千葉県のローカル私鉄ながら全国区の知名度を誇る銚子電鉄。前回は、その屋台骨「ぬれ煎餅」を見てきたが、今回はスナック菓子「まずい棒」の誕生秘話やダジャレ尽くしのイベント列車と映画製作について。自ら電車の運転までこなす銚子電気鉄道の竹本勝紀社長を、小口氏が直撃する。
本当にまずくしたかもしれなかった「まずい棒」
小口: ぬれ煎餅の次に収益をもたらしているのは?
竹本勝紀さん(以下:竹本): もちろん切符……、ではなく「まずい棒」です。1年2カ月で120万本以上買っていただいた。まずい棒がなければ、銚子電鉄は潰れていたでしょう。アイデアを出してくれたのは、「離婚式」や「涙活」で有名な文筆家の寺井広樹さん。彼と知り合ったのは、外川駅(銚子電鉄の終点)の駅名ネーミングライツがきっかけです。
命名権を購入してくれた千葉県松戸市の住宅メーカー、早稲田ハウスが社名や商品名ではなく「ありがとう」と命名してくれたんです。そして、ありがとう駅誕生のニュースを見て寺井さんが会社に電話をしてきたんです、「全米感涙協会の寺井と申します。ありがとう駅を “感涙駅第1号”に認定させてくれ」と。訳が分かりませんよね(笑)。
小口: 全米が泣いた、ってやつですか?
竹本: 話を聞いてみると、涙を流せる映画などを表彰する団体ということで、過去には映画『蜩ノ記(ひぐらしのき)』に主演した俳優の役所広司さんなども表彰されている。2016年3月9日(サン・キューの日)に外川駅で感涙駅認定のイベントを行うことになりました。それをきっかけに、寺井さんに「お化け屋敷電車」などの企画をお願いすることになったんです。
そして付き合いが深くなる中で、「まずい棒をやりたいんです」と打ち明けられた。最初はピンときませんでした。だって、まずかったら売れないじゃないですか。とはいえ、いろいろアイデアは出しました。清水義範さんの短編小説に『全国まずいものマップ』という、架空のまずいものを紹介していくものがありますが、そこに原材料が“牛のよだれ”というのがあって、それはどうだろうとか。「商いは牛の涎(よだれ)」ということわざもあるし、うちも細く長くやっていければと真剣に検討したこともあったのですが、やっぱり売れないだろうと。
小口: 買わないです。
竹本: 寺井さんも困っちゃって、「思い切って無味無臭はどうでしょう」なんて迷走した末に、いったん話は立ち消えになった。ところが、味自体をまずくするのではなく、「経営がまずい」という言い訳はどうかとひらめき、一気に商品化への道が開けました。
小口: パッケージには漫画家の日野日出志先生によるキャラクター。鉄道ファンで知られるタレント、中川礼二さんに似てると話題になりました。
竹本: これは私がモデルなんですが、原案ではもっと目が血走っていて怖かったんです。かみさんや娘に絶対嫌だと言われて、やさしくしてもらったんですよ。
小口: 日野先生はホラー漫画家ですから、怖いのが正しい気もしますが、結果的に礼二さんに似て話題になったから正解ですかね。しかし、パクリだと訴えられそうな、ぎりぎりの線を攻めますね。
竹本: もう、怒られてばかりですよ。OKをもらったところはないな。
小口: 怒られてナンボだと。
竹本: この年末(19年12月18日)には、「スーパーまずい棒」を販売します。開けてみるとカビのような緑色をしたまずい棒です。見るからにまずそうですが、食べてみると炭火地鶏味。目を閉じて食べるとおいしいので、キャッチコピーは「目を閉じて食べなよ♪」。
小口: 顔はやつと違うから……って、ロックバンド BARBEE BOYS(バービーボーイズ)の「目を閉じておいでよ」からですよね。
竹本: 味はあのおやつと違うから……。いくらで売ろうか悩みましたが、結局15本入り690円(税別)にしました。ロックな値段ですね。
小口: パッケージは日野先生の描くバンドマン。これは怒られなかったのですか?
竹本: それがですね、TwitterでBARBEE BOYSの公式アカウントがリツイートしてくれたんですよ。初めて我々のパクリを認めてくれたのが BARBEE BOYSです。年明けに国立代々木競技場でコンサートがあるので乱入しようかなと。
小口: 社長、いつもをしのぐ熱い息づかいのようですが、それは公認とは言えないです。ステージからまずい棒が客席に投げられることを祈ってます。