千葉県のローカル私鉄ながら全国区の知名度を誇る銚子電鉄。前回は、その屋台骨「ぬれ煎餅」を見てきたが、今回はスナック菓子「まずい棒」の誕生秘話やダジャレ尽くしのイベント列車と映画製作について。自ら電車の運転までこなす銚子電気鉄道の竹本勝紀社長を、小口氏が直撃する。

竹本勝紀社長。1962年(昭和37年)、千葉県木更津市生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。千葉県内の税理士事務所勤務の後、2009年に竹本税務会計事務所を開設。05年より銚子電気鉄道顧問税理士、08年社外取締役、12年代表取締役に就任。銚子電気鉄道は社員数30名。主業は米菓製造業で、18年度の売上高は約5億1500万円
竹本勝紀社長。1962年(昭和37年)、千葉県木更津市生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。千葉県内の税理士事務所勤務の後、2009年に竹本税務会計事務所を開設。05年より銚子電気鉄道顧問税理士、08年社外取締役、12年代表取締役に就任。銚子電気鉄道は社員数30名。主業は米菓製造業で、18年度の売上高は約5億1500万円

本当にまずくしたかもしれなかった「まずい棒」

小口: ぬれ煎餅の次に収益をもたらしているのは?

竹本勝紀さん(以下:竹本): もちろん切符……、ではなく「まずい棒」です。1年2カ月で120万本以上買っていただいた。まずい棒がなければ、銚子電鉄は潰れていたでしょう。アイデアを出してくれたのは、「離婚式」や「涙活」で有名な文筆家の寺井広樹さん。彼と知り合ったのは、外川駅(銚子電鉄の終点)の駅名ネーミングライツがきっかけです。

「まずい棒」は2018年8月3日(破産の日)に販売開始。「コーンポタージュ味」と「チーズ味」「ぬれ煎餅味」の3種類
「まずい棒」は2018年8月3日(破産の日)に販売開始。「コーンポタージュ味」と「チーズ味」「ぬれ煎餅味」の3種類

 命名権を購入してくれた千葉県松戸市の住宅メーカー、早稲田ハウスが社名や商品名ではなく「ありがとう」と命名してくれたんです。そして、ありがとう駅誕生のニュースを見て寺井さんが会社に電話をしてきたんです、「全米感涙協会の寺井と申します。ありがとう駅を “感涙駅第1号”に認定させてくれ」と。訳が分かりませんよね(笑)。

小口: 全米が泣いた、ってやつですか?

竹本: 話を聞いてみると、涙を流せる映画などを表彰する団体ということで、過去には映画『蜩ノ記(ひぐらしのき)』に主演した俳優の役所広司さんなども表彰されている。2016年3月9日(サン・キューの日)に外川駅で感涙駅認定のイベントを行うことになりました。それをきっかけに、寺井さんに「お化け屋敷電車」などの企画をお願いすることになったんです。

 そして付き合いが深くなる中で、「まずい棒をやりたいんです」と打ち明けられた。最初はピンときませんでした。だって、まずかったら売れないじゃないですか。とはいえ、いろいろアイデアは出しました。清水義範さんの短編小説に『全国まずいものマップ』という、架空のまずいものを紹介していくものがありますが、そこに原材料が“牛のよだれ”というのがあって、それはどうだろうとか。「商いは牛の涎(よだれ)」ということわざもあるし、うちも細く長くやっていければと真剣に検討したこともあったのですが、やっぱり売れないだろうと。

小口: 買わないです。

竹本: 寺井さんも困っちゃって、「思い切って無味無臭はどうでしょう」なんて迷走した末に、いったん話は立ち消えになった。ところが、味自体をまずくするのではなく、「経営がまずい」という言い訳はどうかとひらめき、一気に商品化への道が開けました。

【意識低いポイント】「話を聞いてみると」
企業には怪しい問い合わせや依頼が多数来るものだが、とりあえず話を聞いてみたところから、結果的には「まずい棒」のヒットが生まれた。一様に門前払いにしないオープンな姿勢がチャンスにつながったと言えよう。

小口: パッケージには漫画家の日野日出志先生によるキャラクター。鉄道ファンで知られるタレント、中川礼二さんに似てると話題になりました。

竹本: これは私がモデルなんですが、原案ではもっと目が血走っていて怖かったんです。かみさんや娘に絶対嫌だと言われて、やさしくしてもらったんですよ。

小口: 日野先生はホラー漫画家ですから、怖いのが正しい気もしますが、結果的に礼二さんに似て話題になったから正解ですかね。しかし、パクリだと訴えられそうな、ぎりぎりの線を攻めますね。

竹本: もう、怒られてばかりですよ。OKをもらったところはないな。

小口: 怒られてナンボだと。

竹本: この年末(19年12月18日)には、「スーパーまずい棒」を販売します。開けてみるとカビのような緑色をしたまずい棒です。見るからにまずそうですが、食べてみると炭火地鶏味。目を閉じて食べるとおいしいので、キャッチコピーは「目を閉じて食べなよ♪」。

小口: 顔はやつと違うから……って、ロックバンド BARBEE BOYS(バービーボーイズ)の「目を閉じておいでよ」からですよね。

竹本: 味はあのおやつと違うから……。いくらで売ろうか悩みましたが、結局15本入り690円(税別)にしました。ロックな値段ですね。

小口: パッケージは日野先生の描くバンドマン。これは怒られなかったのですか?

竹本: それがですね、TwitterでBARBEE BOYSの公式アカウントがリツイートしてくれたんですよ。初めて我々のパクリを認めてくれたのが BARBEE BOYSです。年明けに国立代々木競技場でコンサートがあるので乱入しようかなと。

小口: 社長、いつもをしのぐ熱い息づかいのようですが、それは公認とは言えないです。ステージからまずい棒が客席に投げられることを祈ってます。

19年12月18日から販売される「スーパーまずい棒」15本セットで690円(税別)
19年12月18日から販売される「スーパーまずい棒」15本セットで690円(税別)
これも非公認の“パクリ”商品「バナナ車掌のバナナカステラ」。パッケージのイメージは「幸せの黄色いバナナ」。バナナ健に「自分、甘党ですから…」と言わせている
これも非公認の“パクリ”商品「バナナ車掌のバナナカステラ」。パッケージのイメージは「幸せの黄色いバナナ」。バナナ健に「自分、甘党ですから…」と言わせている

魚とダジャレ尽くしのイベント列車

小口: ローカル鉄道の定番、イベント列車も多数企画されています。

竹本: 銚子といえば魚なので、魚ネタのイベント列車を企画しました。18年のゴールデンウイークに走らせたのは「サバヨミ号」です。サバをデザインしたヘッドマークに3843と書いて、車中にはサバに関するダジャレや小ネタをたくさんつり下げました。運転は全て私が受け持ち、停車時間にはおしゃべりをする。いわばDJですね。といっても「ドン引きする冗談」の略です。

小口: サバのDJ、どんな感じなんでしょう。

竹本: サバは英語でなんと言うか。マグロはツナでイワシはサーディンですが、サバはあまり知られていません。サバは英語でマッカレル。これを一発で覚えられる人生訓を教えましょう。「長いものにはマッカレル」。

小口: ありがとうございました。ネタは社長が作っているんですか?

竹本: これはそうです。で、サバの次はタイでやりたいと地元の方からリクエストがありまして。銚子は真鯛や金目鯛も捕れるのでPRしたいと。だけど「おめでタイ」ぐらいしか思いつかないじゃないですか。困っていたら救いの神が現れました。日本だじゃれ活用協会の会長さんと知り合って、「鯛パニック」というフレーズを授けてもらったんです。しかも先に運行日を19年4月14日に決めていたんですが、調べてみたらこれが「タイタニック号の日」だったという。

小口: すごい偶然!

竹本: 4月14日は「SOSの日」でもあり、我が社は経営がパニックです。タイなのにヒラメいちゃいましたと、「鯛パニック号」を運行しました。19年9月に運行した第3弾はもっとすごいですよ。当社は経営が綱渡りです。ツナといえばマグロ、そこで、電車の中でマグロの解体ショーをする「鮪(ツナ)渡り号」! これもおかげさまで満席でした。

魚ネタの1つ、「鯖威張る(サバイバル)弁当」は、サバ水煮の炊き込みご飯の上に、塩焼きのサバを乗せた人気商品。掛け紙には竹本社長のダジャレもあしらわれている。犬吠駅などで販売中
魚ネタの1つ、「鯖威張る(サバイバル)弁当」は、サバ水煮の炊き込みご飯の上に、塩焼きのサバを乗せた人気商品。掛け紙には竹本社長のダジャレもあしらわれている。犬吠駅などで販売中

自虐は他人を、ギャグは自分を傷つけない

小口: 銚子電鉄は、このままギャグ路線で走り続けるのか、それともまた路線を変えていくのか。どうなんでしょう。

竹本: しばらくはギャグ路線ですね。真面目にやったらしぼんじゃいそうで。自虐は他人を傷つけないで笑いが取れる。でも、自分を虐げるわけですから、やりすぎると自分が傷ついてしまう。そこでギャグにして笑い飛ばす。そうすることで、他人も自分も傷つかない。自虐+ギャグで「ジギャグ」路線を突き進んでいこうかと。

小口: その路線が芽生えたのはいつごろから。

竹本: 私が代表に就任した直後は、経営改善計画を書いて市や県から補助金をもらったり運賃を改定するなど、経営を整える仕事をやってきました。その後、日本一のエンターテインメント路線を目指そうということになった。なぜかと言うと、銚子電鉄は住宅街を走っているので景色はよくない。海などほとんど見えないんです。しかも長さはわずか6.4 km、20分で終点に着いてしまう路線なので、レストラン電車もできない。前菜で終わっちゃいますから。そこで思いついたのが、楽しい企画を仕掛けて、新しい需要を喚起すること。エンタメで集客して銚子を活気づけようと大きく出たわけです。お化け屋敷電車やイルミネーション電車が成功する中、だんだん自虐路線になっていったのは、どう考えてもなかなか赤字が埋まらないというジレンマがあったからです。ある種の開き直りですね。

小口: 当初はまだギャグ要素は薄かった。

竹本: 13年前の「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです」は直球、ストレートなんです。しかし今は直球が使えない。なぜなら、東日本大震災が起き、熊本地震、19年の台風15号に19号と、常に自然災害に苦しめられる国になってしまった。こんなときに悲壮感を出したところで、もっと大変な人がたくさんいます。助けてくださいと言っても、銚子電鉄がなくなっても困らないよと言われたらおしまいなんです。直球が使えないとなると、面白おかしくギャグを交えて、変化球を投げるほかないんですよ。

【意識低いポイント】「直球は使えない」
常に直球で勝負できるのはパワーのある選手だけ。自虐という弱者ならではの手法であっても、いつも直球ではいけない。飽きられてしまうので、変化球を投げ続けなければいけない。

1000倍のリターンを目指す? 映画製作を止めるな!

小口: お話を聞いていて、現在の阪急阪神東宝グループの創始者、小林一三を思い浮かべました。鉄道を経営しながら、「宝塚歌劇団」や映画などのエンタメ事業を推し進めた。阪急電鉄も神戸線開業時は客が少ないことを逆手にとって、「ガラアキで、眺めの素敵によい涼しい電車」と自虐的な新聞広告を出しました。阪急と比べれば意識が低く見えたりお金がなかったりする部分は違いますが、発想は似ている気がします。そういえば、映画製作に乗り出したところも同じです。

竹本: 超C(銚子)級映画『電車を止めるな!』は、変電所の改修に多額な費用がかかるので、その資金を賄いたくて企画しました。変電所が壊れてしまうと電車は止まってしまうので、タイトルも自然と頭に浮かびました。ギャグ満載でひたすら笑ってもらえる映画です。

小口: もちろん『カメラを止めるな!』非公認(笑)。

竹本: 『カメラを止めるな!』は300万円の製作費で興行収入31億円以上、1000倍だそうですよ。その2匹目のドジョウを狙ったのが本音です。ただ、製作費用はクラウドファンディングで500万円以上集まったものの、すでに2000万円近くかかってます。私費で数百万円を投じていますが、まだ撮影が終わっていません。

小口: 公開は当初の19年夏から冬へと延期になりました。

竹本: 遅れは脚本を大きく書き換えたことによるものです。2020年2月には公開したい。31億円は無理でも1億円ぐらいになれば変電所の頭金になるんです!

映画『電車を止めるな!』クラウドファンディングでは、約500人から500万円以上の支援が集まった
映画『電車を止めるな!』クラウドファンディングでは、約500人から500万円以上の支援が集まった
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