「MaaS元年」を迎えた日本のキープレーヤーの動きを追う本特集。第2部の筆頭は、トヨタ自動車と西日本鉄道が福岡で実証実験を行う、国内初の本格的なMaaSアプリ「my route(マイルート)」だ。スタートから約6カ月で見えてきた導入効果と課題とは?

西日本鉄道は、約2700台のバス車両を保有する日本最大級のバス事業者。福岡市内に網の目のようにバス路線を展開している
西日本鉄道は、約2700台のバス車両を保有する日本最大級のバス事業者。福岡市内に網の目のようにバス路線を展開している

 「トヨタを『モビリティカンパニー』にフルモデルチェンジすることこそが、私の使命である」

 2019年5月に行われたトヨタ自動車の決算説明会。豊田章男社長は、改めてこう語った。従来の自動車メーカーのビジネスモデルは崩壊しかねない――。そんなトップの強烈な危機感を背景に、トヨタは今、新たなモビリティサービスの創出と“仲間づくり”に全方位で突き進んでいる。

 その1つが、18年11月から福岡で展開されているMaaSアプリ「my route(マイルート)」だ。同年10月に華々しくデビューしたソフトバンクとの合弁会社、モネ・テクノロジーズに比べれば地味な動きに見えるが、国内企業で初の本格的なMaaSアプリと言えるものだ。

 マイルートでは、バスや鉄道、タクシー、レンタカー、自転車シェアリングといった、複数の移動手段(マルチモーダル)を組み合わせたルート検索ができる。加えて、タクシーの予約・決済、西鉄バスのデジタルフリー乗車券(1日、6時間)もアプリで購入可能。さらに、福岡エリアのイベントや店舗、スポット情報も充実しており、時折、飲食店などの割引クーポンなどが提供されている。

 使い勝手は、比較的よく練り込まれている。例えば、マイルートの「スポット」欄から行きたいイベントを選ぶと、その画面からワンタップで目的地に設定でき、そのままルート検索が可能。また、選んだルートをカレンダーに保存できるから、先々の計画を立てやすい。単なる経路検索アプリではなく、そもそもの移動目的の「発見」から実際の「行動」まで、1つのアプリでカバーする。地域の活性化や観光MaaSの視点も、うまく取り入れている印象だ。

マイルートのアプリ画面。最適なモビリティを組み合わせたルート提案に加え、目的地となるスポット情報が充実している
マイルートのアプリ画面。最適なモビリティを組み合わせたルート提案に加え、目的地となるスポット情報が充実している

 このアプリや決済プラットフォームを開発、運営しているのが、トヨタだ。新商品コンセプトやビジネスモデルの開発を担う、同社の未来プロジェクト室が推進する。未来プロジェクト室の天野成章氏は、「トヨタがモビリティカンパニーに変わるには、人がもっと移動したくなる社会をいかにつくるかが鍵になる。そのためには、マイカーだけにこだわらず、すべての移動手段をワンオブゼムと捉え直すことが出発点。マイルートを進化させていくことで、現代の生活者が抱える移動の不便を解消し、移動需要そのものを喚起していきたい」と話す。

 トヨタでマイルートに至るアイデアが生まれたのは、5年ほど前のこと。その後、100都市以上の調査をする中で、福岡を最初の地に選んだ。その理由は、西日本鉄道の存在によるところが大きい。同社は福岡で高密度のバス路線網を持ち、鉄道も運行しており、福岡市の交通分担率の約7割を握るキープレーヤー。「移動の総量を増やしたいというトヨタの目的に対し、既存のビジネスや目先の利益にとらわれず、『まず一緒にやろう』と合意できた」(天野氏)という。

 今回、マイルートにおいて西日本鉄道は、路線バスのリアルタイム位置情報や、グループが運営する店舗・イベント情報などを提供。その他、自転車シェアではメルカリ(サービス名は「メルチャリ」)、タクシー配車ではJapan Taxi、駐車場検索ではakippaなどが参加している。

 こうして始まったマイルートの実証実験は、すでに6カ月が経過した。当初3月末に設定していた期限を8月末に延長し、さらに継続される見込みという。では、国内で先陣を切ったMaaSは、どのような効果を生み出しているのか。

次ページ以降の内容
  • バス、鉄道、自転車シェア――利用者の移動手段が変わった
  • 「思いがけない店・場所を発見」MaaSアプリの注目効果
  • マイルートの課題、改善ポイントは……
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