発売から43年を迎えたロングセラー商品「ペヤング ソースやきそば」で知られるまるか食品(群馬県伊勢崎市)。ここ数年は「背脂MAXやきそば」「パクチーMAXやきそば」「チョコレートやきそば ギリ」や、2142キロカロリーをうたう「超超超大盛GIGAMAX」を発売し、SNSなどで話題になっている。なぜペヤングは、ここまで変化球の製品で攻めているのか――。広報を担当する製品開発課係長の小島裕太氏に、疑問をぶつけてみた。
攻めの新製品ラッシュの原点は「激辛」
小口: ペヤングといえば、その味や、白くて四角いパッケージなど、昔から変わらないイメージが強かっただけに、ここ最近の攻めたラインアップには驚いています。
ここ3年ほどの新商品でやきそばに限って見ても、「激辛カレーやきそば」「わかめMAXやきそば」「パクチーMAXやきそば」(2016年)、「チョコレートやきそば ギリ」「ペペロンチーノ風やきそば」「ソースやきそばプラス納豆」「背脂MAXやきそば」「酸辣MAXやきそば」「鉄分MAXやきそば」「超大盛やきそばハーフ&ハーフW激辛」「もっともっと激辛MAXやきそば」(2017年)、「夜のペヤングやきそば 夜食ver.」「塩ガーリックやきそば」「超大盛やきそばハーフ&ハーフもっともっと激辛×辛さゼロ」「たこやき風やきそば」「ピリ辛野菜炒め風やきそば」「炒飯風やきそば」「すっぱからMAXやきそば」(2018年)などなど、怒濤(どとう)の新味投入です。何をきっかけに連打するようになったのでしょう?
小島裕太さん(以下:小島): 2012年に発売した「ペヤング 激辛やきそば」が原点で、ここから各種の面白い味の展開につながっています。
小口: 「辛すぎてヤバイ」とネットでかなり話題になりました。なぜ激辛のやきそばを作ろうと?
小島: 以前にも、塩味、カレー、キムチとか色々な味付けをやきそばと合わせているので、その中の一つという考えです。どうせだったら、かなり辛いところまで行こうという方向で開発しました。ただ、最初に試作品をコンビニさんのバイヤーに持っていったんですが、「辛すぎる」と言われて、辛さを落としました。
小口: 落としてあれですか。
小島: 口に入れた瞬間の、舌に残る痛さを重視しました。激辛ブームは定期的に来ますが、タイミングが良かったのかもしれません。ここまで話題になるとは思っていませんでした。
小口: どのぐらい売れたんでしょう。
小島: 数字は公表していませんが、ほとんどの新商品がスポットで終わるところ、「激辛やきそば」に関しては、定番商品になっています。カップ麺の場合、新商品の98~99%は終売になってしまうんですよ。
小口: お菓子や飲料なども、新商品が生き残る確率が低いですが、カップ麺も定番化が難しい業界なんですね。
新商品の発案は全て社長 YouTube映え?する「ギガマックス」も社長の発案
小口: 一般的にはテレビCMなど莫大な広告費を投入して定番商品化しようとするのですが、ネットとメディアの使い方が非常にうまい印象です。
小島: ここ最近はYouTubeで紹介いただくことも多いです。「ペヤング ソースやきそば超超超大盛GIGAMAX」(以下「ギガマックス」)はユーチューバーの方に気に入られたようで、「食べてみた」や、大食い記録、タイムアタックなどで商品を(動画に)出していただいています。特にうちからお願いしたわけではないけれども、商品の魅力や面白さを伝えてくれるのでありがたいです。
小口: ユーチューバーも切り口をいろいろ変えてきますよね。
小島: 女性で5個食べて1万カロリーですとかね。
小口: ギガマックスが普通の「ペヤング」の約4倍ですから、20個分ですか……約2倍の量の「超大盛」(2004年発売)は、コンビニで普通に買える定番商品になっています。
小島: 「超大盛」も発売当初は、「こんなの誰が食べるんだよ」という意見が多かったのですが、学生さんがこれプラスおにぎりなどを普通に食べていたりするみたいです。
小口: 「超大盛り」は空腹時なら完食できますね、アラフィフですけど。しかし、「ギガマックス」は無理。どんな方が買われるんでしょう?
小島: 最初は、おもしろ半分。どんなもんだろうと買われる方が多い。年齢層は若めです(笑)。
小口: ファンのほうも、ペヤングが次に何を出してくるか、常にチェックしているんでしょう。「ギガマックス」はネットの反応も早かった。
小島: ホームページにアップしたその日に、まとめサイトに記事にしてもらい、それがTwitterでリツイートされて、その週末には「サンデージャポン」「めざましどようび」などの番組に取材していただきました。
小口: 相当な広告効果ですよね。ここまで大きすぎると、他の商品と併せてじゃなくて、単体での紹介になりますし。オンリーワンの強みです。売れ行きのほうは?
小島: かなり好調です。小売店さんからの発注の勢いが止まらず、予定の数量の2倍以上の生産追加がかかっています。
小口: 「ギガマックス」の企画はどなたが?
小島: 社長です。商品の発案は全て社長が行っていて、これまで結構ぶっ飛んだものを作ってきましたが、何か別の切り口で作りたいと生まれたのが「ギガマックス」です。
小口: 社長じゃなきゃ却下されそうなアイデアではあります。社長さんの就任が2003年とありますから翌年に発売した「超大盛やきそば」にも深くかかってくるんですね。
小島: 社長のアイデアは面白いというか、ネットがざわつくようなアイデアを持っています。「ギガマックス」のパッケージに印刷されているコピーも、社長がこういう注意書きを入れたほうが、逆に興味をそそるだろうと、採用したものです。
小口: でかでかと「2142kcal」と印刷され、「※1日1食までにして下さい」との注意書きはインパクトあります。
小島: 隠すほうが、消費者にとっては、栄養成分見たときにこんなにあるのとなりますし、あえてネガティブを前に出してそれを売りにしようと。
否定的に指摘したがる人が多いが、最初からネガティブな情報を前に出しておけば、食べる人の自己責任であり、逆に潔い姿勢が評価されるようだ。
小口: 商品の企画はどういう形で行われるのですか。
小島: 常に試食会はあって、多いときは1週間に6品、7品をいっぺんに試食しています。社長交えて一緒に試食をします。
「ギガマックスを含めて、新商品の発案はすべて社長」という点を強調すべく、当該部分の表現を変更しております。
他社が追随できない理由
小口: 他社さんの動向は気になりますか?
小島: どうですかね。他社さんはラーメンが主力商品なので、あまり気にしていません。袋麺だと、たとえばノンフライの製品が出たとき他社が追随してバチバチな感じでしたけど。うちのように、焼きそばの商品を毎月のように出しているメーカーはないので、そんなに意識はしていません。
小口: なるほど。ところで、「ギガマックス」のように製品自体を大きくするのは、味を変えるのに比べて生産におけるコストも違ってきますよね。
小島: 容器も新しく作りますし、麺を入れて油で揚げるためのバスケットも新たに深く作る必要があります。工場のラインの改造費が売れなかったらムダになるので、自信がないとできません。「ソースやきそば」というロングセラーの土台がしっかりしているので、他のところで話題になるような商品にチャレンジしています。
小口: 攻めた商品が話題になることで、またブランドの認知が広がり、定番商品が売れるという好循環になっているのですね。ところで、「ギガマックス」も定番化を考えていますか?
小島: それは望ましいです。ただ、今は24時間生産しても受注に追いつかないような状況です。他の商品にしわ寄せが出ることもあり、総合的な判断が必要だと思っています。もちろん、お客様の声にお応えしたいので、フル稼働で生産しています。
当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2018年8月1日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています