環境に優しい葬儀ビジネスへの参入

小口: ここまで来ると、逆にやらないビジネスは何だろうという疑問も。

井下: とくに制約はないですね。もちろん、法律に反するようなビジネスは論外ですが。今度、葬儀関連の事業を新たに始めます。ご遺体の冷却ベッドです。

小口: 冷却ベッド?

井下: 現在、年間で130万人ぐらいの方が亡くなられていますが、2030年には160万人を超えると予測されています。ところが、火葬場は減っていて新設も難しいため、火葬待ちが起きている。日程が決まらないと葬儀もお通夜もできません。それまでの間、ご遺体はドライアイスで状態を維持することになりますが、ドライアイスは二酸化炭素そのもので環境に悪い。冷却ベッドはペルチェ素子を使い、ドライアイスを使わずにご遺体を冷蔵保存する製品です。

小口: 電気的に遺体を冷却するわけですね。病院の霊安室にある冷蔵庫との違いは?

井下: 普通車でも運べるぐらいのサイズなので、ご自宅でも使用が可能です。これまでは葬儀社の人が1日10kgのドライアイスを運んでいました。本体コストも、ドライアイスを使った場合の2年未満で回収できる計算です。

小口: ペルチェ素子というと、小型の冷蔵庫に使われているイメージですが、性能的に大丈夫なのでしょうか?

井下: 一般的なペルチェ素子は外気温に左右されやすいのですが、マイナス32度で維持できる特殊な技術を使用し、遺体の深部から冷却することができます。実際、これまで4年間、仮葬待ちのご遺体を安置する「ご遺体ホテル」で、約80台の試作機で実際に使ってもらって、効果を確かめています。

小口: 社内で反対や慎重論は起きなかったのですか?

井下: すんなりと通りました。会社によっては、それはタブーだろうと言われるかもしれませんが。このビジネスがいいなと思ったのが、環境への貢献以外にも、ご遺族への心情にも添ったものだからです。ドライアイスはご遺体の上に置かれますし、マイナス何十度でカチカチに凍らせてしまう。ご遺族は、故人がかわいそうと思われるのですね。冷却ベッドにはそれがありません。東京ビッグサイトで8月に開催される「エンディング産業展2017」にて正式に発表する予定です。

まとめ
 ここに紹介した以外にも、新商品の情報をかなりたくさん聞くことができた。自由度の高い発想で開発される数多くの商品。斬新な商品ほど売り方が難しそうにも思えるが、販売方法についても柔軟な発想で対応している。ドウシシャの社内では「魚屋に時計を売る理論」という言葉があり、いろいろな商品を既成概念にとらわれずに、いろんな売り先を考える習慣が身についているという。今では当たり前になったが、家電量販店が高級腕時計やカバンといったブランドものを扱うようになったのは、ドウシシヤの勧めだったという。「つぶれないロマン」のある会社ドウシシャは、知れば知るほど意識低い系マーケティングの理想像に近い。

 改めて3回にわたったドウシシヤの意識低い系マーケティングのポイントを押さえておきたい。
[1]ニッチ市場でナンバーワンを目指す
→市場規模が大きくても大手メーカーがひしめく分野では戦わない。ましてや価格競争はしない。
[2]ニッチ市場は季節と人生の節目に見つける
→かき氷器やクリスマスイルミネーション、ご遺体の冷却ベッドなどがそれに当たる。
[3]大きな市場は分割してニッチにしてしまう
→デザインボトルのmosh!のように使い方や対象を考えてセグメンテーションする。
[4]オープンイノベーションを有効に使う
→扇風機のkamomefanでは、商品にうまくストーリーを追加して、他社製品との違いを強調した。
[5]カッコ悪いデザインはしない
→誰もが知っているものをモチーフにしたり、ターゲット層になじみのあるキャラクターを活用したりする。

当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2017年7月18日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています