前回、前々回と「いい動画」を作るための基本を学んだ。今回はちょっと難しい組織論。ゆうこすが、自身の最大の悩みごとである動画制作チームをうまく機能させるためのノウハウを、明石ガクトさんに聞いた。キーワードは「カルチャーフィット」だった。
(編集部)
「これからは動画だ!」と意気込んでみても、自分ひとりで撮影から出演、編集まで担当していては、疲れてしまう。企業のマーケティング担当者であれば、動画制作の経験がない方がほとんどだろう。そうなると外部の方々との連携は不可欠だ。ゆうこすも「動画の編集作業を外部の方に頼んで、効率化したい」と考えているが、なかなかうまくいかないという。
いい動画制作チームには徒弟制度が不可欠?
ゆうこす SNSでの発信やライブコマース、YouTuberの育成などさまざま事業や仕事をこなしているため忙しくて、外部の方に動画の編集をお願いすることも増えています。でも、自分が思い描いている「スタイル」や「スタンス」が伝わらず、思い通りの動画を作れていません。
また、普段私は自宅で動画を撮影することが多く、マネージャーさんがデータをハードディスクに入れて外部の方に渡してくれるので、あまり外部の方と会っていません。やはりスタンスを共有するには、常に会っていることが大切で、動画制作がうまくいっていない原因はそこにもあるのかなと思ったのですが、いかがでしょうか?
明石ガクトさん(以下、明石) そうですね。少なからず関係していると思います。
「ディレクション」という言葉があるのですが、ディレクションというのは、「導いていく」という意味で、映像でも広告やテレビの世界と同様に、「ディレクター」という役職の人がいます。実は動画の編集作業だけをする人は、ディレクターではありません。そういう人は「エディター」と呼ばれます。
基本、ディレクターが「これはこういう感じでやろう」という指示をエディターに伝えて、エディターが編集作業を担当します。制作会社によっては、さらにディレクター陣を束ねる上位の役職があって、これを「クリエイティブディレクター」と呼びます。CDと略されることが多いです。
ONE MEDIAで言うと、動画の制作に携わる人は30人近くいますが、CDは現在、2人しかいません。1人のCDが2人のディレクターに指示を出し、その2人のディレクターが4人のエディターに指示を出す、ということを繰り返して凝った動画が出来上がります。
ゆうこす なるほど……。
明石 このとき、スタンスはCDがもちろん一番意識しているのですが、その次はディレクターで、エディターになるとスタイルは分かっているけれどスタンスはあまり分からないことも増えてきます。
ゆうこすさんは、言ってみれば「ゆうこすチャンネル」のCDじゃないですか。なので、外部の方にディレクターとしてスタンスやスタイルなど、さまざまなことをくみ取ってもらうためには、結構一緒にいないと分かってもらえない。今はゆうこすさんのことをあまり分かっていないエディターに発注している感じです。編集自体はできるのですが、魂が入っていない感じがするのかもしれません。
ゆうこす 確かに。私のスタンスを理解してくれるディレクターを育てるには長い時間一緒にいて、さまざなことを共有していかないとダメなんですね。
明石 最初は自分が想像していた動画と違うものができあがると思います。それに対して「これはもっと、こういう感じにして、タイミングはこうして」みたいなことを、言い続けるしかありません。すると「(ゆうこすさんなら)ここはこうするよね」というように外部の方も分かってくる。これが映像産業が徒弟制度と言われるゆえんで、「親方の背中を見て覚えなさい」みたいな……。今のところこれを効率良くやれる工夫はありませんね。
唯一あるとしたら、テンプレートを作ること。「最初はここにゆうこすさんのこういう顔が入って、タイトルはこんな感じで、『はい、ゆうこすちゃんねるをご覧の皆さん!』で始まる」とかですね。これは決まりごとだから簡単に作れると思いますが、でもそれはすでにやっているんですよね?
ゆうこす そうですね。テンプレートは試しています。
明石 そのうえで何かが違うというのは、やはり外部の方との関係性なのかと。だから、今編集作業をお願いしている方をエディターとしても育てるか、ゆうこすさんと外部の方(=エディター)の間に入るディレクターを新たに育てたほうがいいと思います。
「カルチャーフィット」の見極めが重要
ゆうこす 実は編集作業をお願いする外部の方をTwitterなどで募集したら200人くらいの応募があって、実際に編集をしてもらいました。フィードバックを繰り返しながら、1年間くらい動画制作をしてもらっています。でも、「女性誌とか分かりません」というタイプの人だったので、女性誌を送ったり、テンプレートを作ってお渡ししているのですが、コスメに対しての知識があまりないために、映したいところとかが違ってしまって、やはり全部私が手を入れて……。
明石 いわゆる「カルチャーフィット」しているかどうかですよね。ONE MEDIAのカルチャーに近い方であればONE MEDIAのスタンスが理解しやすいわけです。別のものに例えるとすると、お酒造りする人のことを「杜氏(とうじ)」と言いますが、お酒がまったく飲めない人でもお酒は造れます。発酵は化学なので、温度などの数字などを見ていれば、お酒はまったく飲めなくても完成させることはできます。でも、すごくお酒が好きな人が造ったお酒のほうがおいしそうに感じませんか?
ゆうこす 確かに!
明石 そう。だから、言われた指示を完璧にこなせる人よりも、すごくコスメが好きで、例えば「このクリスマスコフレがすごくかわいい!」と言えるメンタリティーを持っている人かどうかって、すごく動画に出てしまう。楽しんで愛を持ってやっているかどうかが動画で伝わってしまうので、カルチャーフィットするかどうかという基準で外部の方を選んだほうがいいんじゃないかなと思いますね。
ゆうこす 一緒に組む外部の方は、動画編集がプロのようにうまいことも大事ですが、その人の好きな映画とかお笑い芸人とかを聞くのも大事なのかもしれませんね。相棒探しではないですけれど(笑)。
明石 相棒探しは大事だと僕は思っていて、編集のスキルや知識は、極論すればやっていれば身に付くものなんですよ。けど、本来好きじゃないものや興味のないものを好きにさせたり興味を持たせるのは、とても大変なことです。
ゆうこす 好きじゃないものを作らされていたら、絶対すごくつらいですよ。
明石 好きなものやカルチャーフィットするかということを調べてディレクターやエディター選びをしたほうがいいと思います。でも、難しい。「コスメ大好きな動画エディター志望集まれ!」と招集をかけても、それはそれで集まると思いますが、本当に何にもできない人が集まったりしますよね。
ゆうこす 実は最近、動画編集者募集のやり方をちょっと変えたいなって思って呼びかけたのですが、そしたらやはり「動画編集はやったことないけどやりたいです!」って人がたくさん来て、「え~!?」みたいな(苦笑)。
明石 そうそう、そこが難しいところです。だから動画をやりたいと思っている人たちに言いたいのは、今のうちに動画をやろうとしている人たちとたくさん友だちになったほうがいいかもしれないということですね。
僕が会社を作り始めた時はカメラもすごく高くて、自分で編集するにはパソコンが必要になるから制作会社に就職しないとスキルが上がらなかったけれど、今はカメラもパソコンも安いし性能がいいので、みんな成長が速いですよ。だから、今日友だちになった人が1年後は編集能力が格段に上がっていることだってあるわけです。
ゆうこす 動画編集では、自分のことを知ってくれている人がいいということでしたが、自分のことを大好きでいてくれるファンに動画の編集を頼むのはどうなのでしょうか? ガクトさんのことが大好きで「入りたいです、ファンです!」という人がいらっしゃるんじゃないかなと思うのですが。
明石 たくさんいますが、なかなか面接までは進みませんね。ファンを入れてもいいかということに関しては、はるか昔に日本の能の業界で答えが出ています。能の世界に、「(弟子は)師匠を見るのではなく、師匠の見ているほうを見る」という言葉がありまして、弟子は師匠の考え方や価値観を共有することが大切という意味です。ファンの多くは、「ゆうこすを見る」なんですよ。一緒に何かを作るには、「ゆうこすの見ているほう」を見なきゃいけない。
ゆうこす うわ、今すごく腑(ふ)に落ちました。能の世界でそんなことが……!
明石 大事なのは、一緒に作れる仲間になれるかどうかなので、ゆうこすさんが「こういうふうに動画を作って、自分に自信が持てる女の子が増えるといいよね?」というビジョンに共感する人を増やして、そういう人を採用したほうがいいですよ。
ゆうこす 最近YouTubeを見ていて思うのですが、YouTuberはファンが増えて人気が出てくると、活動を休止することが多いと感じています。私は「なんで? ファンが待っているんだから配信すればいいのに。楽しくなくなったのかな?」と思っていたのですが、いざ自分が配信をしてみると、やはり自分も一時期、配信ができなくて活動を休止してしまいました。応援されるYouTuberになるためには継続が必要で、でも自分1人で企画も考えて演者もして撮影もしなければならないわけで……。
つまり、全部を自分1人でやっていて、24時間営業のカスタマーセンターも請け負っている、という状況ですよね。プラスYouTubeだけでは寂しいとファンに言われて、TwitterやInstagramでも情報を発信するとなると、精神的な負荷が大きく、YouTuberってチームで動いたほうがいいと思ったんです。
明石 超同感です。米国や最近の日本でも、だんだんチーム型になっています。
ゆうこす えっ、そうなんですか!? 私、遅っ!
明石 本当にトップクラスの人だけですが、明らかにチームでやる人たちが増えている。チームに限らず、それこそユニットになっているところもたくさんあります。1人で画面に出る役を引き受け続けるのは大変だし、1人で編集し続けるのも大変。作り手も出る側も、だんだんチームになっていくっていう流れになるのではと僕は踏んでいます。しかし、すぐにチーム組めるのかっていうと、そうではないですよね。
ゆうこす 必死に(チームを)作ろうとしているのですが、なかなか作れません……。
明石 テキストコンテンツと動画の違いはそこかなと思っていて、テキストコンテンツってそれなりのノートパソコンがあれば、場所は関係なく作れてしまう。対して動画は、出演する人を探し、撮影してそれをハイスペックなパソコンで編集するので、規模がどうしても大きくなってしまいます。それゆえ、チーム作りのハードルは高いと思います。実は、ONE MEDIAとしてはチームを作る手伝い、というかゆうこすさんのような若手の動画クリエイターがデジタルスクリーンで活躍できる仕組み作りを支援する事業も今後はやっていきたいと思っています。
ゆうこす えっ、本当ですか!? その瞬間、私もう滑り込む勢いでお願いしに行きますよ!?
明石 チーム作りで難しいのは、前半でも言いましたが、より大きな目的やビジョンを掲げないと人が集まらないことです。例えば、ゆうこすさんの著書を見て、「ゆうこすさんかわいい~!」という人ではなく、「人生諦めてもうダメだと思ったけれど、頑張れば道は開けるんだ! こういう人を増やすとすごく楽しいよね」みたいな思想で共感する人のほうが、チーム作りとしては正解です。
ゆうこす 分かりました。チーム作りにすごく悩んでいたのですが、ちょっと方向性が見えてきました! 今後のチーム作りにすごく生かせそうです! ありがとうございました。
(編集部のまとめ)
これから動画で生計を立てたい人や自社の製品・サービスを動画で販促したい人が、初めに考えるべきことを明石ガクトさんにまとめていただいた。一番大切なのは動画に対するスタンス。動画を使って何を伝えたいのかを明確に示す必要がある。そのスタンスもできれば他者から共感を得られるものがよい。続いて自分が作る動画の役割を考えよう。インフォメーションなのかコミュニケーションなのかIP(知的財産)を決めておく。最後は動画制作チームの作り方で、ポイントは自分とカルチャーフィットしている“仲間”“相棒”を見つけ出すことという。ぜひ参考にしてもらいたい。
(写真/稲垣純也)