SNSの誤発注の元祖は100年前にも
小口: 話題作りがうまいなと思ったのは、2017年の10月9日(東急の日)に実施された池上線の「1日無料乗り放題」です。駅や商店街が人であふれた写真がSNSにアップされていました。
尾上: 普段乗客が1日19万人のところ57万人ぐらい来ましたからね。池上線って端っこから端っこまで行っても200円(ICカード利用で195円)の路線なんですけど、無料というだけで、こんなに人が来る。無料には人間にインプットされたあらがいきれない何かがあるんでしょうね。
小口: ケチは人間のDNAなんですよ、きっと。
尾上: 格好良く言うとフリーミアムとかになるけど、そんなことじゃないだろうと。閉店しなくても閉店セールをするなど、そういう手法って、実は100年以上前からあるんですよ。僕がすごい好きなのは、1800年代の広告なんすけど、「カーテン生地を仕入れすぎちゃったんで、安くします。みんな買ってください」ってのがあるんです。コピーライターの元祖っていわれる人がやってるんですね。
小口: 今もSNSなどでバズるコンビニやスーパーの誤発注案件そのものじゃないですか!
尾上: ネットでやると、ああいうふうに広まるというだけで、本質は同じです。
小口: 気持ちが動かされる。誤発注も、「かわいそうだから助けてあげたい」という心理が働くからバズるわけですよね。一種の自虐広告。
尾上: 昔、アメリカにウィリアム・バーンバックという名コピーライターがいまして、レンタカー業界でハーツが圧倒的に1位だった時代、2位のエイビスの広告で、「エイビスはナンバー2」ってキャンペーンで大いに成果を上げた。これも50年以上前の広告ですが、応援したい気持ちを利用したものです。その頃の広告にはヒントがたくさんあります。日本人も判官びいきですから、「がんばれNTT がんばるKDDI」みたいな広告はウケますよね。
小口: 昔から「型」としてあるんですね。としまえんが1990年のエープリルフールに出した「史上最低の遊園地。」なども、シャレとはいえ自虐です。
尾上: 「正直で自虐」が好まれるんですよね。このご時世みんな言い切るじゃないですか。ソーシャルメディアのアカウントをみんな持っていて発信し、それの承認欲求だらけの世の中で、正直に自分のダメさを言う人には面白い可能性がある。広告も、いつのまにか自慢ばっかりになっている。今は自虐がうまくいく、そういう潮目なんでしょう。逆にみんなが自虐し始めたら今度は自慢したほうがいいのかもしれません。