『ブスのマーケティング戦略』(文響社)という強烈なタイトルの本が話題になっている。自ら表紙に大きく顔を載せている著者・田村麻美氏に、この連載の書き手『ちょいバカ戦略』(新潮新書)の小口覺がインタビュー。ブス×バカ対談から、個人の生き方や商品づくりに役立つヒントが見える?

田村麻美氏:税理士・TRYビジネスソリューションズ代表取締役社長。“東京都足立区でいちばん気さくな税理士”として税理士業務やコンサルタントを行う。著書『ブスのマーケティング戦略』(文響社)では、自らの性欲をも赤裸々に語りながら、見た目のコンプレックスを抱える人が幸せになれる戦略を説く。
田村麻美氏:税理士・TRYビジネスソリューションズ代表取締役社長。“東京都足立区でいちばん気さくな税理士”として税理士業務やコンサルタントを行う。著書『ブスのマーケティング戦略』(文響社)では、自らの性欲をも赤裸々に語りながら、見た目のコンプレックスを抱える人が幸せになれる戦略を説く。

私の「ブス」は自虐ではない

小口: 本を出されたタイミングで、テレビドラマ『ちょうどいいブスのススメ』のタイトルが批判され、『人生が楽しくなる幸せの法則』という無難なものに変更されました。女性が自分をブスと自虐的に言うのも許されない時代になるのでしょうか。

田村麻美氏(以下、田村): 炎上するぐらい本が売れたらいいなとは思っていましたが、私の「ブス」は自虐じゃないんですよ。

小口: えっ?

田村: 客観的に自分を商品として捉えたときに、冷静に見ても見なくても美人ではなく「ブス」であり、どうやったら自分を選んでもらえるかを考えて生きてきました。謙虚と自虐は紙一重かもしれませんが、私自身としては自虐じゃないんですね。ただ、冷静に自分を「商品」としてみて、どうやったら売れるかを考えただけ。どちらかと言うと「意識低いようで高い系」の本だと思います。

小口: 確かに、中学の時に勉強を頑張って進学校に進んだり、税理士の資格を取ったり、最近では早稲田大学のビジネススクールに通われるなど、基本意識は高いですよね。その意識の高さと「ブス」という言葉のギャップがすごい。

田村: そこは本を書いているときから賛否が分かれると思っていました。2018年の4月に山崎ケイさんの『ちょうどいいブスのススメ』(主婦の友社)が書籍で出て、Amazonのレビューがあまりよくなかったんですよ。本を読まないで書いている人がほとんどだと思うのですが、「ブスという言葉を使うな」というコメントが多くて、ブスという言葉に嫌悪感を抱く人がいっぱいいるんだなと思い知らされました。

小口: 実にレビューの41%が星1つ!(2019年3月20日時点)

田村: 私の本に最初に付いたレビューも、星1つでした。一生懸命生きているにもかかわらず、なんで自分をブスと言うのかと怒られました。

小口: 確かにブスってキツイ言葉ですけど、言葉を言い換えればいいんでしょうか。海外ドラマの『アグリー・ベティ』(※米ABCで放送されたテレビシリーズ)は英語だからか怒られていませんが。

田村: 例えば「自分に自信がない人のためのマーケティング」だったら批判されなかったでしょうけど、私は自信がないポイントが顔面だったので。この本は、容姿に自信がなかった、 今も別に好きではないですけど、将来自分はどうなるんだろうって不安でいっぱいだった小中学生時代の自分に向けて書いた本なんですよ。

婚活に使えるマーケティング

小口: コンプレックスは人それぞれだと思いますが、女性の場合は容姿が大きな割合を占めているように思います。それをどう克服するかが、この本の主眼ですね。

田村: どこにゴールを設定するかにもよりますが、私は男性と付き合ってみたい、結婚してみたい、そしてできれば子供を産んでみたいという願望が強かった。こんな見た目だから夢はかなえられないのかな、というところからゴールを設定し、それに向かって走ってきました。別にゴールが一人で生きていけばいいのであれば相手にどう見られようと関係ないのかもしれないですけど。

小口: 婚活している人によく言うんですけど、顔は結婚にあまり関係ないですね。いい男がいないとぼやいている女性のほうがよっぽど顔は良かったりする。

田村: 顔面だけじゃないですけど、自分にも好みがあるように相手にも好みがある。相手の気持ちを考えられない人はブスだなと思うんです。自分の商品価値を分かっていない人は多いですね。

小口: 「商品価値」と言うとまた反発する人が……。

田村: そう、人間を商品と言うなと怒られる。

小口: しかしブスという言葉を使うなという人でも、見た目で人を判断していることはありますからね。政治家も顔が良いほうが賢そうに見えるので当選しやすいし、ニュースキャスターも顔が良いほうが話す内容に説得力が増すという研究結果もありますし。

田村: あと、見た目が良いほうが、視聴者としては落ち着いて見ていられる(笑)。

小口: しかし、結婚などのプライベートとなると、必ずしも美人や美男子が勝利するわけじゃないですよね。

田村: やっぱり相性じゃないですか。運でもあるし。自分の独り善がりで良い商品だと言い続けても、相手が選んでくれなかったら意味がないわけです。選んでもらえる市場を考えていかないと。

 でも、そう言うと、「自分の好みや希望を無視するんですか」と言われるんですが、それもゴールをどこに設定するか。絶対に結婚したい相手がイケメンでなきゃイヤなのか、とりあえず結婚できたらいいのか。何歳になってもイケメンを待てるなら待てばいいですけど。

時代によってニーズは変わる

小口: 結婚は一つの基準に縛られると失敗しやすいと思うんですよね。年収がすごく高くても暴力を振るう人は困るわけだし。田村さんの本を読んで、クレイトン・M・クリステンセンの『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン)に考え方が近いなと思いました。ちゃんと読んではいませんが(笑)。人は、自分自身の“ジョブ”を片付けるためにその商品やサービスを“雇用”するのだという視点です。なので、企業が素晴らしいと思って出す商品が必ずしも売れるとは限らない。

 結婚も、見た目などのスペックよりも、「独りは寂しい」とか「趣味を一緒に楽しみたい」「経済的に安定したい」「手料理が食べたい」といった片付けたいジョブによって成立する側面があると思います。身もふたもない言い方ですが。

田村: 私が結婚するときの売り文句は、「私は一生働き続けます。だからあなたは仕事がつらくて辞めたくなっても大丈夫です。料理はできないけどお金は私が頑張って稼ぎます」というものでした。昔だったら絶対売れ残りますよね。専業主婦が求められている時代に、女性が働くといっても結婚できない。市場と商品の特性がマッチしていないわけですから。

恋愛がマーケティング的に考えにくい理由

田村: マーケティングの本ってビジネス書のコーナーにしかないじゃないですか。昔から、なぜ日常生活に落とし込んだ本が無いのか不思議だったんですね。ビジネスの世界では当たり前のように商品を改良して、どこの市場に売り込もうか考える、値段も変えてみるなど、いろいろと試行錯誤する。

 人間も同じだと思うんですけど、人間は自分を冷静に見られない。というのも、自分のことが一番大事だから客観視できないんですね。最後は自分しかいないので。「自分のことぐらいは自分で褒めてあげよう」なんて、訳の分からないことを言う。しかも、自分に自信がない人ほどありのままの自分を受け入れちゃっている。

小口: 自分を認めるのはいいけど、人に認められるかは別なので。結局、自己承認欲求は満たされないままになりがちですね。

田村: 学力には客観的な軸があるじゃないですか。偏差値30の人が東大を受けようとは普通思わない。1年後に大学生になりたいのであれば、東大はやめておこうとなる。しかし、こと恋愛に関しては偏差値がないので、希望が高くなってしまう。

小口: 『アラサーちゃん』(峰なゆか「週刊SPA!」連載)というマンガに似たようなことが書いてありました。仕事がないとき、人は「大した学歴もないから」と自分を納得させる。友達がいないときも「自分が陰キャでコミュ力が低いから仕方ない」と思う。しかし、彼氏がいないときは、「出会いがあれば私にも彼氏ができるはずなのに」と。人は恋愛が絡むと自分ではどうしようもできないことに責任を押し付け自己を省みようとしないとあって、すごく納得しました。

田村: ビジネスの世界で商品が売れなかった、ということはニーズがなかったと思うじゃないですか。だけど人は、なかなかそうは思えない。

小口: 実際には市場原理が働いているのに、恋愛となると何か崇高なもので、運命論的に考えがちですね。だからこそ、この本はいい処方箋になるはずです。ちなみに、ブスを男性に置き換えたらどうなるんでしょう。

田村: 似ているのは、昔の『電車男』(新潮社)ですかね。

小口: 2004年だから、もう15年前の話です。今年ハリウッドでリメークされるみたいですけど。言われてみれば、食事はどこですべきかなどを掲示板(当時の2ちゃんねる)で聞くことでうまくいった。あれはネットを使ったマーケティングリサーチの話だったんですね。

田村: 私も電車男と同じです。リアルに合コンに行きまくって、どんな人だったら私を選んでくれるのかなと市場調査をしていました。いつも同じメンバー3人で合コンに行き、毎回終わってから反省会をするんですけど、何回もやり続けていると、「あなたはこういう人に受けがいい」とか本人にも気付かない相性を指摘されたりするんですよ。

小口: 顧客のペルソナが見えてきた! みたいな(笑)。

田村: そうそう。

小口: それも市場に自らを投入してこそ分かるわけですが、自身のない人にとっては怖いんですよね。そういえば昔合コンをしたら、しょっぱなから露骨に「ハズレの男が来たわ~」ってオーラを出されてつらかったこと思い出しました(笑)。

田村: みんな傷つくのが怖いんです。だから市場調査に出られないわけですよ。

小口: その点、こじらせている人は自分を非売品だと考えがちです。市場に出なければ、こんな商品いらないよと言われて傷付かずに済みます。

田村: ただ私は貧乏性なので、合コンで選んでもらえなかったとしても、次に別の合コンをセッティングしてもらえないかお願いしていましたね。

小口: 強い! すご腕営業マンみたい。

田村: 「そこをなんとか!」みたいな(笑)。合コンもそんな簡単に開催できるわけではなく、できる限り労力少なくやりたいので。

小口: コストを下げることで販売の機会を増やせる。

田村: 人間には感情のムラがありますから、付き合うのは奇跡的です。次の日だったらその人のことを良いと思わないかもしれないですし。

小口: タイミングは大きいですね。瞬間は盛り上がったけどトイレに行ったら冷めたとか。商品も同じようなケースがあって、欲しいと思った商品でも、予約販売で手に入るのが半年後となると一気に冷めることがあります。

 あと、よく聞くのが、付き合っている人が結婚してくれない問題。これは、相手の情や責任感が薄いことが原因ですよね。自宅で試着・返品自由のファッション通販サイトで、着るだけ着て全部返品しちゃう人のようなもので、顧客になりにくい。

田村: 私も月額制のファッションレンタルサービスを利用したことがあるんですけど、しばらく着ていると愛着が出てきて買い取りたくなりますけどね。

小口: そこは性格が出ますね。

田村: 商品も人間も一緒ですよね。そういうふうに考えたほうが、私は気が楽です。自分が売れないときは、見せ方を変えたほうがいいのかなとか、どうやったら売れるかを考えやすいので。

小口: サラリーマンでも昔のように上の言うことを聞いておけば偉くなる時代じゃなく、自分を商品に見立てて商品価値を上げていかなきゃいけなくなっている。

田村: どの仕事もそうなってきていますよね。

小口: それも生まれ持った能力なのかもしれないけど、コミュ力ない人間はコミュ力ない人間なりに頑張んなきゃいけない。

田村: いいものを作っていればいつか見つけてもらえる、なんてことはめったにありません。100年後に見つけてもらえるかもしれないですけど。

小口: ゴッホとピカソの違いですね。ゴッホは生きている間ずっと貧乏で死んでから有名になった。片やピカソはめちゃくちゃマーケティングがうまかったので、めちゃくちゃ成功していた。アスリートぐらいかな、実力だけで勝負できるのは。いや、スポンサーを見つけてこないと練習の費用も賄えないらしいので、やはりマーケティング力は必要でしょうね。

田村:  大変ですよ、どれもこれも。

港区じゃなくて足立区だから光るエリアマーケティング

小口: 現在、税理士としてご活躍の田村さんですが、お仕事の面でもマーケティングを活用されていると見ました。“東京都足立区でいちばん気さくな税理士”というキャッチコピーもそうです。足立区で開業されたのは、エリアマーケティング的に?

田村: そうです。人脈もないので今の時代、ネットで集客しないといけない。税理士には、千代田区や港区、渋谷区で開業しようとする人が多いんです。

小口: ブランディングのためでしょうか。

田村: そうです、でも、そこで開業しても目立たない。最初に「渋谷区 税理士」などで検索してみたところ、めちゃめちゃ数が出るし広告も多いし、お金を払っても絶対に(検索順位で)上にこないなと思いました。足立区に住んでいたので、「足立区 税理士」でも調べたところ、検索結果は少ないし、どのホームページもイケてないように見えたんです。しかも、「足立区 女性 税理士」では、2人ぐらいしか出てこなかった。

小口: ニッチナンバーワンになれる。

田村: 足立区だと目立ちそうだし、ここで一旗揚げたら港区とかに行こうと思っていました。

小口: 足立区は面積も広いし人口も多そうです(2018年3月1日現在、人口は東京23区で5位)。

田村: 最初は、「何で足立区でやるの?」ってみんなに言われました。「電車に乗れば渋谷とかすぐ行けるのに」「足立区には企業が少ないでしょう」と。だけど調べてみると、中小零細企業はめちゃめちゃ多いんです。大企業はそもそも税理士を抱えているし、私みたいな個人にはお願いしないだろうと考えると、足立区は自分に最適だと思いました。スタートアップみたいな企業と一緒にやりたいという願望もありましたし。もちろん、最初お金も無かったので予算的な理由もありました。

 恋愛でも仕事でも、私が好きなのは、最初から完璧を求めずに、改良していくというやり方。「リーンスタートアップ」です。自分の感覚に自信がないので市場に判断してもらって、改良していく。コツコツ積み重ねていくほうが失敗は少ないですし。

小口: いきなり六本木のIT社長と合コンするのではなく、地元の友達つながりから始めよう、ですね。地元の縁は強いですからね。

田村: この本を出したときも皆さんに応援してもらいました。足立区の人は優しいです。まぁ、変な人も多いですけどね(笑)。結果、足立区は私にとって最高の場所でした。きっとこれからもずっと足立区に居座るんだと思います(笑)。

(撮影協力/センジュ出版[BOOK CAFE])

当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2019年3月22日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています