ソースネクストの柱のひとつが、1990年代から数多くのヒット商品を生み出したパッケージソフトだ。べたなネーミングや文字の多いパッケージデザインなど、おしゃれや格好良さとは一線を画した戦略で勝ち抜いてきた。前回に続き、松田憲幸社長を小口氏が直撃する。

ソースネクスト 松田憲幸社長。兵庫県出身。大阪府立大学工学部数理工学科卒。日本アイ・ビー・エムのシステムエンジニアを経て、1996年にソース(現ソースネクスト)を創業。2012年より米国シリコンバレー在住。取材はオンライン会議システムを通じて行った
ソースネクスト 松田憲幸社長。兵庫県出身。大阪府立大学工学部数理工学科卒。日本アイ・ビー・エムのシステムエンジニアを経て、1996年にソース(現ソースネクスト)を創業。2012年より米国シリコンバレー在住。取材はオンライン会議システムを通じて行った

クラウドサービスをパッケージ化する意味

小口覚(以下:小口) 翻訳機「ポケトーク」は専用端末とすることで広く認知され普及しました。あえて専用機という形にする意味では、クラウドサービスである「Evernote」や「Dropbox」をパッケージソフトとして販売しているのも似ています。あれらは、安心感を狙ってでしょうか?

松田憲幸氏(以下:松田) それはあります。量販店の店頭に置いてあるから良い製品だろうと思ってもらえますし、店員さんに気軽に相談できるメリットもある。日本人は特にオンラインのみで提供されるサービスを不安に感じる傾向が強い。一部の量販店には当社の販売スタッフも常駐していますし、日本の店員さんは商品知識があり親切ですから。

小口 クラウドサービスには電話サポートすら受け付けていないものもあるのに、パッケージソフトの形にすることで直接店員さんに聞ける。このギャップは大きい。パソコンの買い替えでデータ移行に悩まれているお客さんに「Dropbox」を提案することもできますね。

松田 それこそフェース・トゥ・フェースの良さではないでしょうか。

クラウドサービスをパッケージ製品化した「Dropbox」(左)と「Evernote」(右)。3年契約となるが、割安にサービスが利用できる。現在、店頭への出荷は終了している
クラウドサービスをパッケージ製品化した「Dropbox」(左)と「Evernote」(右)。3年契約となるが、割安にサービスが利用できる。現在、店頭への出荷は終了している

小口 しかも、ソースネクストのパッケージソフトはオンラインで契約するよりも安かったりします。これは社長の交渉力によるものですか?

松田 シリコンバレーにいる目的の1つはそれです。良いものを、いち早く見つけ、交渉して日本で販売する。日本に住んでいるよりもはるかに開発元の人たちと親しくなれますし、ソースネクストは販売力があるので、大量買いができる。だからこそ安く提供できます。ベンダーが損しているわけではありません。

小口 パッケージソフトであれば、ネットに強いユーザーとは異なる層にもアプローチできる。

松田 量販店には、明確な目的を持って来られていないお客さんも多いのです。

年賀状ソフト3ブランドをソースネクストブランドにした理由

小口 御社の売り上げは、半分がポケトークで、もう半分がパッケージソフト。今売り上げの大きいタイトルは?

松田 セキュリティーソフトの「ZEROウイルスセキュリティ」と、「筆まめ」「筆王」などの年賀状・はがき作成ソフトです。

小口 その2つの年賀状ソフトは買収で手に入れた。それにも驚きましたが、まだ年賀状ソフトって売れているんですね。

松田 売れています。少なくとも利益ベースだと落ちていません。年賀はがき自体、今でも約25億枚発行されていますから。

小口 風習、文化として根強い。

松田 メールなら無料ですけど、年賀状は物が届く手段としては格段に安いですよね。切手を貼ったり封筒に入れたりする手間なしに、気持ちが伝えられる。実際、年賀状をきっかけに飲み会が実現することは多いです。

小口 年賀状は日本から米国パロアルトに届くんですか?

松田 本社に届いたものを、PDFで送ってもらいます。

小口 そこはオンラインなんですね。

松田 ヨドバシカメラさんからの出資も、年賀状をきっかけに決まりました。

小口 それはどの年賀状ソフトで作られたんですか?

松田 そのときは、ソースネクストが最初に発売した「筆休め」という年賀状ソフトでした。

小口 ありました「筆休め」。既存の競合製品にはなかなか勝てなかったのは住所録の問題ですか?

松田 ブランド力の差です。決め手になったのは、マイクロソフトさんの参入でした。マイクロソフトさんは1997年に「はがきスタジオ」をリリースし、ものすごく力の入ったプロモーションをされていたのですが、2007バージョンを最後に販売を終了しています。それを見たときに、「筆王」「筆まめ」「筆ぐるめ」以外は生き残れない、だったら全部買ってしまえばいいと、「筆王」と「筆まめ」は手に入れました。あと、Mac用年賀状ソフトの定番である「宛名職人」も買いました。年賀状ソフトを買収したのは、量販店の売り場を確保するためでもあります。また、お客様のデータベースが手に入ることも大きい。例えば「筆王」のユーザーにソースネクストの他のソフトを紹介することができます。

年賀状ソフトの「筆王」(左)と「筆まめ」(右)。どちらもソースネクストの製品だ
年賀状ソフトの「筆王」(左)と「筆まめ」(右)。どちらもソースネクストの製品だ

小口 年賀状と一緒で、人とつながる手段としての買収。

松田 なぜ「筆王」と「筆まめ」の両方を手に入れたのかというと、その2つのソフトはプロ野球に例えると、巨人と阪神のようなもので、完全にお客様の層が分かれているのです。

小口 ユーザーがかぶっていないので両方を買う意味がある。巨人ファンで、かつ阪神ファンでもある人はそういないということですね。だから、買収後もパッケージはもともとのデザインのままで販売しているんですね。

松田 鉄板のソフトなので、そこは従来のデザインを維持しています。ソースネクストの製品になったことに気づいていないお客様もいらっしゃるでしょう。

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