アウトドアブランドでありながら、ビジネスパーソン向けバッグやマタニティーウエアまで展開する「ザ・ノース・フェイス」。プロから一般ユーザーまで支持される理由は、アウトドアで培った機能性をベースにしつつ、一般ユーザーのインサイトを深く掘り下げる「コア&モア」戦略にあった。
ゴールドウイン(東京・渋谷)が日本国内で展開する米国発のアウトドアブランド「ザ・ノース・フェイス」(以下、ノース)が2ケタ成長を続けている。その要因の一つとして、前回はものづくりの哲学を探った(詳しくは「“ジャパン ノース・フェイス”を作った男 モノづくりの真髄」を参照)。
さらにその強さを象徴するのが、「ノースといえばこれ」というアイテムがいくつもあることだろう。「バルトロライトジャケット」「ヌプシジャケット」「BCヒューズボックス」「シャトル」「ヌプシブーティ」……。ダウンジャケットからビジネスバッグまで、ジャンルごとに強力な人気定番商品を持っているのだ。
それらを生み出し、成長の原動力となっているのがコア&モア戦略。「コア」はアウトドア環境で活動する人たちの命を守り、より快適に動けるためのウエアやギアを追求すること。「モア」はそこで開発された機能や素材を生かし、人気ファッションブランドとのコラボレーションやビジネスパーソン向けバッグ、キッズ向け商品など、アウトドア領域を越えてさまざまなユーザー層や使用シーンに向けた商品を展開するというものだ。それらがいずれもヒットし、プロにも一般ユーザーにも支持されていることが今につながっている。
例えば若者に人気の四角い形が特徴的なパックパック「BCヒューズボックス」は、「BC(ベースキャンプ)ダッフル」というエクスペディション(登山や探検などを目的とする遠征)の際に動物や人が荷物を運搬するためのバッグが原型。摩擦強度と耐水性の高い素材をベースに、若者向けにバックパックとして商品化したものだ。
バッグ全面に大きく入っているノースのロゴが印象的だが、これは「若い人たちは持ち物によって自分がどういう存在かを主張している。特にロゴはその象徴的存在だと考えたから」と、長年ノースのモノづくりに関わり、今日の“ジャパン ノース”を作り上げたゴールドウインの渡辺貴生副社長は言う。一方、同じバックパックでもビジネスパーソン向けの「シャトル」シリーズではロゴは控えめ。アウトドアで培った機能性をベースにしつつ、ターゲットのインサイトを深く掘り下げて商品に落とし込んでいるのがコア&モア戦略の核心と言えるだろう。

2019年からは女性向けのマタニティーウエアも展開。「ウエアのストレスを軽減するという意味ではアウトドアのニーズと同じ」という考え方からだ。
そのコア&モア戦略の原点といえるのが、02年にスタートしたファッションライン「ザ・ノース・フェイス パープルレーベル」。過去のアーカイブのデザインを生かしつつ、天然素材(綿100%、ウール100%など)を使い、販路も直営店とファッション系セレクトショップに限定してアウトドアショップと明確にすみ分けるなど、ファッションマーケットに振り切った。
「1997年から2002年は中高年登山ブームが去った後で、日本のアウトドアマーケットが急激に下降線をたどった時期だった。一方、1990年代にヒップホップシーンでヌプシジャケットが大ブレイクし、ニューヨークのクラブに行くとヒスパニック系や黒人の若者を中心にみんなノースを着ていた。『こういうスタイルでマーケットを作っていけば面白いことができるのではないか』と考えたのがきっかけ」(渡辺副社長)。そこで、原宿店でパープルレーベルの商品を展開したところ、売り上げが5割アップしたという。
「もともと自分がファッション好きだったこともあり、ノースのテクニカルなアウターウエアをファッションが好きな人たちにも日常着として着てもらいたかった」(同)。ちなみに、パープルレーベルはノースと代官山のセレクトショップ「ナナミカ」のコラボレーションラインでもある(ナナミカはゴールドウインの子会社)。ノースといえば「コムデギャルソン」「ミナ・ペルホネン」「ハイク」など人気ファッションブランドとのコラボが話題になるが、その原点ともいえる。

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