だしを取る時間を5分に短縮

小口: ゆで太郎は自家製麺、「挽(ひ)きたて」「打ちたて」「茹(ゆ)でたて」にこだわられている。

池田: 午前と午後、1日2回製麺することで、おそばの鮮度を保っています。そば粉と小麦粉しか使っていないので、茹で置きはできません。伸びてしまいますから。

 だから年越しそば(持ち帰りの生麺)もたくさんは作れないし、通販もしません。販売は大みそかの夜から。それでも2万食(4万人分)が売れた。店にも6万人ぐらい来ます。創業者が「大みそかは売れないよ」と言うので初年度は休みましたけど、そんなわけないよなと翌年からやってみたら売れた。

小口: 町中にある、町のそば屋として認識されていることの表れかもしれませんね。

池田: さらに、そばつゆは6リットルずつ作っています。普通は30リットルぐらい一気に作るんですけど、疑問に思って3、4年前から少量ずつにした。時間がたつと味は保てても香りはすぐに飛んでしまうので、こうして必要な分だけこまめに作ることで香りを逃さないようにしています。フードロスも減らせます。そのために、かつお節を微粉末に加工してもらい、5分でだしが取れるようにしました。

小口: 合理的ですね。

池田: こうしたことは、そば屋をやっていなかった素人だったから思いついたのかもしれません。

「挽きたて」「打ちたて」「茹でたて」にこだわり、店内で1日2回製麺している(写真/小口覺)
「挽きたて」「打ちたて」「茹でたて」にこだわり、店内で1日2回製麺している(写真/小口覺)
【意識低いポイント】「素人だったから思いついたのかもしれません」
オープンキッチンに製麺機の設置、粉末から取るだしなど、伝統的なそば屋の世界からは外れている。外食産業のプロでありながら、そば屋をやっていなかったといういい意味での素人だったため大きなイノベーションが生まれたのだろう。

小口: 製麺機はゆで太郎用に特注されたものだとか。

池田: ええ。メーカーは最初、製麺機は永久に使えると言ってましたが調子が悪くなってくるので、今は定期的に交換しながら使っています。メーカーに永久に使えないじゃないかと言ったら「ゆで太郎さんは普通のそば屋の10倍使っているから無理です」と。

小口: メーカーが想定する客数じゃないと。どこが壊れるのですか?

池田: 金属疲労でだんだんゆがむんです。組み直してもらえば元に戻るんですけど。券売機も消耗品で、5年もすれば壊れます。19年からタッチパネルの券売機の導入を始めました。うちは、他人の後からやる主義なので皆が慣れた頃に採用するようにしています。キャッシュレスは20年2月からテスト中ですが、普及しているのは都心部ですよね。例えば地方で電車に乗ることが少ない人はSuicaを持っていない。

小口: キャッシュレスは、使う側にとっては楽でいいですけど。

池田: キャッシュレスには便利さで来客が増えることと、ワンコイン(500円)の壁を崩してくれることを期待しています。500円のメニューが売れるんですけど、そこに100円のトッピングを加えてもらうのが難しい。その抵抗感がキャッシュレスで薄れてくれれば客単価が上がるのではと思って様子を見ています。

タッチパネルの券売機やキャッシュレスで利用できる券売機の導入を始めた(写真/小口覺)
タッチパネルの券売機やキャッシュレスで利用できる券売機の導入を始めた(写真/小口覺)

小口: 今、客単価は?

池田: 460円です。これは券売機の単価なので、(1度に複数人が購入したりするので)実際はもうちょっと低い。土日は家族連れで来店して一度に2000円や2500円分食べてもらえることもあるので、地域で見ると郊外のほうが高く、特に土日に跳ね上がります。滞在時間も都心より長いし、がっつり食べる場合も多い。それに比べて都心部は客単価が低くて、もりそば1枚という人が多い。何しろお客様の中心である働くお父さんが一番お金を持っていないんです。

小口: そうらしいですね。

池田:  若い人の給料は上がっていても、おやじ世代は給料が上がらなくてつらい。50代以上は年功序列が崩れ、税金や社会保障費が上がったので手取りが減ってしまっている。でも、そこがうちのお客さんじゃないかと。

小口: ぜひうちの近所に出店してください!

(後編では、ゆで太郎のメニュー開発、全国展開の戦略、新規事業の「もつ次郎」について伺います)