1台の車両を見知らぬ人同士でシェアする「相乗りタクシー」が2019年度にも、日本で解禁される方向となった。乗りたいときにすぐ呼べて、タクシーより安く移動できる。MaaSの本命となり得る新たな公共交通だ。その要となる配車システムを持つ日米の両雄が、早くも水面下で綱引きを繰り広げている。

森ビルはヴィアと組んで、社員を対象に相乗りシャトルサービスの実証実験を進める
森ビルはヴィアと組んで、社員を対象に相乗りシャトルサービスの実証実験を進める

 東京都心の摩天楼、六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズ周辺で、相乗りサービスの実証実験が進んでいる。HillsVia(ヒルズ・ヴィア)である。森ビルの社員約1300人が、通勤時や帰宅時、外出時にシェアする、オンデマンド型のシャトルサービスだ。

 期間は、18年8月1日から1年間。メルセデス・ベンツのミニバン「Vクラス」を4台使い、港区を中心に平日午前8時~午後7時半に運行している。定員は最大6人(運転手を除く)で、専用アプリで現在地と目的地を選べば、同じ方向へ向かう同僚とマッチングする仕組み。運行費用は森ビルが負担し、社員は無料で乗車できる。

 この配車予約・運行システムを提供しているのが、米国のVia(ヴィア)という企業。日本での知名度は低いが、世界15カ国約40都市で展開している、グローバル企業だ。19年4月には、伊藤忠商事も戦略的な出資を発表し、森ビルとともに日本で合弁会社を立ち上げた。今後、急速に日本で事業展開していくのは、間違いない。

 ヴィアは13年、米ニューヨークを皮切りにサービスを始めた。全世界で総乗車回数は5000万回超、月間利用者数は200万人を突破するインフラとなった。米国といえば、ライドシェア大手のウーバー・テクノロジーズやリフトを思い浮かべるかもしれないが、ライドシェアの中でも、こと相乗り利用に限れば、ヴィアはニューヨークのマーケットシェアの6割を握る。ウーバーも「uberPOOL(ウーバー・プール)」という相乗りサービスで追随したが、ヴィアの後塵を拝しているのが現状だ。

 路線バスや列車は運賃が安い一方、乗りたいときに乗ることはできない。その意味で、柔軟性に欠ける。一方、タクシーは柔軟性が高い。つまり、すぐに呼べて行きたいところにピンポイントで行けるが、運賃は高額だ。ヴィアは、その中間を埋める存在。バスや電車に近い料金で、しかもタクシー並みの柔軟性を持たせた新たな公共交通。ウーバーやリフトでさえ、高いと感じる消費者の心をとらえた。

 ヴィアのルーツはイスラエルにあり、開発部隊は今もテルアビブにある。約500人の社員のうち、半数近くがエンジニアという技術者集団であり、その強みは、独自のアルゴリズムに垣間見える。例えば、ウーバーやリフトは基本的に、運転手1人に対し、乗客も1人(もしくは1組)というシングルライドを得意とする。これに対し、複数人を途中でピックアップし、別々の場所で下ろすヴィアの相乗りサービスは、高度で複雑なアルゴリズムが要求される。

Viaのアプリ画面。料金は走行時間ではなく、エリアごとに決められている
Viaのアプリ画面。料金は走行時間ではなく、エリアごとに決められている

 ヴィアが画期的なのは、同じ方向へ行く人を無駄なく集め、渋滞状況や需要に応じて瞬時に最適なルートをはじき出すアルゴリズムを構築し、ストレスフリーの移動を形にしたことにある。利用者は、アプリ上に網の目のように配した“バーチャルストップ”まで、少し歩くだけでよい。「相乗りとはいえ、到着までの所要時間は(シングルライドと比べて)3%の違いしかない」。そう語るのは、外資系モビリティ会社に詳しいRoots Mobility Japan代表で、Viaのアドバイザーも務める安永修章氏だ。

 ニューヨークの例をひも解くと、1マイル当たりの利用者数は、ヴィアが1.8人に対して、ウーバーが0.6人、タクシーは0.5人。ラッシュ時はヴィアの9割超の車両が、3人以上の乗客を運んでいる。それだけ効率的に配車できているのだ。

 折しも、米国では、1対1のライドシェアが広がりすぎて、渋滞が社会問題になっている。抜本的な解決策として、21年にはニューヨークで渋滞税が導入される見通しだが、ウーバーが1人につき2.75ドル加算されるのに対し、乗り合い利用が前提のヴィアは75セントにとどまる。利用者がさらにヴィアに流れる可能性がある。

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