自社商品について検索したら

小口: それは、いつごろから?

岩下: 3.11、東日本大震災がきっかけです。当時は新聞やテレビといったマスメディアも含め、かなり情報が錯綜していました。栃木と福島はそんなに距離が離れていないので、本当のことが知りたかった。そのとき、リアルタイムにキーワード検索で情報が調べられるTwitterの特徴を理解しました。

小口: まさに震災後は、Twitterユーザーが急増したタイミングでした。

岩下: 検索がTwitterの命だということに気がついたので、自社商品の検索もしてみようと思ったんです。これは仕事をしている人間として。すると、その当時で1日に20件ぐらい新生姜についての投稿があったんです。「岩下の新生姜、おいしい」というような。これは素直にうれしかったですね。

 というのも、それまでお客様の生の声を聞く機会は、それほど多くありませんでした。営業活動でお得意先の声を聞くことはできても、自分の懐を痛めて商品をご購入してくださっているお客様の声は届いていなかった。

 もちろん、それまでもフリーダイヤルのお客様相談室やWebサイト、メールなど、色々な形でお声をうかがう体制は用意してきましたが、実際そこに寄せられるお声の8割から9割は問い合わせなんですね。「商品はどこで売っていますか」「原産地はどこですか」「賞味期限を過ぎたけど食べても大丈夫ですか」というような。残念ながら、1~2割がクレームのお声。そして1%か2%がお褒めの言葉。数にすれば1年間に5件ぐらいじゃないでしょうか。それが、Twitterでは毎日のように感想をいただいている。1日20件とはいえ激変だと思いました。

小口: 消費者として、直接メーカーに「おいしかった」とかわざわざ連絡しませんからね。

岩下: しかも、僕らに対して言っているのではなく、周りのフォローしている人、もっと言えば全世界に対して発信している。「好きだ、おいしい」「こうするともっとおいしい」「お前も食ってみろ」と。読んでいて、本当にありがたいことだと。初めてユーザーの声が耳に届いた瞬間だったと言えるのではないかな。

小口: それらは他意や思惑のない、純粋な感想や意見ですよね。

岩下: もちろんそれ以前も、卸売業者やスーパーのバイヤーさんなどの声は聞くけれども、彼らは自分でお金を出して食卓で味わっているお客さんとは限らない。お客さまは別の形のものを求めている可能性もあるわけです。

 かつて、ムーンライダーズというバンドのリーダー、鈴木慶一さんが、「ネットの登場で、初めてファンの声が届くようになった。こんなにわかってくれる人がいるとわかった」というようなことをおっしゃっていて、一ファンとして「(鈴木さんにファンの声が)全然届いていなかったんだ」とその当時思いましたけど、それに近い。

 ネット以前は、作品の評価は音楽評論家によるところが大きかった。「ザ・ワースト・オブ・ムーンライダーズ(THE WORST OF MOON RIDERS)」というアルバムのジャケット写真は、レビュー記事の上にニンニクと生姜がのっている(※)。まるで、呪い殺すみたいな感じで。そのぐらい彼らの言葉が重かったんですね。

※ 実際にはニンニクと唐辛子ですが、この言い間違いは社長の生姜愛ゆえ?

小口: バイヤーさんの声がかつてのミュージシャンにとっての音楽評論家の声。

岩下: 少し違うかもしれませんが、ユーザーの生の声が聞けたという意味では同じ。ユーザーが何を感じているか、そもそもこの商品は可能性があるのかどうか、もっと言うと誰が食べているのか。全然 見えなかったことがTwitterでわかってきた。もちろん、SNSにはそれぞれの属性がありますし、そこに参加している人が基本的にはうちの商品のコアユーザーではないので、その点を考慮したうえで読むようにしていますが。