知る人ぞ知る“ものづくりカンパニー”ドウシシャの商品開発に迫る第3回。企業が成長を続けるには、新市場の創造は欠かせない。隠れたニーズを見つけるのはもちろん、高齢化といった社会的環境の変化にも目を配り、市場を見つけ出す努力が必要になる。その点、ドウシシャの新商品には、新市場創造への目の付けどころのヒントが満載だ。「ドヤ家電」の命名者である小口覺氏が、ドウシシャの開発の秘密を意識低い系マーケティング的視点で明らかにする。
お話を聞いたドウシシャの皆さん
足元専用のセラミックヒーター
小口: 現在、期待している商品を教えてください。
井下: 去年は好評で売り切れた足元専用のセラミックヒーターです。普通のセラミックヒーターの消費電力は600Wや1200Wですが、これは130W。42度という足湯ぐらいの温度を持続するヒーターです。
小口: 温風が出て靴を履いたままでも使える。
井下: 狙ったのはオフィスで働く女性です。女性は末端の冷える人が多いですから。130Wでも足元を温めると体全体がほどよく温まります。それに、1000Wのヒーターを皆が使い始めると会社のブレーカーが落ちてしまう(笑)。オフィスで使うのに罪悪感がないように、ブラウンなど目立たない色も作りました。
小口: ありそうでなかった商品ですね。夏場も、冷房による冷え対策として使えそうです。活性炭フィルターも搭載しているのですね。
井下: 消臭とまではいきませんが、せめて足の臭いを拡散しないようにですね。バイヤーさん向けの展示会でも好評で、すでに韓国からも問い合わせが数件来ています。
海外向けの販売には力を入れる
小口: 他の商品も海外での展開は多いのですか?
井下: デザインボトル「mosh!」の販売の30%が韓国です。韓国でも有名タレントさんのInstagramでブームを巻き起こしています。日本ではライセンスの関係で販売できませんが、LINEのキャラクターとコラボした製品も出しています。
「kamomefan」は韓国や中国で、加湿器は米国で売れている。今、台湾風かき氷が作れる「とろ雪」には、台湾からオファーが来ています。
小口: 一種の逆輸入といえそうです。
井下: これまで海外での販売にはあまり力入れてこなかったのですが、流石に日本のマーケットだけ見ているのではダメなので、今後は第2事業本部が中心になって海外販売を進めていく予定です。かき氷器については、来年さらに進化させた製品を出す予定です。
企業内コラボレーションもどんどん推進
小口: 最初に御社の強みとして、各部門が独自に運営されているとありました。それぞれの事業部で培ってきたノウハウなどの情報交換などは行われているのでしょうか?
井下: 各部門が独立採算でリスクをヘッジする仕組みは、これまでうまく機能してきましたが、その副作用として横の交流が少なかった。なんとかしなければという危機感は以前からありました。まずは、企業内コラボレーションから始めています。「ごろねこサミット」というキャラクターがあるのですがご存じですか?
小口: いえ、知りませんでした。
井下: われわれの部署で始めたキャラクタービジネスなのですが、女子社員が自分で絵を描いたクッションを売り出した。これが思わぬヒットで初年度55万個ぐらい売れています。キデイランド原宿店でも特設コーナーを作ってもらった。
小口: それはすごい。
井下: まだ無名のキャラクターとしては快挙でしょう。社内のアパレルの部署とライセンス契約をして、今度Tシャツなどの衣類を売り出します。こういう社内の交流によって、今新たなビジネスが生まれつつあります。まだまだですけど。せっかく社内にいろいろなリソースがあるのに、横のつながりがないのはもったいないですから。
小口: キャラクタービジネスへの参入も自由度高いですよね。普通はサンリオじゃないんだからってなりそうですが。しかし、自社のみであらゆるアイテムで展開できるのはサンリオ以上。何十年後にはハローキティのように御社を支えているかもしれませんね。
環境に優しい葬儀ビジネスへの参入
小口: ここまで来ると、逆にやらないビジネスは何だろうという疑問も。
井下: とくに制約はないですね。もちろん、法律に反するようなビジネスは論外ですが。今度、葬儀関連の事業を新たに始めます。ご遺体の冷却ベッドです。
小口: 冷却ベッド?
井下: 現在、年間で130万人ぐらいの方が亡くなられていますが、2030年には160万人を超えると予測されています。ところが、火葬場は減っていて新設も難しいため、火葬待ちが起きている。日程が決まらないと葬儀もお通夜もできません。それまでの間、ご遺体はドライアイスで状態を維持することになりますが、ドライアイスは二酸化炭素そのもので環境に悪い。冷却ベッドはペルチェ素子を使い、ドライアイスを使わずにご遺体を冷蔵保存する製品です。
小口: 電気的に遺体を冷却するわけですね。病院の霊安室にある冷蔵庫との違いは?
井下: 普通車でも運べるぐらいのサイズなので、ご自宅でも使用が可能です。これまでは葬儀社の人が1日10kgのドライアイスを運んでいました。本体コストも、ドライアイスを使った場合の2年未満で回収できる計算です。
小口: ペルチェ素子というと、小型の冷蔵庫に使われているイメージですが、性能的に大丈夫なのでしょうか?
井下: 一般的なペルチェ素子は外気温に左右されやすいのですが、マイナス32度で維持できる特殊な技術を使用し、遺体の深部から冷却することができます。実際、これまで4年間、仮葬待ちのご遺体を安置する「ご遺体ホテル」で、約80台の試作機で実際に使ってもらって、効果を確かめています。
小口: 社内で反対や慎重論は起きなかったのですか?
井下: すんなりと通りました。会社によっては、それはタブーだろうと言われるかもしれませんが。このビジネスがいいなと思ったのが、環境への貢献以外にも、ご遺族への心情にも添ったものだからです。ドライアイスはご遺体の上に置かれますし、マイナス何十度でカチカチに凍らせてしまう。ご遺族は、故人がかわいそうと思われるのですね。冷却ベッドにはそれがありません。東京ビッグサイトで8月に開催される「エンディング産業展2017」にて正式に発表する予定です。
改めて3回にわたったドウシシヤの意識低い系マーケティングのポイントを押さえておきたい。
[1]ニッチ市場でナンバーワンを目指す
→市場規模が大きくても大手メーカーがひしめく分野では戦わない。ましてや価格競争はしない。
[2]ニッチ市場は季節と人生の節目に見つける
→かき氷器やクリスマスイルミネーション、ご遺体の冷却ベッドなどがそれに当たる。
[3]大きな市場は分割してニッチにしてしまう
→デザインボトルのmosh!のように使い方や対象を考えてセグメンテーションする。
[4]オープンイノベーションを有効に使う
→扇風機のkamomefanでは、商品にうまくストーリーを追加して、他社製品との違いを強調した。
[5]カッコ悪いデザインはしない
→誰もが知っているものをモチーフにしたり、ターゲット層になじみのあるキャラクターを活用したりする。
当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2017年7月18日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています