高速バス大手のWILLER(ウィラー)が、移動革命の旗手になる。さまざまな移動手段を束ね、横断的に検索、予約、決済できるMaaSアプリを2019年7月に導入。19年10月には区域内を一定額で乗り放題とする定額制MaaSサービスに乗り出す。自動運転の商用化も見据える“革命児”が語る未来像とは。
世界遺産の知床を擁する「ひがし北海道(北海道の道東エリア)」。絶景までのラストワンマイルを埋める新たな交通手段が登場する。トヨタ自動車の超小型モビリティ「i-ROAD(アイロード)」だ。
雄大な大自然の中を、風を切って疾駆する。この新しい移動の形を示したのが、WILLER。JR北海道や地元の自治体などを巻き込み、北の大地で観光型MaaSのプラットフォームをつくろうとしている。
その一つが「ひがし北海道ネイチャーパス」。網走と釧路を結ぶJR釧網本線(せんもうほんせん)の乗り放題に、斜里バス、摩周線バスへの2回乗車券、あばしり観光施設めぐりバスの1日乗車券が付く。
さらに、釧網本線の無人駅「緑駅」や、知床観光の玄関口となるウトロエリアにi-ROADを設置。オプションで利用できるようにすることで、鉄道駅と観光地をシームレスにつなぐ旅行サービスを展開する。実証実験を経て、19年5月9日から通年販売を始めた。
「空白地帯を埋める新しい交通サービスをつくるのが、我々の役目」と、村瀨茂高社長は繰り返し語る。知床にはカムイワッカ湯の滝やオシンコシンの滝、原生林に囲まれた知床五湖と呼ばれる秘境が点在するが、すべてを網羅する周遊バスはない。一方で、釧網本線の知床斜里駅とウトロ温泉バスターミナルを結ぶ路線バスは存在する。
この“空白”を結ぶのに最も必要なのは何かと考えたとき、浮かび上がったのがi-ROADだった。「アウトドア的な一体感がある乗り物として最適なのは小型モビリティ。レンタカーも悪くはないが、密封性が高いので、外との一体感はあまり感じられない。その景色を最も楽しめる交通サービスを打ち出していきたい」(村瀨氏)。
一足飛びに「レベル2」「レベル3」へ
必要なところに必要なモビリティを最適配置する。WILLERはそこから一歩進み、このひがし北海道をフィールドに、7月下旬をめどに、MaaSアプリを投入すると決めた。鉄道や路線バスに加え、タクシーやレンタサイクル、レンタカーやカーシェアなど、さまざまな交通手段を組み合わせて最短ルートを検索して表示。予約、決済までできるサービスだ。
この予約と決済の統合は、MaaSの中で「レベル2」の段階にある。WILLERは19年10月、その先の「レベル3」に当たるサービスの統合に挑む。レベル3とは、一律もしくは定額料金で、さまざまな移動手段が乗り放題となるプラットフォームのことを指し、日本でいち早く世に問うことになる(関連記事「MaaS定義は5段階 国内プレーヤーの現状は、ほぼ「レベル0」」)。
年間約150万人が訪れるというこの地域の観光手段は現状、レンタカーや団体の大型バスに限られている。WILLERは、さまざまなモビリティを組み入れた独自の「移動パッケージ」をモデルコースとして示すことで、「まずは、150万人のうちの5%を振り向けることにチャレンジしていく」(村瀨氏)。15年から運営に携わる京都丹後鉄道(丹鉄)沿線でも、同様のアプローチでMaaSアプリを投入する。
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