新型コロナウイルス感染拡大の影響が続くなか、売り上げを伸ばしている、オークローンマーケテイング(名古屋市)の通販ブランド「ショップジャパン」。前編「オリジナル商品で攻めるショップジャパン 在宅向けで売り上げ増」では好調な商品とその理由について話を聞いた。後編では具体的な商品開発やネーミングの妙、番組作りで重視しているポイントなどを探っていく。
愛用者へのアポイントメントは月に平均78件
小口 テレビショッピングの番組で欠かせないのが、商品の愛用者が語るコメント映像です。ショップジャパンではどうやって作っているんですか?
稲垣 ほぼ毎日、アポイントの電話をかけています。
小口 アプローチはどのぐらいの数になりますか?
稲垣 2019年度は、電話でコンタクトした件数が944件(月平均78件)、お宅を訪問した数が44件です。この他に、社内で開催する座談会も5件実施しました。商品を気に入ってくれている方は取材を歓迎してくれることが多いです。お宅に伺ったときにラーメンをごちそうになったこともありました(笑)。
小口 お宅訪問は撮影が前提で?
堀木 初回はまずお話を聞きます。どのあたりを気に入っていただけているのか、自分の言葉で話してもらえるか、話すのが得意かなどは実際に会ってみないとわからないので。出演交渉はそれからです。
小口 まるでオーディションですね。リアルなコメントを取る秘訣はありますか? いかにも台本を読んでるような通販番組もあるじゃないですか。
堀木 最終的に盛り上がったところを採用しますが、それまで2時間ぐらい話をしてもらうこともあります。
小口 リアルなコメントには助走が必要。
堀木 顧客を深く理解するという意味でも、お客様訪問は重要で、そこが弊社の強みにもなっています。
覚えてもらいやすいネーミングの秘訣とは?
小口 お客さんからのフィードバックを基に、製品を改良していくそうですね。
稲垣 そうです。例えばパーソナルクーラーの「ここひえ」は、すぐに水が減るという意見を昨年(19年)いただいたので、今年のモデルではタンクの容量を1.6倍にしました。さらに、モーターを見直して風量も増やし、持ちやすく水がこぼれにくいように取っ手を付けるなど細かく改善をしました。「クッキングプロ」も別の名前の圧力鍋を使いやすくリニューアルしたものです。
小口 かなりメーカーさんに近い。しかも、販売もしているので顧客の声が直接入ってくる。
稲垣 お客様との接点であるコールセンターは重要です。
堀木 新入社員は、札幌にあるコールセンターで数カ月間研修をします。これが本当に勉強になるんです。いろんなお客様がいらっしゃるので。
小口 クレームもあるでしょうし大変そうです。
堀木 それがリアルですし、物を売る立場として知らないといけないことです。例えば、商品名を覚えてもらえるとは限らない。
小口 「さっきの布団のアレ……」みたいな。
堀木 だから、こちらの都合でかっこいい名前にしないんです。シニアの方でも覚えやすく、電話で伝えられるようなネーミングにしています。ここだけ冷えるから「ここひえ」(冷風機)、からっと揚がるから「カラーラ」(フライヤー)、ぴたんと閉まるから「ピタント」(真空シーラー)など。
稲垣 なるべく4~5文字で、わかりやすく商品の特徴を表現しているような名前が理想です。もちろん、ネット検索で他の商品に引っかからないこともチェックします。テレビショッピングを見ながら検索するお客さんも多いので。
小口 オリジナルの名前であれば、検索でも同ジャンルの製品ではなくショップジャパンのサイトにたどり着く。一般の家電メーカーの製品では、アルファベットと数字の型番だけで覚えやすい名前が付いていないものもあって、もったいないと思うんですよね。
堀木 シニアに人気の集音器は「楽ちんヒアリング」。ベタでもお客様がわかりやすい、覚えやすいことのほうが大事です。
小口 商品としての目の付け所はシャープだけど、ネーミングは必ずしもシャープじゃなくていいわけですね。
伝えるメッセージはシンプルかつダイレクトに
堀木 ほとんどの人は、テレビショッピングの番組を集中して見てはいません。家事をしながら、何かを食べながら目や耳に入ってくる。そんな状況であっても商品が伝わらないといけない。そのためには、お客様にあまり考えさせない、シンプルかつダイレクトなメッセージが必要です。
小口 具体的には。
稲垣 例えば「セブンスピロー」という大きいサイズの枕では、“頭から背中まで7つの部位を支えることでよく眠れるようになる”という、一番の特徴だけを強調します。卵を落としても割れないという実験映像や愛用者の声など、手を替え品を替え、ひとつのメッセージを伝える。
小口 それ以外のことは言わない。
稲垣 実は日本製であるとか、特徴は他にもあるんですが、番組中に1回言うか言わないかです。メインの訴求ポイントを決めて、そこに力を入れて伝えるようにしています。
小口 角度を変えて同じことを伝え続ける。
堀木 卵を落としても割れないような映像はWOW(ワオ)動画と呼んでいますが、ばかばかしくも真面目に検証する様子は、ツイッターなどでもご評価いただいているようです。
小口 人はそういうのが見たいんでしょう。ネットの反応もチェックしてますか?
堀木 「ツインシェフ」も「ショップジャパンってこういうちょいダサだけど、面白いことやってくれるよね」というコメントをいただいたり、シャープさんのアカウントから言及されたり、ありがたいです。
小口 特徴のある商品が多いことに加えて、伝え方にエンタメ要素があることが、ショップジャパンのファンを増やしているんでしょう。「ツインシェフ」なんかもネタと実用性のバランスが絶妙ですよね。見たときに、「これホテルのバイキングが家でできるな」って思いましたよ(笑)。
「ビフォー・アフター・アフター」で共感と行動をうながす
稲垣 弊社には「ビフォー・アフター・アフター」という言葉があります。ビフォー(商品を使う前)、アフター(商品を使った効果)、アフター(使ったことでどう人生が変わるか)の3段階です。例えばダイエット商品であれば、「商品を使うことで痩せる」というアフターの次に、「水着が着られるようになる」「自分に自信が出る」といった人生の変化が起きたと伝えることで訴求効果が上がるのです。
小口 「痩せる」だけだと、「別に今困ってないし」となる人もいる。痩せたあとの人生を具体的にイメージすることで行動につながる。これは、ショッピングに限りませんが。
稲垣 ビフォーを具体的に見せることも重要です。お悩みや困りごとに共感してもらうほどストーリーに引き込めるからです。
堀木 リアルに勝るものはありません。そのためにも、私たちは愛用者の声を大事にしているのです。
集音器の「楽ちんヒアリング」の愛用者コメントを収録していたときのことです。その方はお孫さんと一緒に出演されたのですが、ビフォーは「おじいちゃんはしゃべりかけても反応がないからつまらない」でした。それがインタビューの最後に、「今度おじいちゃんと遊んでくれる?」とお孫さんに話しかけ、お孫さんが「うん」と答える。それを聞いたおじいちゃんは泣いてしまいました。人生に大きな変化が起きたわけです。
稲垣 収録に立ち会った私たちも、もらい泣きしました。
小口 こうなるとドキュメンタリーですね。今後はテレビショッピングを見る目も変わる気がします。ありがとうございました。
(写真提供/オークローンマーケティング)