大阪、京都、滋賀に路線を持つ京阪電車。3年前からは、駅のホームと電車内でお酒や料理を提供する「中之島駅ホーム酒場」、2年前からは沿線の大学と連携した「京阪沿線 ぶらり学食めぐりスタンプラリー」を実施。なぜ京阪電車はおもしろ企画を連発できるのか、その理由を元鉄道ファンの小口氏が企画担当者に直撃した。

「京阪沿線 ぶらり学食めぐりスタンプラリー2019」の実施期間は2019年7月15日~9月27日。スタンプを集めて応募すると、抽選で各大学と京阪電車のオリジナルグッズ詰め合わせがもらえる
「京阪沿線 ぶらり学食めぐりスタンプラリー2019」の実施期間は2019年7月15日~9月27日。スタンプを集めて応募すると、抽選で各大学と京阪電車のオリジナルグッズ詰め合わせがもらえる

学食スタンプラリーに参加するのはどんな人?

小口: 19年で3回目となる「京阪沿線 ぶらり学食スタンプラリー(以下:学食スタンプラリー)」も、ちょうど始まりました。鉄道会社のスタンプラリーと言えば、たいていは駅のホームで小学生ぐらいの子供がスタンプを押しているイメージが強いですが、これは異色ですね。

若林浩吉さん(以下:若林): この企画は2年前から始めたのですが、当時の私が上司とたわいもない話をしている時に生まれたアイデアです。そんなんできたら面白いですねと。

京阪ホールディングス経営統括室 事業推進担当の若林浩吉さん
京阪ホールディングス経営統括室 事業推進担当の若林浩吉さん

小口: もともと大学とのつながりはあった?

若林: これまでも沿線の大学さんとの連携はいろいろな形で実施していました。CSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)という観点だと、PBL(Project-Based Learning、問題解決型学習)と言いまして、我々が普段考えているような課題を学生に与えて、解決方策を考えてもらい、それを発表してもらう授業で連携していました。

 例えば前回の中之島駅ホーム酒場のような企画でしたら、「中之島エリア活性化にはどうすればいいか」という課題を学生に与えます。それに対して学生目線で考えてもらうんです。

小口: 学食スタンプラリーに参加している大学は、滋賀大学、京都産業大学、京都精華大学、京都造形芸術大学、同志社大学、京都美術工芸大学、龍谷大学、京都教育大学、大阪歯科大学、関西医科大学、関西外国語大学、摂南大学、大阪電気通信大学、大阪国際大学、大阪工業大学の15校。

若林: 最初の年は9大学でした。マンネリ化が嫌だったので、2回目以降は数を増やそうと精力的に大学にお願いしに行きました。

中西一浩さん(以下:中西): 1回目はほぼ京阪電車の沿線だけでしたが、2回目以降は、京阪グループの叡電(叡山電車/叡山電鉄)沿線にも広げています。

若林: それだけ弊社の沿線に大学は多く、通学に便利なことをアピールする狙いもあります。

小口: スタンプラリーの期間は、7月15日から9月27日までと、けっこう長いですね。2カ月半近い。

若林: 大学ごとにスタンプが設置されている期間が異なっていますので、期間が長くなってしまうんです。

中西: ちょうど今オープンキャンパスの時期になっていますので。大学さんによっては、それに合わせて実施する場合もあります。

小口: 夏休みはオープンキャンパスのメインシーズンなので、高校生にとってはちょうどいい企画ですね。

若林: なので夏休み期間に設定しました。ただ、フタを開けてみると、高校生よりも高校生のお子さんを持つ親御さん世代の参加者が多いですね。自分のお子さんが進学したい大学を見に行きたいけれど、オープンキャンパスには子供が一緒に行ってくれないとか。親の目で見てアドバイスするために活用されているケースもあるようです。

中西: 子供がどんなご飯を食べられるか気になるけど、こういう機会でもないと、なかなか大学には入りにくいじゃないですか。僕も子供が通っている大学の食堂で食べましたよ。

小口: 大学も昔よりセキュリティーが上がっているので、ちょっと入りにくい雰囲気はあります。

若林: 守衛さんがいても、このパンフレットを片手に持っていれば堂々と入れますし。もうひとつ、地域の方に家の近くの大学に行くきっかけにしていただき、交流を深めてもらえばと思ったのも企画した理由です。

小口: 学食もいろいろ進化していそうです。

若林: 大学によっては、「ここは本当に学食?」と思うようなところもあります。コックさんのような帽子をかぶったシェフがいたり、「韓国フェア」といった催しがあったり、さまざまな企画を実施している学食があります。

小口: 若林さんは、すべての学食を制覇された?

若林: 制覇はしてませんけど、ほとんどの学食で食べました。学生相手だと、安くてボリュームのある唐揚げが人気になるらしく、1年目にパンフレットに掲載するため、各大学で人気メニューを教えてくださいと聞いたら、ほとんどの大学で唐揚げになってしまった(笑)。パンフレットに載せるメニューは、校正の段階で2番人気、3番人気のメニューと入れ替えることもあります。

小口: 若林さんが一番おいしかったメニューは?

若林: どこの大学の学食もおいしいですよ。お気に入りはありますけどね(笑)。

小口: 味だけでなく価格でも大学ごとの差があって、それを知るのは楽しそうです。

若林: 京阪沿線の魅力を発信するなど、沿線のにぎわいを創出して、最終的には「京阪沿線に住みたいなぁ」と思っていただけるよう、居住促進につなげたいと考えています。

とりあえずバッターボックスに立て

小口: ここ数年、京都はもちろん大阪でも外国人の姿が非常に目立つようになりました。御社もインバウンド需要は大きいですか。

中西: そうですね。伏見稲荷駅などはここ5年ぐらいで乗降客数が約2倍になっています。

吉城寿栄さん(以下:吉城): 京阪沿線にはJRや阪急と比べても、有名な寺社が多く点在しています。(京阪本線につながる鴨東線の終点)出町柳駅まで行くまでの間に、石清水八幡宮や伏見稲荷大社に始まり、清水寺や平安神宮など、(京阪沿線には)京都の東の観光名所が集まっています。もともと参拝の需要が高い路線であり、昔から寺社とのお付き合いは深かったのです。

中西: 一方で、京都に観光客が集中しすぎるオーバーツーリズム対策として、6月に京都タワー3階にある「関西ツーリストインフォメーションセンター京都」で滋賀県の観光情報を発信する業務もスタートし、観光客に自然の景観など滋賀県の魅力を紹介する活動も進めています。

小口: 比叡山のケーブルカー(比叡山鉄道)や琵琶湖汽船が御社のグループ企業である強みですね。ところで、こうした面白い取り組みができるような社内文化ってありますか。

吉城: 昔から京阪は鉄道ファン受けする会社と言われてきました。車両の構造でも細かいマニアックな工夫をいろいろとやってきました。

小口: 僕らの時代だと、車内にテレビを設置したテレビカーが有名ですけど、台車や駆動方式などの先端技術を、日本で初めて採用することが多い。

吉城: そういうのが好きな会社。通勤電車に5扉車(5000系)を導入したのも京阪が初です。

小口: 1970年ですから、かなり早い。山手線の6扉車導入(2002年)の30年以上前。

吉城: 急行電車を私鉄で初めて走らせたのも京阪です(1914年)。当時は信号機がなく、普通列車しか走らせられなかった。急行を導入するためには、追突しないよう自動閉塞(閉塞)信号機が必要で、米国から輸入した。これも日本初です。

日本初の急行電車に合わせて導入された「色灯式三位式自動閉塞信号機」
日本初の急行電車に合わせて導入された「色灯式三位式自動閉塞信号機」

中西: チャレンジ精神は旺盛です。いまだにCEOも「取りあえずバッターボックスに立て」と言いますからね。最初から諦めるなと。そういうDNAが宿っている。

吉城: クスッと笑えるのも好きですよね。ひらかたパークの「ひらパー兄さん」とか。

小口: ひらかたパーク(ひらパー)は御社グループの遊園地。菊人形展は有名ですね。「ひらパー兄さん」は、東京に住んでいるので、よく知らないですけど。

吉城: V6の岡田君(岡田准一さん)がひらパーの園長としてテレビCMに出演しているのですが、東京では禁止だろうという“いちびり系(ふざけたり調子に乗ったりすること)”なことをやって受けている。岡田くんが出演している真面目な映画のパロディー版を作って横並びに出すとか。

小口: ああ、ネットで話題になっていました。(気になる人は「ひらパー兄さん」で検索してみてください)大阪らしい“いちびり”を今後も期待しています。ありがとうございました。

ひらパー兄さんの最新作は「巨大目洗い」。学校のプールにあったアレが成長して帰って来るという設定
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【意識低いポイント】「とりあえずバッターボックスに立て」
京阪ホールディングス会長兼取締役会議長CEOの加藤好文さんの発した言葉。あれこれ考えてやらないよりは、まずはやってみる、チャレンジすべきだという意味で使われる。「バットを振れ」も同じ意味。ビジネスの心構えが野球に例えられることが多いのは、分かりやすさゆえだろう(世代によって感じ方は異なるかもしれないが)。ちなみに関西の5大私鉄でプロ野球チームを持たなかったのは京阪だけだが、大手私鉄で初めてCEO/COO制度に移行したのは京阪だそうで、ここでも独自性が光る。

(写真/小口覺、写真提供/京阪ホールディングス)