鉄道、バス、タクシー、カーシェアなど、あらゆる交通手段をデジタルで統合し、シームレスな移動を実現する「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」。2018年から芽吹き始めたモビリティ革命に向けた取り組みが今、官民巻き込んで急ピッチで拡大している。令和元年の幕開けとともに、「日本版MaaS」の姿かたちが見え始めた。
MaaSを単なるバズワードと捉えて様子を見るか、新たなビジネスチャンスとして事業化を模索するか――。
昨年まで、自動車業界や公共交通を中心とした多くの企業の新規事業担当者は、こんな選択を迫られていたことだろう。しかし今、同じ悩みを抱えているとしたら、もはや「周回遅れ」になりかねない。複数のモビリティの統合度やデータ連携、サービス設計、収益性の確保など、MaaSを取り巻くさまざまな課題を把握し、突破口を見いだすべく、先行プレーヤーはまず走り出している。
4月1日、東京急行電鉄とJR東日本、ジェイアール東日本企画を中核として、伊豆エリアにおける観光型MaaSの実証実験がスタートした(第1弾は4月1日~6月30日、第2弾は9月1日~11月30日で実施)。用意されたMaaSアプリ「Izuko(イズコ)」は、鉄道やバスなど複数の交通手段を組み合わせた経路検索ができるだけではない。伊豆急下田駅周辺で新たに導入されたAIオンデマンド乗り合い交通の配車予約、対象エリア内の鉄道や路線バスが2日間乗り放題になるデジタルフリーパス、観光施設の割安チケットの購入までが1つのアプリで完結する。JRの「静岡デスティネーションキャンペーン」に合わせた取り組みであることも手伝って、すでにIzukoのダウンロード数は1万件を突破している。
実際にIzukoを使ってみると、MaaSによるユーザーメリットの一端が見えてくる。それは、伊豆観光の約8割を占めるといわれるマイカー利用に頼らず、快適な移動を可能にするものだ。例えば、デジタルフリーパスの「Izuko イースト」(3700円)を購入すると、伊豆急全線と伊東市内、下田駅周辺の路線バスが乗り放題。伊豆急の伊東―下田間だけで往復3240円かかるため、容易に元が取れる水準で、気兼ねなく動き回れる。また、下田港内をめぐる遊覧船「サスケハナ号」のデジタルチケット(大人1000円、通常は1200円)など、主要6施設の割安チケットもアプリで買える。
観光スポットを検索して、そこまでの乗り継ぎルートを確認することは、以前からあるGoogleマップなどでも可能だ。しかし、Izukoならあらかじめサスケハナ号の出航時間をワンタップで確認しておけるし、鉄道やバスへの乗車時のみならず、サスケハナ号への乗船時にもチケット画面を見せるだけでスムーズに、かつ割安に観光できる。
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