア(企画)が不可欠。YouTubeで「ゆうこすモテちゃんねる」を運営し、57万人以上の登録者を抱えるゆうこすも、企画作りに悩んでいる1人だ。そこで、映像を主軸に、映画やゲーム、雑貨などさまざまな分野で動画を制作しているコンテンツスタジオ・CHOCOLATE Inc.(以下、チョコレイト)のプランナーに、これまで生み出してきた動画のアイデアをどのように発想したのかを聞いた。
森 翔太:1983年生まれ。鳥取県出身。演劇活動を経たのち、2012年より独学で映像製作をスタート。「仕込みiPhone」(13年)動画がYouTubeで300万回以上再生され、国内外のメディアで取り上げられた。以降は、『ジェット侍』『充電ラブストーリー(篠崎愛)』『鳥取県カニ動画』『神の手』などのCM監督や、乃木坂46のプロモーションビデオ、映画『いぬやしき』の一部映像ディレクションなどを手がけている。Twitter : @ShotaM0ri
冨永 敬:85年生まれ。香港育ち。広告のプランナーとして10年間、話題づくり、行列づくりに没頭。アクティベーションを中心に、CM、PR、デジタル、イベントと、多様な手法を武器に企画、実現する越境系プランナー。特定の分野にとらわれず、新しい体験を生み出すべくメディアアート、イラスト、xR領域と好奇心拡張中。世界三大広告賞Cannes Lionをはじめ、国内外の広告賞を多数受賞。Twitter : @tomik0925
なぜクリエイターはチョコレイトに集うのか
ゆうこす 数カ月前「#チョコレイト参戦」(※)が話題になりましたが、実はそのときからチョコレイトさんを知っておりまして、今回、私も動画を作っている身として、企画の作り方について学ばせていただきたいと思って、取材をさせていただきました。どうぞよろしくお願いします。はじめに、お二人がどんな方なのか教えていただけますか?
森翔太さん(以下、森) チョコレイトは、さまざまな分野のいろんなバックボーンを持ったプランナーが集まっている会社です。僕は映像作家で、「仕込みiPhone」という、iPhoneを腕に付けて出す動画を一人で5~6年くらい前に作ってYouTubeにアップしていましたが、企業の方とお仕事をするようになって、いろんな経緯があってチョコレイトに参戦しました。普段はディレクターをしていますが、チョコレイトにはプランナーとして参加しています。
冨永敬さん(以下、冨永) 僕は小学館と一緒に制作している子供向けチャンネルの「ピカいち CHANNEL」や、オリジナルコンテンツの「6秒商店」などにプランナーとして参加しています。もともと博報堂でプランナーとして働いていて、CMを作ったりマクドナルドのエッグチーズバーガーを「エグチ」とあだ名にしてローンチする企画などをやっていました。広告会社からコンテンツ制作の会社に転職してきた人間です。
ゆうこす ありがとうございます。実は私、就職したことがなくて自分で会社を立ち上げて経営しているのですが、「#チョコレイト参戦」を見たときに、正直一人ひとりがフリーランスでも十分やっていける人たちがなぜチームとして集まって仕事をしようと思われたのか、気になりました。
森 参戦理由は人それぞれ違いますが、僕はフリーでずっとやってきたので、単純に参加する人が面白そうなので楽しそうだなと思いました。チョコレイト自体が「6秒商店」などのオリジナルコンテンツをどんどんやっていこうという方針なのも大きかった。一つのコンテンツをいろんな考え方を持った人が集まってゼロから作るというのは、フリーではなかなかできません。
チョコレイトには仲間でもありライバルでもある人がたくさんいるイメージがあります。毎回みんなで企画を持ち寄ったり、動画を作ったりしているので、売れる人はどんどん進んでいきます。だから、とても刺激になっています。
ゆうこす 私はあまり刺激を受けるということがないので、すごくうらやましいです。ほかの方にアドバイスをしたりしますか?
冨永 ありますね。全然違う視点でインプットをくれるので面白いです。例えばTikTokの話とか、僕らのようなおじさんだとついていけないじゃないですか。そうすると横から「これ流行ってるよ」と言ってくれるので、普通に生活していたら入手できない情報を仲間から得ることができます。今はネットで検索したら分かってしまう時代ですが、自分と異なる興味や価値観を持った人が近くにいると刺激になりますね。
そういう人たちが集まって、1個のルールでアイデア出しをするとすごく面白い。「6秒商店」は、全プランナーが「いっせーのせ」で企画を出し合って、その中のいいアイデアが映像化されていくのですが、みんなまったく違う切り口でアイデアを考えてくるので、その場自体が楽しいです。
ゆうこす 最初「6秒商店」をTwitterで見たときはとても驚きました。バズったものを商品化するというアイデアだと思いますが、パクられて中国で売られたりしていると聞いて、どうなるんだろうと思っていました。最近はFOLIOさん(※)や森永乳業さんのピノとのタイアップなどが増えていると知って、方向転換されたのかなと。今後「6秒商店」自体はどうなっていくのでしょうか?
冨永 「魔法陣の充電器」など、バズったら商標を取って製品化するという構想をしていましたが、パクられるスピードが予想以上に速くて驚きました。これからもタイアップに加えてオリジナルコンテンツも作っていく予定ですが、「この動画はこういう反応だったな」など、毎日PDCAを回すことで「6秒商店」を実験の場にしていきたいと考えています。PDCAのスピード感も大企業にはない楽しみでもありますね。
ゆうこすさんもYouTubeをやられていますが、YouTuberって毎日投稿が基本ですよね。広告会社から来た僕は、どんなに短くても1、2カ月単位でコンテンツを作っていくスピード感なんです。どちらも違った楽しさがありますが、毎日何かを作るというスピード感で動いて実験している人たちに、どこかで追いつけなくなるときが来るんじゃないかという危機感もありました。実際「6秒商店」はすごいスピード感で、早いときは編集して半日くらいで動画を公開しています。
複数の動画のフォーマットを組み合わせる
ゆうこす 以前、森さんのYouTubeを拝見しまして、そもそも芸術系の大学を卒業されて舞台の経験があることを知っていたのですが、そこから一番初めにアップした「仕込みiPhone」を見たときに「大人の全力のふざけ」を見た感じがして、平和な気持ちになりました。
森 平和ですか!? 確かに、あれで人は殺せないですね(笑)。実は弱者の妬みのようなルサンチマンから作った動画なのですが、周囲からは「なんか幸せな気分になれる」と言われることが多くて、自分では意外でした。あのときは飲まず食わずで生活していて、鬱屈した気持ちで作っていました。
ゆうこす 「仕込みiPhone」はどのように生まれた企画だったのですか?
冨永 確かに発想の源を知りたいですよね。だって、iPhoneを体に仕込もうなんて絶対思わないじゃないですか。
森 自分はすでにあるものをいじるパロディーが結構多いです。ニュース映像やバラエティー番組のパロディー動画を作りましたが、「仕込みiPhone」は1970年代のアメリカ映画『タクシードライバー』のパロディーです。鬱屈とした主人公が、iPhoneでなく銃を出すんです。実はパロディーに何かもうひとつ要素を付け足すと新しいアイデアになりやすい。しかも有名な映像のパロディーであれば既視感もあって、見ている人に状況などを説明しなくても済んだりします。
「仕込みiPhone」をアップしたとき、最初に海外の人が反応してくれました。『タクシードライバー』は反骨精神を持つ人たちに人気の映画で、海外の人が映画の主人公と僕とを重ね合わせて見てくれて、勇気づけられたそうです。コンテンツを作って世の中を湧かすとはこういうことかと思いました。
ゆうこす 社会で生きている中での鬱憤があって、中二病の延長みたいに全力でふざけたい思いがあるけれど、それもできない中でみんながこの動画を見ていたと思います。ほかの作品を拝見しましたが、森さんは炎上する要素がない、誰も傷つかないうえに面白い動画を作られていて、「丸く尖っている」なあと感じました。
冨永 確かに、「丸く尖る」っていいですね! 言い当てている感じがします。確かに誰も傷つけてない。ところで、ギターを自作する動画は何のパロディーなんですか?
森 あれは僕の中で新しいことをやったつもりだったのですが、結果的には3つからパクってました。まず無意識にin living.さん(※)をパクってましたね。
ゆうこす in living.さん、パクってますか!?
冨永 カメラを置いて何かを撮るという、あのフォーマットをまねたんですね。
森 日記調の動画に淡々とナレーションをかぶせるっていう。YouTubeって人物の顔が写って直接しゃべるじゃないですか。それをほぼ全編ナレーションで話すのはありそうでない。2つ目は、段ボールとかいろんなもので包丁を作る「圧倒的不審者の極み!」というYouTubeチャンネルがあるのですが、こちらも参考にしましたね。最後はレシピ動画の「こんびにこ」さんです。完成したギター動画を見ると、自分の中ではきっと3つの動画の好きなところを組み合わせたんだろうなっていうのがあります。
ゆうこす 1つだけまねてしまうとただのパクリですけど、いろんなものを吸収して噛み砕いて自分の中で融合できるって1つの才能というか……。
冨永 3つパクればオリジナルみたいな……名言もあります。
ゆうこす パロディーで自分なりにアレンジするって確かに1つのやり方というか、ぜひまねしたいです。
森 僕には宣言したいことがあります。令和になって、新しい物を作らないとダメなのではないかと思っているので、パロディーはもうやりません。それに平成の終わりに、平成を振り返ろうということでパロディーがブームになって、みんなおなかがいっぱいになってしまいましたし。
冨永 やらない宣言! じゃあギターは作らないってこと?
森 あれはちょっとおいしかったんで続けますけど(笑)。でも新しいものを作ろうという思いはあります。
ゆうこす 「ポプテピピック」(※)でパロディーブームが爆発しましたよね。Twitterですごいバズって、「これはあれじゃないか!?」って検索が多くて。
冨永 あれで出尽くした感がありましたね。
森 「ポプテピピック」が、本当にトドメを刺した感がありました。これからは新しいものを入れた完全オリジナルをやらないとダメになっていくだろうと思います。
ゆうこす チョコレイトさんという会社や、森さんの面白い動画の源についてよく分かりました。次回もアイデアの作り方を中心にお話を進めていきます。
森さん、冨永さん、楽しいお話をありがとうございました。次回もよろしくお願いします。
(写真/稲垣純也)