MaaSの先駆者として知られるフィンランドのMaaSグローバル。同社は新たに三井不動産の出資を受け、19年中に首都圏でサービスの実証実験を始める計画という。4月中旬に来日していたCEOのサンポ・ヒエタネン氏に、日本総合研究所 創発戦略センターの井上岳一シニアマネジャーがインタビューを行い、MaaSの真実に迫った。トップランナーが語った、MaaSのあるべき姿とは?
井上岳一氏 複数の日本企業からの出資を受けているMaaSグローバルは日本市場、とりわけ首都圏への関心の高さをずっと表明してきましたが、19年中にいよいよ日本での実証実験を始めるようですね。
4月に東京急行電鉄などが伊豆エリアで提供を始めた「Izuko(イズコ)」には、ダイムラー子会社のmoovel(ムーベル)のシステムが使われていますが、19年は海外勢のMaaSアプリが日本市場をにぎわす年になりそうです。
サンポ・ヒエタネン氏 我々の日本進出については、その通りです。ムーベルは「powered by moovel」として交通事業者のブランド名で展開するホワイトレーベル戦略をとっているようですが、MaaSグローバルは自社のMaaSアプリ「Whim(ウィム)」のブランドで日本市場に参入するつもりです。
我々には交通事業者などのパートナーが必要ですが、我々自身が唯一のMaaSオペレーターになるつもりもありません。また、MaaSグローバルと独占契約を結びたいというパートナーには、「やりません」と断ります。そして、「我々と排他的に契約することは御社のリスクをむしろ高めますよ。他に我々のような存在が出てこなかったら私たちが力を持ちすぎますがいいんですか? 万が一、私たちが撤退したらどうするのですか?」と問います。
我々自身はオープンで誰とでも組みます。パートナーもオープンになって、例えば5つのMaaSオペレーターと組んで、Whimはそのうちの1つにすぎないという状態のほうが、彼らのリスクは下がるのです。
Whimの展開エリアについては、横浜など具体的な都市名が挙がって報道されてきました。
実はすでに10カ所以上の候補地があります。どの都市においても5~10社くらいのパートナーをそろえる必要があるのですが、交通事業者とともに名前を連ねて発表したいので、その段取りが整うまでは具体的な都市名を公表できません。
今やMaaSグローバルの最大の株主は日本企業です(編集部注:19年5月10日時点で、あいおいニッセイ同和損害保険、トヨタファイナンシャルサービス、デンソー、三井不動産が出資)。我々はフィンランドの会社というより日本の会社に近く、日本市場でMaaSを成功させることが重要な使命になっています。成功とは、日本をMaaSのリーディングマーケットにすることですが、そのためには日本をオープンで競争が活発な市場にしないといけません。
Whimは英バーミンガム、ベルギー・アントワープですでに導入され、シンガポールやオランダ・アムステルダム、オーストリア・ウィーンでも始まりますね。それぞれ人口規模が違いますが、MaaS導入に最適な都市のサイズというのはあるのでしょうか?
それを判断するのは、時期尚早です。ただ、こうは言えます。MaaSにとって一番大事なのは、すべての移動ニーズに応えることです。そのためには十分な量と種類の交通サービスの供給がなければいけません。そうなるには十分な人口が必要で、欧州の場合、それは50万人規模くらいではないでしょうか。一方、車社会の米国では、500万人規模にならないときめ細かな公共交通が存在しないので、それくらいのサイズの都市が対象になるのかもしれません。
交通手段が整備されていることが条件ですか?
その通りです。個々の交通事業者がいて、それを束ねるMaaSオペレーターがいるという構造は変えられません。もちろん、我々と仲の良いパートナー、例えば自転車シェアとかスクーターシェアなどの事業者がいて、我々が進出したい都市にそれらのサービスがなかったら、一緒に出ていくということはあるでしょう。
でも、我々自身が交通サービスを手がけることはありません。そこは厳格に線を引いています。交通事業者から信用してもらえなくなるからです。
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