恋愛がマーケティング的に考えにくい理由

田村: マーケティングの本ってビジネス書のコーナーにしかないじゃないですか。昔から、なぜ日常生活に落とし込んだ本が無いのか不思議だったんですね。ビジネスの世界では当たり前のように商品を改良して、どこの市場に売り込もうか考える、値段も変えてみるなど、いろいろと試行錯誤する。

 人間も同じだと思うんですけど、人間は自分を冷静に見られない。というのも、自分のことが一番大事だから客観視できないんですね。最後は自分しかいないので。「自分のことぐらいは自分で褒めてあげよう」なんて、訳の分からないことを言う。しかも、自分に自信がない人ほどありのままの自分を受け入れちゃっている。

小口: 自分を認めるのはいいけど、人に認められるかは別なので。結局、自己承認欲求は満たされないままになりがちですね。

田村: 学力には客観的な軸があるじゃないですか。偏差値30の人が東大を受けようとは普通思わない。1年後に大学生になりたいのであれば、東大はやめておこうとなる。しかし、こと恋愛に関しては偏差値がないので、希望が高くなってしまう。

小口: 『アラサーちゃん』(峰なゆか「週刊SPA!」連載)というマンガに似たようなことが書いてありました。仕事がないとき、人は「大した学歴もないから」と自分を納得させる。友達がいないときも「自分が陰キャでコミュ力が低いから仕方ない」と思う。しかし、彼氏がいないときは、「出会いがあれば私にも彼氏ができるはずなのに」と。人は恋愛が絡むと自分ではどうしようもできないことに責任を押し付け自己を省みようとしないとあって、すごく納得しました。

田村: ビジネスの世界で商品が売れなかった、ということはニーズがなかったと思うじゃないですか。だけど人は、なかなかそうは思えない。

小口: 実際には市場原理が働いているのに、恋愛となると何か崇高なもので、運命論的に考えがちですね。だからこそ、この本はいい処方箋になるはずです。ちなみに、ブスを男性に置き換えたらどうなるんでしょう。

田村: 似ているのは、昔の『電車男』(新潮社)ですかね。

小口: 2004年だから、もう15年前の話です。今年ハリウッドでリメークされるみたいですけど。言われてみれば、食事はどこですべきかなどを掲示板(当時の2ちゃんねる)で聞くことでうまくいった。あれはネットを使ったマーケティングリサーチの話だったんですね。

田村: 私も電車男と同じです。リアルに合コンに行きまくって、どんな人だったら私を選んでくれるのかなと市場調査をしていました。いつも同じメンバー3人で合コンに行き、毎回終わってから反省会をするんですけど、何回もやり続けていると、「あなたはこういう人に受けがいい」とか本人にも気付かない相性を指摘されたりするんですよ。

小口: 顧客のペルソナが見えてきた! みたいな(笑)。

田村: そうそう。

小口: それも市場に自らを投入してこそ分かるわけですが、自身のない人にとっては怖いんですよね。そういえば昔合コンをしたら、しょっぱなから露骨に「ハズレの男が来たわ~」ってオーラを出されてつらかったこと思い出しました(笑)。

田村: みんな傷つくのが怖いんです。だから市場調査に出られないわけですよ。

小口: その点、こじらせている人は自分を非売品だと考えがちです。市場に出なければ、こんな商品いらないよと言われて傷付かずに済みます。

田村: ただ私は貧乏性なので、合コンで選んでもらえなかったとしても、次に別の合コンをセッティングしてもらえないかお願いしていましたね。

小口: 強い! すご腕営業マンみたい。

田村: 「そこをなんとか!」みたいな(笑)。合コンもそんな簡単に開催できるわけではなく、できる限り労力少なくやりたいので。

小口: コストを下げることで販売の機会を増やせる。

田村: 人間には感情のムラがありますから、付き合うのは奇跡的です。次の日だったらその人のことを良いと思わないかもしれないですし。

小口: タイミングは大きいですね。瞬間は盛り上がったけどトイレに行ったら冷めたとか。商品も同じようなケースがあって、欲しいと思った商品でも、予約販売で手に入るのが半年後となると一気に冷めることがあります。

 あと、よく聞くのが、付き合っている人が結婚してくれない問題。これは、相手の情や責任感が薄いことが原因ですよね。自宅で試着・返品自由のファッション通販サイトで、着るだけ着て全部返品しちゃう人のようなもので、顧客になりにくい。

田村: 私も月額制のファッションレンタルサービスを利用したことがあるんですけど、しばらく着ていると愛着が出てきて買い取りたくなりますけどね。

小口: そこは性格が出ますね。

田村: 商品も人間も一緒ですよね。そういうふうに考えたほうが、私は気が楽です。自分が売れないときは、見せ方を変えたほうがいいのかなとか、どうやったら売れるかを考えやすいので。

小口: サラリーマンでも昔のように上の言うことを聞いておけば偉くなる時代じゃなく、自分を商品に見立てて商品価値を上げていかなきゃいけなくなっている。

田村: どの仕事もそうなってきていますよね。

小口: それも生まれ持った能力なのかもしれないけど、コミュ力ない人間はコミュ力ない人間なりに頑張んなきゃいけない。

田村: いいものを作っていればいつか見つけてもらえる、なんてことはめったにありません。100年後に見つけてもらえるかもしれないですけど。

小口: ゴッホとピカソの違いですね。ゴッホは生きている間ずっと貧乏で死んでから有名になった。片やピカソはめちゃくちゃマーケティングがうまかったので、めちゃくちゃ成功していた。アスリートぐらいかな、実力だけで勝負できるのは。いや、スポンサーを見つけてこないと練習の費用も賄えないらしいので、やはりマーケティング力は必要でしょうね。

田村:  大変ですよ、どれもこれも。