知る人知る“ものづくりカンパニー”ドウシシャの商品開発に迫る第2回。前回は同社が得意とするニッチ市場での戦い方を紹介したが、今回は逆に大手メーカーがひしめく、扇風機と液晶テレビでの戦い方を紹介しよう。ポイントはオープンイノベーションとデザイン。ドウシシャはいかにして大手メーカーとの違いを出しているのか? 「ドヤ家電」の命名者である小口覺氏が、ドウシシャの開発の秘密を意識低い系マーケティング的視点で明らかにする。
お話を聞いたドウシシャの皆さん
他社の技術やブランドを一気に獲得
小口: 商品開発で重視されていることの3つめが、「オープンイノベーション」。他の企業や研究機関と組んで新しい商品を作ることですね。
井下: たとえば家電では、ウイルスや菌を除去する大幸薬品さんのクレベリンを搭載した加湿器や、船舶用プロペラの大手メーカー、ナカシマプロペラさんと組んで羽根を設計した扇風機の「kamomefan(カモメファン)」が、その成果です。
小口: 「kamomefan」は湾曲したカモメのような羽根が特徴ですが、海は海でもスクリューに由来していたのですか!
井下: 水と空気の違いはあれ、いかに抵抗を少なく作るかについてナカシマプロペラさんが長年研究してきた技術がある。「船のスクリューが作れるなら扇風機の羽根もできるんじゃないの?」とノリでお願いしたところ、面白そうだからやりましょうという話になった。その結果、カモメの羽をヒントにした独自の形状により、最大17メートル先まで風が届く直進性と、柔らかくて、静音性の高い風を実現しました。現在では、軟らかい素材を羽根に採用することで、さらに風量が増え、静音性、省エネ性能もバージョンアップしています。
小口: 震災以降注目されている扇風機ですが、際だった特徴がないと売れなくなってきています。自社で一から開発すれば、時間も費用もかかるところ、オープンイノベーションなら一気に解決できる可能性がある。
井下: オープンイノベーションにはもうひとつメリットがあって、話が面白くなるでしょう。「ナカシマさんって?」「世界トップクラスの船舶プロペラメーカーですよ」と、背景にあるストーリーが語れますから。
小口: 消費者としても、そういうエピソードは引き込まれますし、購入の後押しになる。また、ブランドの相乗効果も期待できます。
井下: クレベリン加湿器がまさにそれです。大幸薬品さんはクレベリンと正露丸が有名ですが、彼らが時間と労力かけて培ってきたブランディングをコラボレーションでは一気に獲得できます。
小口: 名前だけのブランドコラボではなく、技術のコラボは意味が大きい。オープンイノベーションの対極にあるのが自前主義ですよね。日本企業は自前の技術にこだわるがゆえに開発の速度が遅いと指摘されてきました。自前主義は、全部自分でやるというプライドですから、意識高い系ですよね。自前のネタに引っ張り込んで恐縮ですが(笑)。
素直にカッコイイと思えるデザインを
井下: 4つめの「デザインのドウシシャ」は、願望でもあるのですが、基本的にカッコイイもの、カワイイものを作ろうということです。
小口: デザインへのこだわりについては、この連載で意識高い系のひとつとして否定的に書いてきたのですが(笑)。
井下: あくまでも感覚的な話です。デザインが悪い必要性はないですから。カッコ悪いものは絶対に出すなよと言っています。ただ、会社としてデザインのガイドラインがあるわけではなく、個々のデザイナーが良いと思う、そして誰もが良いと思えるデザインを目安にしています。
小口: なるほど、理解しました。d-designの製品を拝見すると、すごくとがっているわけではなく、部屋に置いても違和感のないデザイン、ちょっとオシャレという印象を受けます。
井下: 奇をてらうようなデザインはやらないですね。
小口: これは個人的な感覚ですが、最近の自動車のデザインは凝りすぎてヘンな方向に行っている気がします。デザインを思想面で突き詰めた結果、その世界では評価されても一般には受け入れにくいものになっているのではと。意識高い系じゃなくて、普通の人や普通の部屋にちょうどいいデザインは大事ですね。
従来の概念を覆すデザイン
中込光輝さん(以下、中込): 扇風機も最初の製品からかなり進化しています。
小口: 三脚のような折りたたみの脚を備えたFシリーズはかなり独創的ですね。
中込: 扇風機は昭和のはじめから形が変わっていません。座敷に座った状態で使われていたため、操作部は台座にある。なぜか椅子の時代になった平成になっても、そのままの製品が多い。そこで、「kamomefan」では椅子に座ったままでも操作しやすいよう高い位置に操作部を付けました。加えて、収納しやすいよう軽量化や小型化にもこだわっています。
小口: 扇風機は意外とオフシーズンの収納に困りますからね。収納といえば、この平べったくなる「DCフォールディングファン」は画期的ですね。これで首振り機能も備えているとは。
中込: おそらく6.6cmは世界最薄で、押し入れやちょっとした隙間に収納できます。これは部内のプロダクトデザイナーのアイデアです。「これはいい、やろう!」となったのですが、実際に製品にするには難儀しました。
扇風機は吸気と排気、そして風道の組み合わせで風の流れを作ります。薄くすると風が作りづらい。最初は、風が全然出ないところからのスタートです。結果、羽根とモーターを一体化させた特殊な羽根を作ることで風量を確保しました。
小口: 「kamomefan」の羽根とは違うんですね?
中込: より薄くて風が出る羽根を独自に開発しました。今年からは新たに開発した13枚羽根でより風量を大きくしました。まだまだ新しい羽根も開発中です。
国内第5位のテレビメーカー
小口: デザインといえば、ドウシシャさんらしいなと思ったのがレトロな液晶テレビです。ガチャガチャ回せるチャンネルなど、懐かしさにグッと来るものがありますが、これって意識高いデザイナーなら絶対手がけないでしょう(笑)。どういうきっかけだったのでしょう。
目黒弘泰さん(以下、目黒): テレビについては、1980年代にいわゆるテレビデオ(ビデオ一体型テレビ)を発売して以降変遷を重ね、今は液晶テレビを扱っています(「サンスイ」ブランドとしても展開している)。国内の販売台数では、シャープさん、東芝さん、パナソニックさん、ソニーさんの次、5位に付けています。
小口: それは知りませんでした。
目黒: 販売金額ベースでは(順位は)変わってきますが……。というのも、少し小さめの、2台目、3台目のテレビがターゲットだからです。2011年の地デジバブルのときは、約100万台、全体の約10%のシェアがありました。需要の先食いをしたため、その後テレビが売れなくなりまして、そんなときに第2事業本部のd-designに刺激を受けて企画したのが、昭和テイストのテレビだったのです。
小口: レトロデザインの家電は昔からありますが、画面サイズと価格で選ばれる液晶テレビでは珍しい。まさにニッチ市場です。
目黒: 実はドウシシャはブラウン管テレビを最後まで売り続けた会社でして。それもニッチ市場になるんですけど、ホームセンターでは重宝されていました。
小口: それは、どういう理由で?
目黒: 液晶テレビが出始めたとき、年配の方には、受け入れられなかった人たちも多かったのです。大手のメーカーがブラウン管テレビから撤退していく中でシェアを獲得していった。地デジ対応のブラウン管テレビも作りましたから。
小口: すごい(笑)。ブラウン管のメリットは特にないと思うんですが、形から来る安心感なんでしょうか。レトロ液晶テレビのデザインは1970年代テイストですが。
目黒: テレビが売れなくなったとき、お客様目線で使い方を想像したのですが、和室って全国にどのぐらいあるんだろうという話になりました。調べてみると、50坪以上の家には、99%和室がある。都内のマンションでも、新築では減少していますが、昔の物件では必ず1室は和室になっている。和室に黒い液晶テレビってどうなのと、ひらめいたのが昔のブラウン管のような液晶テレビなのです。
小口: どのぐらい売れています?
目黒: 発売間もないので売り上げが1億円足らずです。
小口: どんな人が買っているのでしょう。
目黒: データはないのですが、年配の方には懐かしさを、若い方には新鮮なデザインと感じてもらえているようです。小売店さんに注文される1点買いのお客さんも多い。いくつか問い合わせがあったのがインバウンド向けの旅館です。外国人のお客様を迎えるにあたり和室に置いてみたいという相談もありました。
小口: 和室に合うテレビという意味で狙い通りですね。
目黒: 第2弾としては、アメリカンテイスト、カラーも赤とか水色など、もっとニッチに向けた製品を出す予定です。
扇風機については、オープンイノベーション。これは最近よく聞く言葉で、ほかの企業や研究機関と組んで新しい商品を作ることだ。ドウシシャは、外部の企業と組むことで、製品に“物語性”を付加。他社との競争を優位にする戦略を採用した。
一方、液晶テレビは大手メーカーがひしめき、かつ価格競争の激しい分野だが、ここでもニッチ市場を作り出そうとしている点は興味深い。しかもデザインで勝負しているのだが、そのモチーフが昭和のブラウン管テレビというのが意識が低く、ドウシシャらしいと感じた。
(ドウシシャの秘密[3]に続く)
当記事は日経トレンディネットに連載していたものを再掲載しました。初出は2017年7月14日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています