東京・関東圏を中心に展開する「江戸切りそば ゆで太郎」。2018年には200店舗を突破し、名代富士そば、小諸そばと並ぶ3大チェーンの地位を確立した。ゆで太郎は後発でありながら、なぜ急成長できたのか。FC展開を目的に設立されたゆで太郎システムの池田智昭社長を小口氏が直撃する。

ゆで太郎システム池田智昭社長。1957年生まれ。「ほっかほっか亭」のFC経営、本部のスーパーバイザー、取締役を経て、2004年に信越食品が運営するそば店「ゆで太郎」をFC展開するゆで太郎システムを設立(写真/渡貫幹彦)
ゆで太郎システム池田智昭社長。1957年生まれ。「ほっかほっか亭」のFC経営、本部のスーパーバイザー、取締役を経て、2004年に信越食品が運営するそば店「ゆで太郎」をFC展開するゆで太郎システムを設立(写真/渡貫幹彦)
※本記事の取材は3月6日に行いました

ゆで太郎は立ち食いそば屋じゃない!?

小口: 現在、ゆで太郎システムチェーンは173店舗、信越食品が運営する直営店と合わせて209店舗(2020年3月現在)。年間20店舗近いペースで増えている。なぜ、これほど多く出店できるのでしょうか。

池田智昭さん(以下:池田): 富士そばさん、小諸そばさんは、工場から商品を配送しているため、出店できるエリアが限られます。うちは各店舗に製麺機を置き、粉からそばを作っているので1店からでも出店できる。実際、新潟は1店、富山は3店しかない。それと、ゆで太郎は一般的な立ち食いそばとは違うコンセプトで運営しています。

ゆで太郎システムチェーンの店舗は2020年に185店舗に達する見込み。売り上げも伸び続けている(写真提供/ゆで太郎システム)
ゆで太郎システムチェーンの店舗は2020年に185店舗に達する見込み。売り上げも伸び続けている(写真提供/ゆで太郎システム)

小口: えっ、ゆで太郎は立ち食いじゃない!? テーブル席は確かに多いですが……。

池田: 創業者(信越食品の水信春夫社長)が、立ち食い形式でゆで太郎を開業したのは事実ですが、私は最初から立ち食いそばと思ったことがありません。昔からある“町のそば屋”をやりたかった。立ち食いそばは、駅の中にあったそば屋が駅の外に出たようなもので、駅の近くでないと売れないとか立地が制限される。しかし町のそば屋は町の中にあります。だからゆで太郎は都心部に限定せず、郊外にも多く出店しています。そういう意味で立地は無限大です。

小口: ここは大事なので整理させてください。池田さんが考える立ち食いそばは、忙しいサラリーマンが仕事の合間に駅近でさっと食べるものですが、ゆで太郎は地元密着のそば屋さんだと。だからそもそも立地が一番違っていて、都心の駅近にあるゆで太郎だけを見ると立ち食いそばのような印象ですが、実は郊外のロードサイドにもたくさん店舗がある。週末になると家族連れで訪れるお客さんも多い。しかも、繰り返しになりますが、一般的な立ち食いそばでは麺やトッピング類は工場からまとめて配送されるものですが、ゆで太郎は店舗で作っている。天ぷらも揚げている。確かに一般的な立ち食いそばよりも町のそば屋の業態に近いですね。

池田: どちらが優れているかではなく店のコンセプトが違うんです。昔からある、家業としての町のそば屋はどんどん減っている。繁盛していても、休みもボーナスもないから子供が継がない。客から見たら“潰れた”ように見えても、店からしたら“やめた”が正確な言い方でしょう。うちにも新卒でそば屋の息子が入ってきたけど、「家業は継がない」と言うし。

小口: いわゆる町中華よりも減っている印象です。一方で、手打ち系の個人店は今でも新規に開業しています。脱サラで始めるような「意識高い系」の。

池田: そのタイプは当たる人もいれば、すぐ潰れる人もいる。手打ちはうんと売れると体を壊してしまうんです。かなりの力仕事ですから、たくさん打つのは無理。事業としては難しい。

小口: 何千円も取れるような有名な高級店ならまだしも……。

池田: 高級店と安い店の間が厳しいですね。すし屋でも、例えばすきやばし次郎なら3万円か4万円かかっても客は途絶えないし、一方で回転ずしも安いので人気です。しかし、町のそば屋にはそうした安い店がなかった。そこで始めようと思ったんです。

小口: その前は、ほっかほっか亭で取締役をされていました。外食産業のプロとして、この業態はいけるぞと思った決め手は?

池田: 弁当屋は先がないからやめようと思ったときに、偶然そばの話がいくつか来た。でも、高級そば懐石や山形の板そば事業の話とかで、聞いていてちょっと待てよと、そばだったらゆで太郎がいいよなと。以前に食べておいしいと思っていたので、創業者の水信さんに連絡を取って話を聞かせてもらいました。すべての店のPL(損益計算書)も見せてくれて、それがとても良かったんです。

江戸切りそば ゆで太郎 西五反田本店(写真/渡貫幹彦)
江戸切りそば ゆで太郎 西五反田本店(写真/渡貫幹彦)

小口: そしてFC展開を目的としたゆで太郎システムを作られた。FC化で、従来のゆで太郎から変わった部分は?

池田: FCは素人がやるので、マニュアルが必要です。前からいるような職人は言うことを聞いてくれないので、マニュアルを作って守らせることから始めました。ひどいんですよ、最初は調理場でタバコ吸っている人もいたし。

小口: 昔はどの店もそうでしたよね。

池田: そば屋は一番ひどい。なぜかというとクローズドキッチンだから。客から見えないから汚くしていても平気だし。そこで、オープンキッチンへと変えました。

小口: ゆで太郎では、製麺機も客席から見えます。

池田: 外から見えたら恥ずかしいと水信さんは言ったけど、恥ずかしくないよ、誰も見たことがないんだから見せようよと説得しました。偉そうなことは言えないんですけど、伝統的な人たちは頭が固くて勉強しない場合が多いので明治、昭和の時代からそのままなんです。その点、水信さんは頭が軟らかい人なので納得してもらえた。

ゆで太郎は、店内の見える場所で製麺している(写真/小口覺)
ゆで太郎は、店内の見える場所で製麺している(写真/小口覺)

小口: そば屋さんにも、ようやく近代化の波が来た。

池田: ゆで太郎は回転ずし、もしくはユニクロと同じ。製造販売を一貫して行うSPAであり、ファストカジュアルとしてできた。うどん屋さんだと「はなまるうどん」「丸亀製麺」がそれを確立した。それまで、うどんって東京では高いものだったじゃないですか。ゆで太郎はそれをそば屋で行った。

小口: ファストフードとファミリーレストランの中間ですかね。

池田: 専門店でありながら安く料理を提供する。町のそば屋をセルフサービスで安くして、営業時間を長くしたのがゆで太郎だと思ってください。

小口: 見た目は立ち食いそばのように見えても、業態は町のそば屋、そこが急成長の理由と言えそうですね。確かに個人店で長時間営業は難しいでしょうね。お昼をすぎると休憩で閉まるところもある。ゆで太郎は午後の2時、3時といった中途半端な時間でも開いているので、お昼を食べ損なったときによく利用します。しかも、そばなら軽いので夜に響かない。

池田: 普通、飲食店は昼と夜に客が集中します。ところが、そばは朝から夜まで、どの時間帯も売れるんです。長年、業界を見てきたけどこんな飲食は他にないです。

だしを取る時間を5分に短縮

小口: ゆで太郎は自家製麺、「挽(ひ)きたて」「打ちたて」「茹(ゆ)でたて」にこだわられている。

池田: 午前と午後、1日2回製麺することで、おそばの鮮度を保っています。そば粉と小麦粉しか使っていないので、茹で置きはできません。伸びてしまいますから。

 だから年越しそば(持ち帰りの生麺)もたくさんは作れないし、通販もしません。販売は大みそかの夜から。それでも2万食(4万人分)が売れた。店にも6万人ぐらい来ます。創業者が「大みそかは売れないよ」と言うので初年度は休みましたけど、そんなわけないよなと翌年からやってみたら売れた。

小口: 町中にある、町のそば屋として認識されていることの表れかもしれませんね。

池田: さらに、そばつゆは6リットルずつ作っています。普通は30リットルぐらい一気に作るんですけど、疑問に思って3、4年前から少量ずつにした。時間がたつと味は保てても香りはすぐに飛んでしまうので、こうして必要な分だけこまめに作ることで香りを逃さないようにしています。フードロスも減らせます。そのために、かつお節を微粉末に加工してもらい、5分でだしが取れるようにしました。

小口: 合理的ですね。

池田: こうしたことは、そば屋をやっていなかった素人だったから思いついたのかもしれません。

「挽きたて」「打ちたて」「茹でたて」にこだわり、店内で1日2回製麺している(写真/小口覺)
「挽きたて」「打ちたて」「茹でたて」にこだわり、店内で1日2回製麺している(写真/小口覺)
【意識低いポイント】「素人だったから思いついたのかもしれません」
オープンキッチンに製麺機の設置、粉末から取るだしなど、伝統的なそば屋の世界からは外れている。外食産業のプロでありながら、そば屋をやっていなかったといういい意味での素人だったため大きなイノベーションが生まれたのだろう。

小口: 製麺機はゆで太郎用に特注されたものだとか。

池田: ええ。メーカーは最初、製麺機は永久に使えると言ってましたが調子が悪くなってくるので、今は定期的に交換しながら使っています。メーカーに永久に使えないじゃないかと言ったら「ゆで太郎さんは普通のそば屋の10倍使っているから無理です」と。

小口: メーカーが想定する客数じゃないと。どこが壊れるのですか?

池田: 金属疲労でだんだんゆがむんです。組み直してもらえば元に戻るんですけど。券売機も消耗品で、5年もすれば壊れます。19年からタッチパネルの券売機の導入を始めました。うちは、他人の後からやる主義なので皆が慣れた頃に採用するようにしています。キャッシュレスは20年2月からテスト中ですが、普及しているのは都心部ですよね。例えば地方で電車に乗ることが少ない人はSuicaを持っていない。

小口: キャッシュレスは、使う側にとっては楽でいいですけど。

池田: キャッシュレスには便利さで来客が増えることと、ワンコイン(500円)の壁を崩してくれることを期待しています。500円のメニューが売れるんですけど、そこに100円のトッピングを加えてもらうのが難しい。その抵抗感がキャッシュレスで薄れてくれれば客単価が上がるのではと思って様子を見ています。

タッチパネルの券売機やキャッシュレスで利用できる券売機の導入を始めた(写真/小口覺)
タッチパネルの券売機やキャッシュレスで利用できる券売機の導入を始めた(写真/小口覺)

小口: 今、客単価は?

池田: 460円です。これは券売機の単価なので、(1度に複数人が購入したりするので)実際はもうちょっと低い。土日は家族連れで来店して一度に2000円や2500円分食べてもらえることもあるので、地域で見ると郊外のほうが高く、特に土日に跳ね上がります。滞在時間も都心より長いし、がっつり食べる場合も多い。それに比べて都心部は客単価が低くて、もりそば1枚という人が多い。何しろお客様の中心である働くお父さんが一番お金を持っていないんです。

小口: そうらしいですね。

池田:  若い人の給料は上がっていても、おやじ世代は給料が上がらなくてつらい。50代以上は年功序列が崩れ、税金や社会保障費が上がったので手取りが減ってしまっている。でも、そこがうちのお客さんじゃないかと。

小口: ぜひうちの近所に出店してください!

(後編では、ゆで太郎のメニュー開発、全国展開の戦略、新規事業の「もつ次郎」について伺います)