日清食品の「チキンラーメン」が発売60周年を迎えた今年、さまざまな記念プロモーションが展開された。なかでもカワイイはずの同社キャラクターひよこちゃんが悪魔に豹変する企画は、「そこまでやるか!」という印象を消費者に植え付け、ネットで大いに話題となった。このプロモーションを企画したの電通のクリエーター・尾上永晃氏に自身の苦労したことやクリエーターとしての原点などを聞いた。

尾上永晃氏 電通 CDCプランナー
尾上永晃氏 電通 CDCプランナー

良い子がキレると面白い

小口: 最近のお仕事だと、今年60周年を迎えた日清食品のチキンラーメンを担当されています。Webサイトで、キャラクターの“ひよこちゃん”が辞表を出し、「いつまでもいいこちゃんだと思うなよ!!」と商品ページにスプレーで落書きをし、公式ツイッターでは、「やってられっか!」「茶番はもう終わりだ。」などと過激な発言をして話題になりました。正直、ひよこちゃんのキャラの存在感はこれまで薄かったので、突然のキレ具合が面白かったですね。

尾上永晃さん(以下:尾上): ひよこちゃんのポーズ集に、フライパンで目玉焼きを焼いている絵を見つけまして、これ共食いじゃないかと気づいたんです。

小口: あくまでイメージですからね昔のキャラクターって。主張するキャラクターというのは、ゆるキャラブーム以降の傾向かもしれません。そういう意識低い感性みたいなものがないと面白いものができないんじゃないかなと思うんです。すげえ失礼なこと言ってますけど。

尾上: 意識低いって大事だと思っていますし。広告があんまり偉そうにするのは良くないです。言語も広告まわりは、カタカナ用語が多いですけど、ほとんど日本語で言えるだろうと。結局これなんかも、かわいいひよこちゃんが不良になって落書きをするとか、何の戦略もないんですけど、単純に面白がってもらえることが大事ですね。

小口: 突発的だから面白いんですかね。

尾上: ひよこちゃんのキャラクターはできてから約30年なんですけど、ずっと良い子だった。良い子がいきなりブチ切れる瞬間って面白いんですよ。学校にもいたじゃないですか。夏休み明けに性格が変わってるやつとか、いじられて突然ブチ切れるやつとか……。あんまりロジックにこだわりすぎないほうがいいと思ってます。

ひよこちゃんの辞表(画像提供/日清食品)
ひよこちゃんの辞表(画像提供/日清食品)
そして、ひよこちゃんは悪魔になった(画像提供/日清食品)
そして、ひよこちゃんは悪魔になった(画像提供/日清食品)

SNSの誤発注の元祖は100年前にも

小口: 話題作りがうまいなと思ったのは、2017年の10月9日(東急の日)に実施された池上線の「1日無料乗り放題」です。駅や商店街が人であふれた写真がSNSにアップされていました。

尾上: 普段乗客が1日19万人のところ57万人ぐらい来ましたからね。池上線って端っこから端っこまで行っても200円(ICカード利用で195円)の路線なんですけど、無料というだけで、こんなに人が来る。無料には人間にインプットされたあらがいきれない何かがあるんでしょうね。

小口: ケチは人間のDNAなんですよ、きっと。

尾上: 格好良く言うとフリーミアムとかになるけど、そんなことじゃないだろうと。閉店しなくても閉店セールをするなど、そういう手法って、実は100年以上前からあるんですよ。僕がすごい好きなのは、1800年代の広告なんすけど、「カーテン生地を仕入れすぎちゃったんで、安くします。みんな買ってください」ってのがあるんです。コピーライターの元祖っていわれる人がやってるんですね。

小口: 今もSNSなどでバズるコンビニやスーパーの誤発注案件そのものじゃないですか!

尾上: ネットでやると、ああいうふうに広まるというだけで、本質は同じです。

小口: 気持ちが動かされる。誤発注も、「かわいそうだから助けてあげたい」という心理が働くからバズるわけですよね。一種の自虐広告。

尾上: 昔、アメリカにウィリアム・バーンバックという名コピーライターがいまして、レンタカー業界でハーツが圧倒的に1位だった時代、2位のエイビスの広告で、「エイビスはナンバー2」ってキャンペーンで大いに成果を上げた。これも50年以上前の広告ですが、応援したい気持ちを利用したものです。その頃の広告にはヒントがたくさんあります。日本人も判官びいきですから、「がんばれNTT がんばるKDDI」みたいな広告はウケますよね。

小口: 昔から「型」としてあるんですね。としまえんが1990年のエープリルフールに出した「史上最低の遊園地。」なども、シャレとはいえ自虐です。

尾上: 「正直で自虐」が好まれるんですよね。このご時世みんな言い切るじゃないですか。ソーシャルメディアのアカウントをみんな持っていて発信し、それの承認欲求だらけの世の中で、正直に自分のダメさを言う人には面白い可能性がある。広告も、いつのまにか自慢ばっかりになっている。今は自虐がうまくいく、そういう潮目なんでしょう。逆にみんなが自虐し始めたら今度は自慢したほうがいいのかもしれません。

【意識低いポイント】「承認欲求だらけの世の中で、正直に自分のダメさを言う人は面白い可能性がある」
正直さは自分をよく見せようとする意識高い系とは逆の姿勢。いわゆるセルフブランディングが「痛い」と感じられるのも実際以上に盛るからで、それがないだけでも今の時代は正直な人(企業)だと思われそう。

おもしろ広告のハードルは限りなく高くなる?

小口: 日清食品さんの広告は昔から面白いですが、その中でやる大変さもあるのでは?

尾上: 面白さのハードルが高く、なかなかこれでOKですとはならないのはツライです。「もうちょっと面白くなりませんか」と。これはアイデアを出すほうからすれば結構キツくて、追い詰められます。ひよこちゃんに「やってられっか!」「茶番はもう終わりだ。」などと言わせたのは、そのときに出た僕の本心なんですよ。

小口: (爆笑)

尾上: Webページにひよこちゃんに落書きさせたのも、最初は東新宿にある日清食品の本社にというアイデアでした。「バカ」とか本社の壁に書きましょうよと。ウケたんですけど、さすがに社長が先代に怒られると、Webページになりました。

小口: 犯罪と見分けが付かない広告(笑)。

尾上: 向こうが日和るぐらいなものを出さないとダメなんです。

不良になったひよこちゃんが商品紹介ページに落書き(画像提供/日清食品)
不良になったひよこちゃんが商品紹介ページに落書き(画像提供/日清食品)
公式ツイッターでの過激な発言(画像提供/日清食品)
公式ツイッターでの過激な発言(画像提供/日清食品)

小口: そのとき、これをやったら、どのぐらい売れるとかは考えない。

尾上: 考えないですね。面白けりゃ売れるだろうという発想です。それは日清食品さんの商品が、一度は食べたことがある、思い出すと食べたくなる商品だからです。みんなの記憶の中においしさがあるので、思い出しさえすれば買うんですね。実際、話題になるとものすごく売れています。いかに感情を刺激するか。そこに、数字的な計算はありません。

小口: しかし、そんなクライアントばかりではないですよね。

尾上: 別のクライアントさんの場合は、一応説明するんです。でも、説明しすぎるのはあまり良くないですね。それが意識高いものを産みますから。説得するために、「なんとかモデル」とかを使っていくと、自分もそのモデルにいつのまにか絡め取られてしまう。結果、本当にやりたかったことじゃないことをやってしまう。担当の人から始まって、その上役、さらに上役と通してしていくには、データやロジックを使っていく。そうなると、過去の事例をコピーしたようなものになって、こけるんです。

小口: トップに直接プレゼンしたほうがうまくいく?

尾上: まあ、正直そうですね。その点、日清食品さんは社長とブランドマネージャー、商品担当の人がよく打ち合わせされていて感覚を共有しているのでスムーズです。

小口: とはいえ、日清食品にも飛ばしすぎてダメだった広告とかもあるんじゃないですか。

尾上: それは多分あると思います(笑)。でも日清さんは失敗しても反省をしないというか、それを元に誰かを責めたりはしません。やると決めてやったんだから、それは今後の糧にすればいいと、嫌な感じにはならない。

小口: 常に新ネタに挑戦するお笑い芸人のような。

尾上: 逆に資料でガチガチに固めて通したものというのは、失敗すると誰の責任? となる。面白いかどうかの指標でやれば、外れたとしても俺らの面白いと世の中の面白いが違っていたと考えられるので。

小口: ポジティブですね。岩下食品のときも思いましたが、3代目社長は攻めに転じるケースが多いですね。

尾上: 現社長が大変勢いのある方なので、僕らも乗っかりやすい。多少は、これまで築き上げたブランドを壊しすぎではと不安になることもありますけどね(笑)。

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ネット時代は上から行ったらダメ

小口: 尾上さんはネットを得意なフィールドにされていますが、テレビなどの広告との違いは?

尾上: それもまた意識低いに近いかもしれないですけど、ネットでは上から行ったら失敗します。テレビは国営放送から始まったように、構造的に上から降りてくるメディアですが、ネットはボトムアップのみんなで作っていく世界です。そこで上から言ってくるやつはウザい老害みたいになる。そうじゃなくて、この人たちは僕らを好きになってくれそうだなという人を見つけて、一緒の目線で作り上げていく必要があります。

小口: ツイッターのいわゆる「中の人」も、企業代表じゃなく同じ会社員の目線から発信する点が好まれました。逆に外のプロの人ができることはどんなことですか?

尾上: だいぶ昔ですが、クライアントの「中の人」をやったことがあります。面白かったのですが、ずっと続けるのは、本当の社員じゃないと難しいと思いました。その都度、確認を取るのは大変ですし、リスクが取れませんから。SNSで企業が直接発信できる中、代理店ができることは、言葉だけじゃないアプローチで世界観を拡張していくことだと思います。もちろん、その一環でツイートの中身を考えたりしていますし、色々やるんですけど。

小口: 権限のほかにセンスや情熱も必要ですし、シャープのような強いアカウントを社内で作るのはなかなか難しそうです。それに、中の人もキャラクターとして人気になるほど、宣伝しにくくなりますよね。

尾上: 有名な企業のアカウントなのにフランクだと、ギャップで人気を獲得しているので、商品の紹介はむしろしづらくなる。友達みたいな顔して、いきなりモノを売り始めたら嫌じゃないですか。そういうときに、別に広告的なコンテンツがあれば、「こういうの作ったから見てよ、こういうイベントを企画したから体験してよ」とは言いやすいですよね。

【意識低いポイント】「友達みたいな顔して、いきなりモノを売り始めたら嫌じゃないですか」
自分以外の広告コンテンツがあることで、「中の人」も企業人として意識低い系のスタンスのまま活動することができる。ネットでは広告や宣伝の行為が嫌われがちであることが前提。上から目線ではないからこそ考えられる発想だ。

小口: ああ、「会社員なんで一応宣伝しますけど」みたいなスタンスがとれるわけですね。

(後編に続く)

(写真/稲垣純也)

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当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2018年12月4日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています