パソコンソフト大手として知られるソースネクスト。近年は翻訳機の「ポケトーク」がヒットし、音声翻訳機のカテゴリーで金額シェア95.9%を占める。Web会議用カメラの販売に乗り出すなど、新型コロナウイルス感染拡大にもいち早く対応した。米国パロアルト在住の松田憲幸社長を、小口氏が直撃する。
小口覚(以下:小口) 松田社長は、2012年から米国カリフォルニア州のシリコンバレーに移られています。新型コロナウイルス感染拡大や反人種差別デモの影響は?
松田憲幸氏(以下:松田) 私が住むパロアルトは、それほど変化はありませんが、昨日行ってきたサンフランシスコは、まだまだ人が少なかったです。GoogleやFacebookをはじめ多くの会社がテレワークのために街が動いていない印象です。ただ、レストランはオープンエアのテラス席であれば食べられるようになっています。今日もスティーブ・ジョブズさんが頻繁に通ったという日本食レストランで会食をして戻ってきたところです。
小口 松田社長は米国に移住された理由の1つが、取引先と直接会うと商談に効果的だからとか。新型コロナウイルス感染症拡大で変化はありましたか。
松田 私自身はランチを介して人とつながることが多いのですが、特にコロナ以降は直接会う効果の意味がさらに大きくなったのではないでしょうか。
小口 人に会いたいという欲求が強まっている。
松田 握手ができないのは痛いですが、マスクをしてでも直接会った方が、やはり親しくなりやすいです。フェース・トゥ・フェースの良さは確実にあると思います。
小口 会話には英語力が当然必要です。「ポケトーク」は、かなり以前から開発がスタートしていたとか。
松田 2001年ですから、もう19年も前です。
小口 まだ翻訳機が基礎研究レベルだった頃から目を付けていたとは驚きです。
松田 私自身、学生時代に英語をやろうと決めて、英会話学校に通いながら、なんとかTOEICで900点をとり、日本アイ・ビー・エムに就職しました。2年目から海外にも行かせてもらったのですが、それでも言葉の壁は厚かったです。結構頑張ってもこれだとすると、多くの日本人にとってはもっと大変で、翻訳機ぐらいないと大きなブレークスルーは難しいと思ったのです。
小口 まさに自分も英語はあきらめた口なので、翻訳機が実用的になって助かっています。会社員であれば、昇進のために英語のスコアを稼がなければならないでしょうが。
松田 当社では、社員に英語を習得することを強制していません。さらに今は中国の力が強くなっているので、英語だけではなく中国語も求められる時代です。英語ですら大変なのに中国語も学ぶのかと。社会人には、ファイナンスやITなど、第二外国語よりも学ぶべきことがたくさんあるはずです。
小口 ご自身が努力されて英語をマスターしたにもかかわらず、英語ができない人のことを考えてイノベーションを興される。まさに意識低い系マーケティングです。それにしても、ポケトークは音声翻訳機のカテゴリーで金額シェア95.9%、メーカー別販売台数シェアで90.5%とダントツですが、なぜこんなに強い?
松田 1つは明石家さんまさんを起用したプロモーションでしょう。1999年にタイピング練習ソフトの「特打」を発売した際も、大々的にテレビCMを打ちました。
小口 ムエタイの選手が「トクウチ、トクウチ」と連呼する。あれはインパクトありました。
松田 タイピングソフトごときにテレビCMを打つのかと何人にも言われましたが、マーケットが大きくなかったからこそ効果は大きかった。その経験から、翻訳機もちゃんとプロモーションすれば確実にいけるだろうと思っていました。実際に最初から在庫切れするお店が続出しました。
この記事は会員限定(無料)です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー