ゆうこすが、ONE MEDIAの明石ガクトさんを招いて「いい動画」の本質に迫る。前回の「いい動画とは? ゆうこすが明石ガクトに聞くブランディング術」に続いて、動画作りに必要なセンスについて明石さんに聞いた。
(編集部)
「スタイル」と「スタンス」、そして自分が作りたい動画の役割を見極めること……、前回は動画を使ってプロモーションなどの施策を展開する場合の基本的な考え方を教えてもらった。実はゆうこす、明石ガクトさんの著書に書かれていた「いい動画を作るためのセンス」がとても気になっていた。「ここまで話したことはない」と語る明石さんの口から飛び出したのは「3人のゆうこす理論」だった。
大切なのはアート・クラフト・サイエンスのバランス
ゆうこす ガクトさんの『動画2.0 VISUAL STORYTELLING』(幻冬舎)で、「映像業界未経験の若者がいい動画を作る。センスがいい」とおっしゃっていましたよね。私は、ONE MEDIAさんの動画って、かっこいいし、うまく言葉にできないけれどセンスがいいって思うんですけど、ガクトさんが思うセンスの良さって何ですか?
明石 センスは本当に、難しいですよね。この質問をされたときに僕がいつも例に出すのが、山口周さんの『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』(光文社新書)という本なのです。山口さんこの中で、世の中には「アート型」「クラフト型」「サイエンス型」の3種類の人間がいると言っています。どの人が正解というわけではなくて、僕はこの3つのバランスを考えて動画を作れる人が、センスがいいと考えています。
明石 分かりやすく説明すると……。ゆうこすさんが毎日ライブ配信するのはなぜですか? 毎日ライブ配信する時間をYouTubeの動画を作る時間に当てれば、フォロワーとか再生回数が増えるかもしれませんよね?
ゆうこす うーん。ファンとコミュニケーションが取れるのと、毎日生配信をやっている人がいないから、ですかね。
明石 つまり、サイエンスですね。要は、毎日ライブ配信をしている人がいないから、自分がやれば独自のポジションが取れるというサイエンス的な反応ですね。クラフト的な視点から言えば、生配信は編集しなくていいから、これだったら毎日続けられると思っている、などでしょうか。
ライブ配信のゆうこすさんはサイエンスとクラフトが強いけれど、実は、アートのゆうこすさんもちゃんといます。でも、声が小さくなっている。要は、サイエンスゆうこすと、クラフトゆうこすと、アートゆうこすがいて、それぞれ3人が裁判をしているんですよ。
サイエンスゆうこすが「生配信をやっている人がいないから、独自のポジションが取れて、かつファンとのコミュニケーションが毎日取れるからエンゲージメントが強まると思うの!」と言う一方で、クラフトゆうこすが「そうね、YouTubeの動画を一生懸命作るよりも生配信だったら編集がいらなくて楽だからそれは非常にいいアイデアだわ、サイエンスゆうこす!」って言っている。対してアートゆうこすは、「でもYouTubeですてきな動画を作って世界中に広まったらすごくないですか?」と言っていて、サイエンスゆうこすとクラフトゆうこすのほうがしっかりした意見っぽいから、アートゆうこすが反論できなくなっている状態ですね。特に日本はこの傾向になりがちなのですが、説明しやすいほうが会社とかでも意見が通りやすいんですよ。
ゆうこす 確かに。結果も想像しやすいですしね。
明石 そうそう。上司も自分も説得しやすい。説明できないし、合理性はないけれど「本当はこれがすごくいいんだ!」って言えるようなものがアートな判断と言えます。iPhoneがなぜあんなに人気かって、すごい完成度が高かったからです。だから実は、アートなものが世の中を一気にひっくり返したりするわけですよ。
アートを放っておくと、人間の思考はサイエンスとクラフトのほうが合理的に説明できるのでそっちに流れがちになってしまうのですが、そこでガッと踏みとどまって、クラフトとサイエンスともけんかせずに「ちょっとやってみよう!」と行動に移れるバランス感がある人が、僕はセンスがいいと思っています。その力が特に強いと感じるのが、若い人たちなんです。
ゆうこす そうか! 映像の仕事が未経験だと、手間とかあまり考えずにアートな部分を前面に出そうとするんですね。
明石 ある程度、映像とかテレビの仕事に染まっちゃうと、テレビの中で有効なサイエンスとクラフトがあるんですが、それを何万回も繰り返してきている大人たちは、その一切を無視して切り替えて、新しいことをゼロベースで始めるのが難しかったりするんです。成功例やデータがない中で、最初に一歩を踏み出すのがアートな部分で、TikTokがそうだったように若い人のほうが、新しいところに最初の一歩目を踏み出す、そんな要素を持っている気がするんです。で、結果としてセンスがいい人が多いんじゃないかって感じています。
ゆうこす 今の話を聞くと年上のほうがアートだなって思いました。アートってつまりロックなのかなって。私は、ロックミュージックが好きでよく聴くんですが、昔のアーティストの曲って聴いている人の誰にも共感されないだろうと思う曲ばかりなのに、「でも私はそれが美しいと思う!」と構わずに歌っている作品がたくさんあるのでパンクとかロック精神があるのかなって思いました。
明石 いやいや、それはおじさんが若い頃に書いた曲だからだと思うよ(笑)。
ゆうこす ああ、そうか(笑)!
明石 僕も今年37歳になるおじさんですけど、若い感性を失わないようにすごい気を付けています。「あの会社がこうしているから、うちもこうしよう」とか合理的なほうに思考が働きがちなので、そこで「人生すべて逆張り!」って思って、あえて逆なこともしています。合理的に考えると、長髪の社長ってやばいじゃないですか(笑)。こんなビジュアルなのに、しゃべるとまともなことを言っているぞってなってたら、面白いんじゃないかと思うんですよ。
ゆうこす ギャップモテですね?
明石 これはもうアートかつロックですよ。
ゆうこす 私もロック精神を忘れずに頑張ります。次回は、実際に動画を作ることを考えたときに1人だと限界があるので、チームを結成すると思うのですが、アートかつロックな動画を作るチームを育てる方法について詳しく教えてもらいます!
(写真/稲垣純也)