NTTデータは、顧客のビジネスを拡大させるためにリーン・スタートアップやアジャイル開発に挑んでいる。背景には、顧客ニーズの変化が早いがためにビジネスの要件を決められず、作りながら顧客が望む形に変えていかなければならない時代になったという理由がある。ビジネスのアイデアを発掘する仕組みを提供すると共に、そのアイデアを短期間で具現化するための意識改革を加速させている。
本連載でこれまで取り上げてきた国内3社の事例は、自社で提供するサービスにリーン・スタートアップを適用した事例である。今回は、他社が提供するサービスを支援する大手SIerであるNTTデータの取り組みを取り上げる。
「リーン・スタートアップはビジネスをどう作るかという考え方であり、アジャイル開発はそのシステムをどう作るかという考え方だ。いずれもリードタイムをいかに短くするかが求められている」とNTTデータ システム技術本部生産技術部 Agile Professional Center 主任の杉浦由季氏は話す。そして、こう続ける。「デザインシンキングはリーン・スタートアップの上流部分である。重要なことは、サービスを作った後に、そのサービスを大きくしてビジネスとしてどう売り上げにつなげていくかだ」──。
杉浦氏が所属するAgile Professional Centerは、顧客のアジャイル開発を支援する部門として2012年に発足した。社内の事業部門と組んで、顧客の新規ビジネスの立ち上げを支援してきた。リーン・スタートアップ、アジャイル開発の方法論をコーチングしたり研修を支援・実施したりするのがミッションだ。このセンターは、約40人の社員とグループ会社約120人を合わせた160人ほどが働く規模にまで拡大している。
同Agile Professional Center 課長の市川耕司氏は、「採用しているアジャイル開発の手法はスクラムで、基本的に教科書通りに実践している。ほぼ全員がスクラムアライアンスの認定スクラムマスターの資格を持っている」と言う。認定プロダクトオーナー、認定スクラムプロフェッショナルを取得している社員も少なくない。アジャイル開発の手法としては、ほかにエクストリーム・プログラミングやリーン・ソフトウエア開発などがあるが、世界で7~8割のシェアを持つと言われるスクラムを採用している。
変化が早く従来型の開発手法が限界に
センターが発足した12~13年ごろは、日本におけるエンタープライズ領域におけるアジャイル開発は黎明期だった。リーン・スタートアップという言葉は流行っていたが、それを実践できていたのは国内ではインターネット・サービス企業やベンチャー企業、外資系企業が中心だった。
歴史を振り返ると、「ITは、1990年代には業務効率化に使われ、2000年代はECやネットオークションなどビジネスチャンス開拓に有効で、10年代はITありきのビジネスの時代を迎えた。特に、スマートフォン対応が当たり前になり、ビジネスもシステムも数カ月以内でリリースしないと時代遅れになってしまうという変化の時を迎えた」(杉浦氏)のである。
「作れば売れる時代ではなくなった。顧客のニーズをつかむのが難しく、時間と手間をかけて十分検討して作ったにもかかわらず使われない。だからこそ、ムダを排除して短期間で商品をリリースできる手法としてリーン・スタートアップやアジャイル開発が求められている。要件を決められず、ウォーターフォール型(WF型)の開発が向かないプロジェクトも増えている」と市川氏は説明する。つくるものが明確でなくなって、従来型の開発では要求定義が難しくなり、変化にも対応しづらい。
こうした背景から、NTTデータが顧客のアジャイル開発を支援する件数は増え、「顧客のプロジェクトでアジャイル開発の採用比率は10%程度」(杉浦氏)にまで上がってきている。
アイデアを発掘するフレームワークを提供
これまでのNTTデータの経験では、「話題のリーン・スタートアップやアジャイル開発に着目し、とにかくやってみたいという顧客が多かった。具体的に何に適用してよいかがはっきりせず、一緒になって考えてきた」と杉浦氏は言う。最初に飛び付いて相談に来たのは、通信や人材派遣などのサービス業と、コンビニや飲料系の流通業だった。
そこでNTTデータでは、同社が提供するクラウド開発環境「Altemista(アルテミスタ)」の中に、サービス開発の方法論「Altemista Project Now!」を立ち上げた。これは、サービスの企画から開発、PoC(Proof of Concept:概念実証)までを一気通貫で提供するフレームワークであり、ワンストップで提供するサービスである。
このAltemista Project Now!は、(1)事前調査(2)高速開発(3)仮説検証(4)実証実験──の4つの段階を経てサービスをリリースする。この中の、最初の事前調査に「アイデアを発掘するための研修」を組み込んでいる。この研修でアイデアソンを実施し、アイデアの種を発掘してきた。
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