乃木坂46やマツコ・デラックスを起用したテレビCMで、広く世間に知られるようになったマウスコンピューター。同社は2021年3月期第2四半期、消費増税やWindows7の特需があった前年同期よりも売り上げは27.5%、営業利益は55%伸ばし、上半期として過去最高の売り上げと利益を達成している。かつては通のみが知る秋葉原のパソコンメーカーだったマウスコンピューターが絶好調な理由を小口氏が小松永門社長に直撃する。

マウスコンピューター社長の小松永門氏。千葉県出身。千葉大学工学部卒業。1989年コンピューター関連会社に勤務の後、2005年株式会社MCJに入社し営業本部長を経て、2006年より現職
マウスコンピューター社長の小松永門氏。千葉県出身。千葉大学工学部卒業。1989年コンピューター関連会社に勤務の後、2005年株式会社MCJに入社し営業本部長を経て、2006年より現職

(編集部)
 マウスコンピューターの名前が広く認知されたのは、2016年のこと。歌舞伎役者の中村獅童さんを起用したユニークなテレビCMがきっかけだ。その後、乃木坂46のメンバーが登場するCMも話題となり、認知がさらに拡大。下のグラフを見ても分かる通り、16年3月期以降はテレビCM効果で売り上げが右肩上がりになっている。また、小松社長によれば、一般消費者への認知が上がったことが法人セールスにも好影響を与えているという。

■ マウスコンピューターの売り上げ
■ マウスコンピューターの売り上げ
Windows XPのサポート終了に伴うPC需要で14年3月期は大きく伸びたが、その後はほぼ横ばいが続いていた。16年3月期Q4にテレビCMを開始し、それ以降は右肩上がりで売り上げを伸ばしている

ビジネスの拡大に伴って露出した問題点とは?

小口覚(以下、小口) このコロナ禍でかなり売り上げを伸ばされています。

小松永門さん(以下、小松) 20年4月、5月は主に法人のテレワーク需要が前年比で約130%増、6月以降はコンシューマーの方の需要が向上して、4~9月の前年比で約150%増になりました。

小口 製品ブランドは、一般向けの「mouse(マウス)」、ゲーミングPCの「G-Tune(ジーチューン)」、クリエイター向けの「DAIV(ダイブ)」、法人向けの「MousePro」の4カテゴリーありますが、売り上げの比率は?

小松 一番大きいのはmouse、次がG-Tune 、法人向けのMouseProの順番になります。成長率ではmouse、続いてDAIVの順で高いです。販路はダイレクト販売が6割、店頭・再販が4割です。

20年は法人向け、コンシューマー向けともに売り上げを大きく伸ばした。画像は20年の売れ筋のひとつ、14型モバイルノート「mouse X4」シリーズ
20年は法人向け、コンシューマー向けともに売り上げを大きく伸ばした。画像は20年の売れ筋のひとつ、14型モバイルノート「mouse X4」シリーズ

小口 マウスコンピューターは、ある程度パソコンに詳しい人向けのメーカーというイメージがありました。

小松 確かに、もともとはマニアやパソコン好きの方々が客層の中心でした。ただその後、量販店や法人向けへ展開していきました。

小口 気がつくと一般向けのパソコンメーカーに成長されたように見えますが、苦労されたことは?

小松 ビジネスの拡大に伴って営業の販路を広げていった際、最も問題になったのが製品の品質です。直販が主体の時はコールセンターなどで対応できました。しかし販路を広げると量販店やディストリビューターといった販売パートナーに品質面で問い合わせが増えてしまい、ビジネスが伸び悩んでいました。営業はモノを売るのが本来の仕事なのに、顧客サポートに時間を取られるようになってしまったからです。

小口 製品の品質でつまずいて拡大が阻害される。よく見る光景ではあります。

小松 私自身、一消費者として壊れるものは買いたくない。まずはきちんと壊れないものを作っていこうと、入社以降ずっと品質向上に取り組んできました。

テレビCMのメッセージは絞る

小口 かつては、パソコンにトラブルはつきもの、自分で調べて解決するものといった文化がありましたが、今はそうではない。とくにテレビCMをこれだけ打たれているわけですから。

小松 品質が安定してきたタイミングで、さらにお客様に安心して買ってもらうにはどうすればいいか考えました。一般消費者の方は私も含めてそうですが、知らないブランドのものは買いにくい。一定の認知が必要だろうと、ロゴのCIと同時にテレビCMなどマスマーケティングを本格的に開始しました。16年のことです。

小口 パソコン市場が停滞していた時期です。

小松 マーケット全体が落ちたとしても、当時私たちが占めるシェアはそこまで大きくなかったので、まだまだ伸びしろが多くあると考えてのことです。

小口 16年12月から乃木坂46のCMを投入して話題になりました。乃木坂46を起用した理由は?

小松 ターゲット層の中心が30~40代の男性ですので、女性タレントがいいかなと。さらに、認知のために社名をメロディーに合わせて踊ってもらうパフォーマンスを考えていたので、歌える方がいいと考えました。

小口 「マウス、マウス、パソコンマウス♪」と連呼するメロディーが頭に残りました。

小松 まずはマウスという名前を知ってもらうことが重要でした。あるとき、小学生の子どもたちが「マウス、マウス」と歌っていたので、「マウスって何の会社か知ってる?」と聞いてみたのですが、皆知らないと(笑)。ただ、テレビCMでは多くのメッセージは伝わらないので、メッセージを絞っていく必要があります。

小口 それができない経営者が多い。せっかくお金を出すのだからと情報量を入れすぎて何も伝わらなくなってしまう。

小松 気持ちは分かりますけどね。パソコンメーカーであるという一歩進んだ認知はゆっくりですが、社名と結びつけてもらうまでが早くなりました。これまで、営業が新しいお客さんの所に行き会社の説明をする際、一から十まで説明していたところが、乃木坂46のCMの会社はパソコンを作っているんだと、すぐに理解していただき、次のアクションに移ってもらえるようになった。もちろん、パソコン初心者の方にとっても、安心してお買い求めいただける土壌になっています。

小口 乃木坂46のCMも後期はお笑いの要素がありましたが、20年11月下旬からの新しいCMもマツコ・デラックスとホラン千秋の掛け合いが面白いですね。マツコさんらを起用された理由は?

新しいCMには、タレントのマツコ・デラックスさんとホラン千秋さんを起用した
新しいCMには、タレントのマツコ・デラックスさんとホラン千秋さんを起用した

小松 タレントとしての発信力が高い方ですので、「マウスってどうなのよ」「国内生産だから良いとは限らないでしょ」と疑問を投げかけてもらうことでメッセージを届けたいと考えました。

 認知はクリエイティブのインパクトと出稿量との関係で決まりますが、出稿予算には限界があるため、クリエイティブを工夫するようにしています。そして演出はCMを始めた頃の名前を覚えてもらうフェーズから、国内生産や24時間の電話サポートといった具体的な内容に少しずつ変えていきました。ネットでは、何回かテレビCMを見ていただいたお客様や興味を持っていただいたお客様が、製品情報などをより深く理解できるCMを用意しています。

小口 YouTubeの動画もテレビCMと同じタレントを使いつつ、内容を変えている。

小松 目的が違うので同じものは使えません。興味がないものは皆さん見ませんから。

YouTubeのマウスコンピューターのチャンネル。テレビCMで興味を持った人が、製品情報などをより深く理解できる動画を用意している
YouTubeのマウスコンピューターのチャンネル。テレビCMで興味を持った人が、製品情報などをより深く理解できる動画を用意している
【意識低いポイント】「テレビCMでは多くのメッセージはなかなか伝わらないので、メッセージを絞っていく必要があります」
「メッセージを絞る」とは、強いインパクトを与えて認知のスピードを上げること。認知を大きく拡大したマウスコンピューターの派手かつ面白み重視のテレビCMは、この連載のタイトル通り、意識低い系の戦略といえるだろう。ただし前提として品質が一定以上であることはマストとなる。巧みなマーケティングによって認知を広げても、商品の品質が悪ければ、それはSNSなどを通じて何倍もの悪い評判となって戻ってくることがあるからだ。

品質とスピードのバランスを取る

小口 国内生産をアピールされている効果は高いですか?

小松 買っていただいた最後の決め手が、国内生産による品質に対する安心感であるという声はいただいています。ただ品質は製品自体に限ったものではありません。マウスクオリティーと呼んでいますが、営業の現場やサポート、修理を含めて品質を改善する運動を全社で行っています。

 大事にしているのは、品質とスピードです。品質はお客様に対する信頼で、特に日本のお客様には重要ですし、ビジネスの継続性においても大事です。ただしただ品質が高ければいいのかというと、変化の激しいマーケットで生き残っていく上では当然ながら製品開発を含めたスピードも必要。品質とスピード、どちらかに偏るのはよくありません。

小口 どうバランスを取られていますか?

小松 例えば新しいテクノロジーを求めているお客様に対しては、スピードのプライオリティーを上げる。片や、普通にパソコンを使いたいというお客様にはクオリティーを重視すべきだと思います。

小口 客層によって品質とスピードの重要度が違ってくる。テレビCMで認知を高め、サポートを含む品質で安心感を高める。多くの人がパソコン自体に強い興味を持っていないからこそ、品質とスピードを兼ね備えた戦略が御社の強みになっているのですね。ありがとうございました。

(写真提供/マウスコンピューター)