日本版MaaSの実現に向けて、経路検索サービス事業者が好機到来とみて息巻いている。磨き上げてきたノウハウを生かし、マイクロモビリティなど新しい移動手段も含めてドア・ツー・ドアで最適な経路をはじき出し、チケットの予約も実現。さらにレベル4も視野に入れた取り組みも活発になっている。

ジョルダン、ヴァル研究所、ナビタイムジャパンなど、経路検索サービス事業者が日本版MaaSの土台作りで旗振り役を買って出ている(写真/Shutterstock)
ジョルダン、ヴァル研究所、ナビタイムジャパンなど、経路検索サービス事業者が日本版MaaSの土台作りで旗振り役を買って出ている(写真/Shutterstock)

 「世界一と評される、日本の交通インフラ。そのハードの魅力を最大限生かすソフトの“質”を変えなければ、世界に取り残される」。25年近く交通機関の経路検索サービス「乗換案内」を提供してきたジョルダン社長の佐藤俊和氏は、MaaS時代の到来を踏まえ危機感を募らせる。

 MaaS革命によって諸外国では、公共交通の貧弱さを相乗りタクシーや電動キックスケーターといった新しい移動手段が補い、ドア・ツー・ドアの移動でこれまでにない利便性を享受できる環境が整いつつある。「Uberなど優れたアイデアのソフトが生まれたことで、ハードである交通の隙間を“アリの軍団”が埋めてくれるようになった」(佐藤社長)。

ジョルダンは共通基盤作りを目指す。写真は右が社長の佐藤俊和氏、左が戦略企画部長の佐藤博志氏
ジョルダンは共通基盤作りを目指す。写真は右が社長の佐藤俊和氏、左が戦略企画部長の佐藤博志氏

 翻って日本。確かに、緻密なスケジュールで運行する鉄道や路線バスのネットワークが張り巡らされ、全国で相互利用できるSuicaなど交通系ICカードや高速道路の自動料金収受システムETCが普及し、ハード面は充実している。ただMaaSモデルの「レベル4」で掲げる、交通の制御により人やモノの流れを最適化できるスマートシティーの実現を目指すには、人々が新旧さまざまな移動手段を組み合わせて最適なルートを使って移動できるよう促す仕組み作りが欠かせない。ソフトこそが、日本でMaaSが社会に浸透するかどうかの鍵を握っているわけだ。

 こうした背景から、冒頭のジョルダンをはじめとした経路検索サービス事業者が立ち上がった。消費者と公共交通機関の間に立ち、長年利便性を高め続けてきた経験を生かし、未来志向のMaaSサービスに必要なソフトをこの国に根付かせようと躍起になっている。

交通機関の大同団結を夢見て

 共同戦線型を掲げ、全国の鉄道会社やバス会社などが大同団結し、互いに抱えるデータをAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を通じて融通し合う共通基盤作りを目指すのがジョルダンだ。2018年7月に立ち上げた戦略子会社「J MaaS」がそのためのふ化器の役割を担う。

 「各交通機関のデータへアクセスするインターフェースをオープンにし、交通機関をまたがって処理が可能な環境を整備する。経路検索から交通チケットの予約や購入まで含めて実装可能にし、5年後までに日本を一気にMaaS先進国へと導く」。佐藤社長はこう息巻く。

 切り札は同社が18年に提携したモバイルチケット事業者英Masabi(マサビ)との連携によって実現する決済機能だ。MasabiはQRコードなどを使ってスマートフォン上でチケットを発券する多言語対応のサービス「Justride」を手掛ける。交通機関が改札などに簡単な改修を施すだけで乗車受付もできるなどの点が評価され、世界で約40の交通機関が採用する。「交通系ICカードを補う形でMasabiを活用すれば、MaaSアプリ上で(他のサイトなどにジャンプせずに)指定券や企画切符などの予約・決済を一気通貫で行えるようになる」(MaaS事業を担当する戦略企画部長の佐藤博志氏)。

モバイルチケット事業者英Masabi(マサビ)と連携し、多言語によるモバイルチケットの予約・発券機能を提供するのがウリ
モバイルチケット事業者英Masabi(マサビ)と連携し、多言語によるモバイルチケットの予約・発券機能を提供するのがウリ

 当初期待するのが、街おこしの需要だ。例えばここ数年、ヒット映画の舞台を“聖地巡礼”と称して巡るのがブームになっている。アニメ「君の名は。」で知られる飛騨高山エリアの場合、16年に高山市を訪れた観光客数が前年比4%増の約450万人となった。J MaaSのインフラを活用すれば、こうした強力なコンテンツと掛け合わせ、移動はもちろん滞在で必要になる「宿泊」「飲食」の手配も1つのアプリで完結するようなサービスも提供しやすい。

 現在交通機関などとの交渉は大詰めだといい、今夏をメドに10社程度と事業を本格始動させたい考えだ。「乗換案内の月間経路検索回数はのべ2億回以上、スマートフォンアプリは累計3000万ダウンロードを超える。強力なエンジンがあるからこそ各社はデータを生かせる。多くの交通機関などを巻き込み、日本人の移動のライフスタイルを劇的に変える」(佐藤部長)と強気の構えだ。J MaaSでジョルダンはデータも利益も独占せず、参加企業同士でレベニューシェア(収益分配)し合う企業連合体に育て上げたい考えだ。

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