お客さんはオタク、社長も社員も全員オタクの不動産屋「おたくのやどかり」。友人への賃貸物件の紹介から始めて2016年に法人化。人気コスプレイヤーとのコラボがSNSで話題になるなど、現在は取り扱い件数が年間2100件ほどまで事業が拡大した。20年には拠点を2カ所増やすという。なぜ、オタクしばりの不動産事業を始めたのか、オタクならではの戦略とは? 社長の平田知彬氏を小口氏が直撃した。

「おたくのやどかり」公式サイト。モデルは有名コスプレイヤー・歌手の五木あきらさん
「おたくのやどかり」公式サイト。モデルは有名コスプレイヤー・歌手の五木あきらさん

特定の利用者に特化した、怖くない不動産業者

小口: 不動産屋というと地域密着というイメージがあります。渋谷の物件は渋谷で探す……みたいな。なので「オタク」という客層でほかと差別化しているのは珍しいと思いました。しかも、おたくのやどかり(以下:おたやど)はSNSでの存在感が大きくオンリーワンな存在です。社長は創業前から不動産業界に?

平田知彬さん(以下:平田): 私もゲームオタクだったのですが、別の会社で投資用マンションの売買をしていました。そこから独立し、しばらく1人でやっていたのですが、「平田が不動産屋を始めたらしいぞ」と、オタク仲間から声がかかるようになったんです。でも、マンションなどの売買は1回の手数料が大きく、ひと月1~2件の成立でも生活できるのですが、家賃6万の部屋を紹介しても売り上げは3万とか……。

小口: 物件の売買に比べるとしょぼい。

平田: 申し訳ないけど断っていました。「やり方を教えてあげるから、他の不動産屋に行きなよ」と追い払うわけですが、それでもヘンな部屋を紹介されたり、どう考えてもお金を余計に取られたりしている人があとを絶たなくて。

小口: オタクはぼったくられる?

平田: なめられやすいので損することが多いと思います。「こいつちょろいな」と判断されると、売り上げが高い物件しか紹介しない不動産屋も正直いますからね。

小口: オタクは文句を強く言ってこないだろうと。

おたくのやどかりを運営するグランツアセット社長の平田知彬さん。2011年、新宿の不動産売買コンサルティング会社へ入社。3年間売り上げトップの営業成績を収め、14年に独立。16年、不動産売買仲介を中心とする事業を法人化
おたくのやどかりを運営するグランツアセット社長の平田知彬さん。2011年、新宿の不動産売買コンサルティング会社へ入社。3年間売り上げトップの営業成績を収め、14年に独立。16年、不動産売買仲介を中心とする事業を法人化

平田: あまりにも依頼が多くなったので、仲介を受けるようになったらクチコミで件数が増えて、月に20件から30件ぐらいになった段階でサイトを立ち上げました。

小口: オタクでなくても、不動産屋さんへの不信感はあったりしますよね。店頭に貼ってあるのは、おとり物件なんじゃないかとか(笑)。

平田: 普通の人は、「変な物件を紹介されないようにしよう」と思って、警戒してしまうことが多々ありますよね。だまされまいと思って入店すると、その時点で部屋探しのハードルがひとつ上がってしまう。うちのお客さんはネットのクチコミから入って来るし、我々は最初から味方です。物件は全部見せるので探しやすいし、社員も全員オタクなので優しい。(物件を)ゴリ押ししないんです。

小口: オタク相手ならではの接客などはありますか?

平田: お問い合わせは「LINE@」(店舗・企業向けサービス)で受けているので、来店はもちろん電話をかけなくて大丈夫です。

小口: 本名や顔をさらすことなく、SNSやチャットのような気軽さで問い合わせられる。メールのように返信を待つ必要もない。やっぱりオタクの人は電話が嫌い?

平田: 電話したくないという人は結構いますね。

小口: 若い世代はもちろん、社会全体が電話離れしているので、オタクに限らずこうした窓口はマストになっていくでしょうね。

平田: それからゲームをやる人はネット回線のスピードを重視します。特に「FPS(First-Person Shooter)」と呼ばれるゲームや格闘ゲームでは、1秒あたりのフレームレートが勝敗を分けますから。普通の不動産屋だと、物件にネット回線が入っているかどうかぐらいしかわかりませんが、うちは回線の業者まで細かく調べて把握していて、回線の速い物件を紹介できます。ゲーマーにとって(おたやどを)使わない理由がないですね。

小口: お客さんはオタク100%ですか?

平田: オタクレベルの違いはありますが、ほぼ100%ですね。やしろさん(※)のマンガを読んでやって来るライトなオタクからコアなゲーマーまで。内訳はゲームオタクが6割で一番多い。あとの4割は、不動産屋なのに怖くなさそうで安心だからという理由が多いです。最初は男性が圧倒的に多かったですが最近は女性のお客さんも増えています。

※Web漫画家のやしろあずきさん。同社の執行役員を務める。

小口: 怖くないのは女性にとっても安心ですね。

不動産業界は地域ではなく客層による差別化が進む?

エレベーターを降りると、同社の執行役員でもあるWeb漫画家・やしろあずきさんのパネルと人気キャラ“ババア”の着ぐるみがお出迎え
エレベーターを降りると、同社の執行役員でもあるWeb漫画家・やしろあずきさんのパネルと人気キャラ“ババア”の着ぐるみがお出迎え

小口: 礼金や敷金などの費用は他の不動産屋さんと同じですか?

平田: うちは全ての物件で仲介手数料が50%オフです。おたやどは、実績と信頼度が高いと自負しておりますので成約率はめちゃくちゃ高いです。通常は10人問い合わせがあって1人契約できるかというレベルだと思いますが、おたやどの場合は10人きたら8人は契約になります。ゆえに、1人から多くお金を取らなくても経営できます。

小口: でも手数料は無料のお店も見かけますが。

平田: ええ、でかでかと手数料無料の看板を掲げている店もありますが、そうした店は手数料を無料にできる管理物件しか紹介しないと考えていいと思います。その不動産屋の所有、もしくはオーナーから直接預かっている管理物件は、手数料が取れなくても収入が入ってくるからです。

 管理物件ばかり紹介されると、当然本人の要望と合わないことが多くなります。お客さんもアホじゃないのでそれが分かるんですよ。ネットで検索したら出てくるのに、なんでこの物件を紹介しないんだと。うちは全ての物件を紹介して、なおかつ手数料半額。「うちで見つからなかったら、他でも見つかりません。条件を変えるか部屋探しを諦めたほうがいいですよ」と平気で言ってしまいます。

小口: 今は不動産業界は共通の賃貸物件データベースを使っていますが、それでも全ての物件を見せてくれるかどうか、親身に探してくれるかに違いがあり、そこが重要なんですね。

平田: 先ほど、不動産屋は地域密着というイメージがあるとおっしゃっていましたが、実は渋谷に住みたいから渋谷の不動産屋に行っても、そこに渋谷の物件がたくさんあるというわけではありません。

小口: だから地域ではなく特定の客層に特化した不動産屋さんが生まれてきたんですね。生活保護受給者向けや外国人、水商売専門といった不動産屋さんでは、審査が通りやすい物件やノウハウを持っていると思いますが、オタクは嫌だって言う大家さんを説得するなんてこともありますか?

平田:オタクは審査でバレないので大丈夫です(笑)。店舗では社員全員が背広を着て対応するなど、社員もオタクだけど仕事はちゃんとしていることを売りにしています。

今のオタクは場所にあまりこだわらない

小口: しかし、ここのお店はすごく良い立地(新宿三丁目)にありますね。賃料が高そうです。

平田: 正直、インターネットだけでも営業できますし、立派な店舗を構えないほうが利益は大幅に増えますけど、店舗の立地が良いとお客さんが安心するんです。“おたくのやどかり”ってそもそも名前が怪しいじゃないですか。

 だから店舗は良い立地に置いています。不動産屋からすると新宿がアクセス面でいちばん良い。ここからどこにでも行けるので物件案内に行くのに便利なんです。

近くには伊勢丹新宿店の本館、窓の向こうには新宿マルイ メン。新宿五丁目交差点の角という好立地だ
近くには伊勢丹新宿店の本館、窓の向こうには新宿マルイ メン。新宿五丁目交差点の角という好立地だ

小口: なるほど。エリアは関東全域?

平田: 東京と、千葉、埼玉、神奈川の4都県です。現在は新宿に2カ所と横浜の3拠点ですが、20年は秋葉原と赤羽に店舗を作る予定です。

 赤羽は埼玉方面、秋葉原は千葉方面のお客さんを案内するためです。千葉方面は、小岩や松戸のほうが安いんですが、ブランド的なイメージづくりもあって。

小口: オタクといえば秋葉原のイメージですもんね。秋葉原の物件を探す人も多い?

平田: 秋葉原は観光地になっていて家賃も高いのでそうでもありません。今のオタクは場所にはそんなにこだわらないですね。

小口: ジャンル的には今後どこを攻めようとかありますか?

平田: 行くとすれば格闘ゲームのファンですね。そこを攻めようかなと。

 でも実は、宣伝しづらい状況なんです。社員が足りないのにお客さんが来すぎている状態で、人材募集にいちばん困っています。社員もオタクというしばりをちょっと緩めて、オタクに理解のある人全般にしようかなとも思いましたが、オタクじゃないと居づらいかもしれませんしね(笑)。

サイトには不動産業界の闇を暴露する記事が掲載されている(漫画はやしろあずきさん作)
サイトには不動産業界の闇を暴露する記事が掲載されている(漫画はやしろあずきさん作)