人気ブロガー、ユーチューバーとして知られる「えらいてんちょう」こと矢内東紀氏の新刊『しょぼい起業で生きていく』(イースト・プレス)が好調だ。リサイクルショップやイベントバーなどを経営した経験を基に、起業には資金調達も事業計画も不要とし、具体的な生存戦略を説いている。『ちょいバカ戦略“意識低い系マーケティングのすすめ”』を上梓する小口覺が、しょぼい起業の原点から具体的なノウハウを聞いた。

矢内東紀氏(えらいてんちょう)
矢内東紀氏(えらいてんちょう)
1990年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。2015年10月、初の実店舗としてリサイクルショップを開店。その後、知人が廃業させる予定だった学習塾を受け継いだり、居抜き物件を借り、小さなバーをオープンさせたりして、事業を拡大。その後、バーが人気を呼び、全国直営5店舗を構える。現在は、投資家、コンサルタントとしても活動し、しょぼい店舗の開業・運営を1年で10件以上手がける

店に住めば家賃は無料になる

小口: 「しょぼい起業」は意識低い系マーケティングに通じそう。しかも、“しょぼい”なのに“えらい”てんちょう。このギャップが面白いなと話を聞きに来ました。まずは、起業のいきさつからお聞かせください。

矢内東紀氏(以下、矢内): そもそもは、自分は会社勤めができない性格なので、起業するほかなかったというところからです。といっても、資金を調達してスタートアップ、上場してうんぬんなどは一切考えていなくて、自分の給料が出るかどうかも不明というところからスタートしているので、その意味でしょぼい起業と言っています。

小口: 就職がムリだと思われていた理由は?

矢内: 人に頭を下げるということが病的にできないんです。尊敬している人や感謝している人には、もちろんできますけども。就活のときに書く自己PR文すら苦痛で、「私はこういう人間で役に立つので雇ってください」と、すっと書けばいいんですけど、いやー、お前(企業)から来いやみたいな(笑)。

小口: ああ、自己評価自体は高かった。

矢内: 自己評価は高いんですが、新卒の学生のそれなど、何の意味もないわけで、そんな尊大な学生を採ろうという企業もないわけです。結果的に就職できないで終わるんですね。

小口: 早々に就職活動は放棄した。

矢内: 就職は無理だと分かっていたので、最初は、司法試験の勉強をしていました。弁護士になれば食えるかなと思っていたんですが、大学受験で体力と脳みその容量を使い果たしていて(笑)。もう駄目だな俺と思ってですね、仕事を紹介してもらおうとしていました。

小口: それはアルバイト?

矢内: アルバイトもきつくて、客がいっぱいくると疲れるし、そもそも決められた時間に行けないんですよ。朝早いのはダメだし、じゃあ午後2時からだったら行けるかというと、それもかなり気合を入れないと行けない。5日間とか期間が限定されていれば、気を張ってできるんですが、期間に終わりがないのはムリ。結局、時間の融通が利く、翻訳の下訳やテープ起こし、校正といった、出版社の下請けの仕事をしてしのいでいました。

小口: フリーランスに近いですね。

矢内: 時間の定めのない作業だったので自分にもできた。いっても月7万とか10万のレベルですが。でも、仕事が少なければ金もないわけで、大学もまもなく卒業というときになって、店を作ろうと。

小口: いきなり店ですか。

矢内: しょぼい起業における、私の師匠がいまして。ツイッターでは、「難民社長」というアカウントで活動している藤野郁哉氏が、兵庫県川西市で、家賃2万円の物件を駅前に借りてカレーを一杯290円とかで売っている。

小口: 家賃2万円!

矢内: そのぐらいの額だったら、どうにでもなるじゃないですか。その彼が、最初に店舗を持ったのは大学生のときで、バイトしていたカフェの裏手にプレハブを借りてサークル仲間との遊び場にしていた。それが発展していろいろな店を出すようになったんです。

 店を出したいというと、どんな人に聞いても最低200万、300万は資金が必要だとか言うんですが、彼が店舗は安くできるということを実践して教えてくれた。店に住めば家賃は無料になる。最初に出したリサイクルショップは住宅街の中にあることもあって10坪弱で家賃が10万円ぐらい。10万円だったらバイトをちょっと頑張れば払える額じゃないですか。