オークローンマーケティング(名古屋市)が展開する「ショップジャパン」は、テレビショッピングでおなじみの通販ブランド。フィットネス機器や家電分野などでヒット商品を連発している。商品開発や販売戦略について、オークローンマーケティングの稲垣みずほ本部長と堀木宮子部長に小口氏が直撃した。
テレビ通販の利用者が増加 新規顧客をつかむ
小口 新型コロナウイルス感染拡大の影響で売り上げは?
稲垣みずほ氏(以下:稲垣) 緊急事態宣言以降、全体的に上昇し、5月は前年同月比145%となりました。在宅の影響で視聴率が上がり、テレビ通販の利用、中でも新規のお客さんが増えました。
小口 特に売れた商品は?
稲垣 売り上げが最も高かったのは、ロングセラーでもある「トゥルースリーパー」です。
小口 低反発マットレスなどの寝具シリーズですね。
稲垣 一般的に寝具は同じものを使い続ける傾向が強く、無関心な人が多いのですが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で生活環境が変わった人が多いのか、以前より売れるようになりました。ストレスやバイオリズムが変わったことで睡眠の質が下がった、もしくは自宅をより快適な環境にしたいという意識から選ばれたと考えています。
小口 新型コロナウイルス感染拡大以降、生活を重視するようになったという声をよく聞きますね。
稲垣 もう一つ成長したのはキッチンの分野です。電気圧力鍋の「クッキングプロ」や、食品を真空保存する容器「フォーサ」の売り上げが目立ちました。
小口 外食できなくなったからでしょうか。もともと電気圧力鍋ははやっていましたが、その流れをつくったのが「クッキングプロ」でしたね。
稲垣 電気圧力鍋は、3月、4月の暖かくなってくる季節には例年売り上げが下降するんです。それが今年は落ちることなく売れ続けました。
小口 季節性を無視するほどに売れたと。
稲垣 そうです。在宅ワークや、お子さんの学校が休みになり、食事を作る回数が増えたこともあり、ほったらかし調理や作り置きのための製品にニーズがあったと考えています。
小口 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、衣食住の「食」と「住」を充実させようという意識は強まりましたね。出かける機会が減ったので「衣」のアパレルは惨たんたる状況ですが。
稲垣 フィットネス分野も伸びました。エクササイズマシンは例年暖かくなると売り上げが伸びるのですが、今年はその立ち上がりが早かった。
音楽CDセットの売り上げまでもがアップ
小口 フィットネスジムが閉鎖されていましたし、外出自粛による運動不足解消に売れたのでしょうか。逆に売れなくなった商品は?
稲垣 特にないですね。
堀木宮子氏(以下:堀木) 売り上げが全体的に伸びたと申しましたが、音楽CDですら売れたんです。もう音楽CDの時代ではなくなってきましたし、売り上げは下降していたのに、緊急事態宣言以降は売り上げが上昇した。これは予想外でした。
小口 ステイホーム効果! どんなタイトルのCDが売れるんですか?
堀木 ロングセラーの「ヒーリング・クラシックス」です。
小口 コロナ鬱を癒やしたい。
堀木 なかなか外に出かけられなかったですし、中高年の方にとっては、ネット通販で音楽CDを買おうとしても通販サイトの情報量が多すぎて選びにくい。だったら最初から名曲を選んでくれているセットをと。
小口 考えなくて済むのがいい。しかし、家の中でできることは限られてきますね。寝るか食べるか、音楽や映像を楽しむか、ちょっとした運動をするか。ショップジャパンの商品は、スマホやパソコンでできること以外をだいたい取り込んでいる。
中国の展示会とリモートで商談
小口 新型コロナウイルス感染拡大は通販業界全体にとっては追い風となりましたが、この影響はいつまで続きそうですか?
稲垣 正直、読みきれていません。ただ、これまでは「新型コロナの影響」と言っていたのを、最近は「在宅の影響」と言い換えるようにしています。新型コロナウイルス感染拡大は収束するかもしれませんが、在宅ワークなど新しい働き方により、ライフスタイルが変化するはずだからです。弊社も在宅ワークが推奨されていますし、働き方改革が進むことを想定し、どういう商品開発が望ましいか考えるようになってきています。
堀木 今までは意識してこなかった、家でお仕事をする人がターゲットに加わりました。意識するユーザー像が増えたことで、商材自体も幅広くなっていくはずです。
小口 今日もオフィスには人が少ないようですが、御社自体、在宅ワークを継続されている?(取材日は6月19日)
稲垣 今は“withコロナ”のフェーズで、出勤者数は30%ほどに抑えられています。これは今後も継続する方向です。
小口 それでも問題なく業務は遂行できているんですね。
稲垣 毎週100人規模のオンライン会議もありますが、違和感はなくなってきました。むしろ通勤や出社によるストレスがなくなるなど、ポジティブな側面が大きいですね。
小口 逆に出社するシチュエーションは?
稲垣 商品のサンプルチェックなどですね。一つしかサンプルがない場合は、色味などを確認するために出社しています。
堀木 番組を作る映像制作の作業も変わりました。オペレーターが作業している映像編集の画面をリモートで共有し、担当者が遠隔地からテロップの入れ方などの指示をする。多少のタイムラグは生じますが、リモートで問題なく作業できています。
商材の発掘や交渉もリモートになりました。例えば中国の広州で開催される大規模な展示会「カントンフェア(広州交易会)」があります。商品が約100万点あるんですが、私たちはそれを画面でチェックして、詳細に知りたい場合はメールでコンタクトを取り、直接ビデオ会議で商談をするという流れです。
小口 海外にはまだ行けないですからね。生産管理などは?
稲垣 中国国内に拠点を持っているので、向こうのスタッフがケアしてくれることが大きいです。国内の移動は問題ないので。
あのテレビショッピング番組との違い
小口 テレビショッピングと言えば、ジャパネットたかたさんとの違いが気になります。
堀木 もう、全然違いますよ。ジャパネットたかたさんはメジャーメーカーの商品を中心にラインアップされている印象です。
小口 「サイクロン掃除機と言えばダイソン!」(高田社長の声色で)みたいな。(笑)
稲垣 ショップジャパンは大手家電メーカーの商品は扱っていませんし、ここでしか買えないものが中心なので、どちらかというとメーカーに立ち位置が近いでしょう。
小口 割安感を売りにした量販店ではないと。個人的にはショップジャパンには東急ハンズが登場したときに感じたような、ワクワク感がありますね。変わった商品というか、目新しい、面白い商品も多い。売り込みが多数ある中で、売る商品をどう選んでいるのでしょうか。
稲垣 テレビショッピングが主ですから、まずは番組で特徴を29分で説明できるかどうか。そして、その商品がユニークであり、お客さんの悩みを解決できるかどうか。これらは創業当初から重視している点です。
堀木 例えば掃除機のカテゴリーでも、他社と同じ土俵でスペックを競うのではなく、かがまずに雑巾がけができる「床快(ゆかい)ワイパー」のようにあさっての方向から解決策を提案します。ニッチをメジャーにするというイメージが私たちの文化の中にあります。
小口 “目の付け所がシャープでしょ”的ですね。後編では製品開発や、愛用者コメントなどTV通販ならではのワザについてお聞きします。
(写真提供/オークローンマーケティング)