ほとんどのメニューが1皿100円台の立ち飲み「晩杯屋」。前回はその安さの秘密に迫ったが、今回は店舗のオペレーションや消費税増税への対策などを、小口氏が運営元のアクティブソース(東京・品川)に直撃した。

前回に引き続き「晩杯屋」の秘密を明らかにする
前回に引き続き「晩杯屋」の秘密を明らかにする

立ち飲みならではの「場を荒らさない」ルール

小口: 晩杯屋では1皿の分量が多すぎず、1人で多くの種類の料理を楽しみつつ料金を抑えられます。

池本圭さん(以下:池本): 390円の唐揚げが量の割に安くても、食べきれない量だったら意味がないじゃないですか。180円ぐらいで売ったほうが次の皿に食指が動くので、たくさんの料理を食べられる。

 平均すると、お客さん1人あたりアルコール3杯、料理4品、よく飲むお客さんで5杯飲んで料理3品、あまり飲まない方で2杯4品ぐらい。金額的には1300円程度が平均です。その金額で、家に帰って食事するのと同じ程度の満腹感がある。そのスタイルは崩したくないですね。

小口: こないだ夫婦でそれなりに飲んで食べてジャスト3000円。普通の居酒屋の半分ぐらいの感覚。

筆者が夫婦で利用したときの写真。これに料理を2品追加、アルコールを3~4杯飲んで、お会計は2人でジャスト3000円だった
筆者が夫婦で利用したときの写真。これに料理を2品追加、アルコールを3~4杯飲んで、お会計は2人でジャスト3000円だった

池本: その分、来てもらう回数を増やしていただければうれしいです。

小口: 平均の滞在時間は。

池本: 平均値を取ると、お1人様35分ぐらい、2名様だと45分~50分。

小口: やはり、1人だと「さくっと」ですね。先日、おばちゃんが4人で来ていておしゃべりしながら飲まれてましたが、座り席だと3時間ぐらいはいたはずです(笑)。

池本: ずっと店内のテレビを見られているお客さまもいます。相撲の千秋楽の日とか。

小口: テレビがあるのは、1人でも間(ま)が持つのでいいですね。客層は。

池本: 立地によって色々ですね。ビジネス街だとビジネスパーソンのほうが多く、商店街だと早い時間は年配の方が目立ちます。本当にさまざまな方がいらっしゃいます。芸能人の方でご利用なさる方もいらっしゃるそうですし。

小口: 出店に当たって立地のポイントは。

池本: 周辺人口・乗降客数はキーポイントです。収入が少ないから安い店に行く、収入が多いから高い店に行くという感覚は減ってきているように思います。

小口: 昭和ならデートで立ち飲み屋に連れて行ったら嫌われたはずですが、今はそんなことはない。実際に女性客も多いですし。お店も安心して飲める環境を提供している。

鈴木悠理さん(以下:鈴木): 暴言や暴力は一切禁止です。他のお客様の迷惑になる行為には厳しく対応して、その場で出入り禁止にします。

小口: 「カウンターへの肘付き禁止」「著しく飲まない・食べないお客様は退店」といったルールもあります。なぜ肘を付くのはダメなんですか。

池本: 肘を付くと自然と態度が悪くなりがちです。一般的にカウンターの高さは110センチメートルほどですが、晩杯屋では肘を付きにくいよう少し低く、90センチメートルほどになっています。

小口: 人間工学的に肘付きを防止している(笑)。

池本: お客さんにしっかりマナーを守ってもらうのは赤羽の「いこい」さんから受け継いでいます。

小口: 同じ赤羽の「まるます家」さんも酔っ払い入店禁止ですよね。とはいえ、私は以前3軒目ぐらいでも入れてもらえましたけど(笑)。騒いだり暴れたりしそうな客を防止するためのルールなんでしょうね。晩杯屋はそこまで厳しくない。他にルールは。

池本: どうしても少人数のオペレーションなので、食べたいものが決まってからオーダーする、品数が多い場合は注文票に書いてもらう、食べ終わったお皿は上に上げてほしい、などですかね。ルールというよりも、お願いですね。

ルール(お願い)が書かれた張り紙
ルール(お願い)が書かれた張り紙
【意識低いポイント】「晩杯屋では肘を付きにくいよう少し低く、90センチメートルほどとなっています」
赤羽などの立ち飲み屋さん由来のルールに加えて、物理的にできなくする工夫。結果、お店の雰囲気が良くなり、さらにぎちぎちにルールを厳しくしないことで、立ち飲み初心者、老若男女が利用しやすくなっている。

調理よりも難しいのは、きれいな盛り付け

小口: 飲食業の人材不足が言われていますが。

鈴木: それは、苦労はしています。人件費が上がっていますし、原材料費も高騰し続けているので。ただ、晩杯屋は料理人でなければできないというオペレーションではありませんので、料理人が必要な他の飲食店に比べれば良いほうかもしれません。

池本: アルバイトスタッフでも、2日あれば調理はできるようになります。難しいのは盛り付けぐらいです。

小口: 盛り付けが難しいメニューとは?

池本: 出来上がりに影響するのは納豆オムレツでしょうか。オーダーをいただいてから、調理するのですが、人によって大きく出来栄えが変わります。お刺し身は切ることはできても、きれいに盛り付けられないスタッフがおります。

小口: 絵が下手なのと一緒でセンスの問題かもしれないですね。まあ、別に舟盛りとかじゃないし、立ち飲みで見た目にこだわる客は多くないでしょうけど。納豆オムレツを注文すれば調理する人のレベルが分かる?

鈴木: 忙しさも影響すると思います。特別に忙しいときに揚げ物やオムレツだけをご注文いただくと、すぐに提供できる一品をおすすめするようにしています。すぐに出せるものを先に出すことで、顧客満足度にもつながりますから。

小口: 最初の料理が出てこないのはストレスですもんね。今度、納豆オムレツ頼んでみます。

納豆オムレツ。少し左端が崩れてはいるもののきれいに作っていただいた
納豆オムレツ。少し左端が崩れてはいるもののきれいに作っていただいた
注文が入ってから作る納豆オムレツ。忙しいと後回しにされることも?
注文が入ってから作る納豆オムレツ。忙しいと後回しにされることも?
クジラ刺し。おいしいが盛り付けは?
クジラ刺し。おいしいが盛り付けは?

おしぼりは70円、ロマネコンティは450万円に大幅値上げ

小口: おしぼりが有料で70円。これも面白い。

鈴木: 晩杯屋では、お通しも取り皿も一切出さない。そうすることで人件費や無駄な経費をカットし、ドリンクや料理を安く提供できる。最初は、おしぼりも一切用意していなかったのですが、おしぼりが欲しいという声も聞かれました。しかし、全員におしぼりを渡す代わりにドリンクが10円ずつ上がるのでは本末転倒です。なので欲しい方のみ。ただ有料にしても面白くないので、コットン100%で洗濯にも耐える高級なおしぼりを提供しています。

小口: 確かに、しっかりしたおしぼりでした。

鈴木: 晩杯屋が有料で販売するおしぼりですから。

ひとつ70円のおしぼりは、しっかり厚みがあって、2人で共用しても十分
ひとつ70円のおしぼりは、しっかり厚みがあって、2人で共用しても十分

小口: 面白さと言えば、メニューにある完全前金予約制のロマネコンティ。約245万円値上げして450万円になっていました。

鈴木: ロマネコンティはシャレ要素強めです。以前の価格は205万7000円。オープン当時は40万~50万円出せば買うことができたのですが……。Twitterなどでロマネコンティの話が知られるようになって、本当に注文されたらどうしようと改めて価格を調べたところ、非常に値上がりしておりまして。それで、値上げに踏み切りました。

200円、300円台のドリンクが並ぶ中、450万円のロマネコンティが混じっている
200円、300円台のドリンクが並ぶ中、450万円のロマネコンティが混じっている
【意識低いポイント】「ロマネコンティはシャレ要素強めです。本当に注文されたらどうしようと改めて価格を調べたところ、非常に値上がりしておりまして」
実際に頼んだ客がいるかは非公開とのこと。いずれ、ヒカル、ラファエルあたりの“金持ちユーチューバー”が「晩杯屋でロマネコンティ頼んでみた」なんて動画を出しそうではある。

ライバルは居酒屋ではなくコンビニ

小口: 調査や他店を視察することはありますか。

池本: はい。他のお店を広く知っておいたほうがいいですから。それは創業者の金子さんもそうですね。居酒屋だけではなく、ターゲットがかぶっている中食、コンビニやデパートの食品売り場をチェックし、それらよりも安く提供できるようにする。

鈴木: 私もコンビニのお総菜やおつまみ、冷蔵ショーケースは毎日必ずチェックしています。冷蔵ショーケースは以前よりもアルコールの種類や面積がかなり増えていますし、お総菜の種類も豊富です。

池本: コンビニでは、9%のストロング系のチューハイ、量も350ミリリットルではなく500ミリリットルを購入している人が増えているのではないでしょうか?

小口: 自分自身もそうですね。それにしても、ライバルは完全に家飲みなんですね。

鈴木: 勝手にライバル視しています。客単価が1000~1300円ですので、一般的な居酒屋とは異なります。また、2000年の時点で3万8000店だったコンビニは現在5万5000店舖を超えています。外食市場が奪われている可能性を感じます。

池本: コンビニでストロング缶1本とサラダチキンとサラダを買うぐらいの値段で、晩杯屋ならチューハイと煮込みとハムカツがご提供できるので、ぜひ来てほしいです。

鈴木: 我々の強みとしては、焼きたて・揚げたてのアツアツを提供できることと、お刺し身などの鮮魚ですね。

小口: 量も1人飲みにちょうどいいですよね。スーパーのお総菜だと、基本家族向けなので量が多めですし。

鈴木: 常にコンビニよりもボリュームがあって安い値段で提供するよう意識しています。とはいえ、10月の消費税増税で軽減税率が導入されると、我々には逆風です。

小口: 中食よりも2%不利ですね。晩杯屋のメニューは税込み表示ですが、増税で値上げされるのでしょうか?

池本: 検討中ですが、企業努力で何とか税込みで据え置きたい。

小口: おお! 外税にはしない。

鈴木: 財布の中身を気にしながら来ていただいているお客さんに対して、消費税の計算を強いるのは違うと思うんですね。

池本: 価格を10円単位に税抜表示にしておいて、「安いな」と思っていたら会計で高くて「あれ?」 と思うことはありませんか。お客様にそう感じてほしくないのです。

鈴木: 価格は安いけどジョッキサイズが小さかったりすると、自分が利用するときにさみしく感じることがあります。弊社では500ミリリットルジョッキでの提供にこだわりたい。

小口: 今後も期待しつつ利用させていただきます。本日はありがとうございました。

各店舗の電話番号のゴロ合わせがちょっと無理やりっぽくて笑えます
各店舗の電話番号のゴロ合わせがちょっと無理やりっぽくて笑えます

(写真/小口覺)