ヤフーが新規ビジネスを短期間で立ち上げるリーン・スタートアップの概念を本格的に採用したのは2015年末。オークションサイトである「ヤフオク!」のスマートフォン用アプリの開発への適用だった。“手戻り”が激減して開発期間を大幅に短縮できたことから、全社展開するための場として、18年5月には820Labs(ハチニーゼロラボズ)を本社内に開設した。従来型開発とのバランスを取りながら、Yahoo! JAPANアプリなど他のサービスへの横展開を加速させている。
数々の先端的なネットサービスを日本国内で展開してきたヤフー。同社がリーン・スタートアップを本格的に採用したのは15年末のことだ。最初は、同社のオークションサイトであるヤフオク!のアプリへのアジャイル開発の適用だった。それまではウォーターフォール型(WF型)による伝統的な手法が主流で、アジャイル開発は社員の一部が草の根的に取り組むレベルにとどまっていた。
きっかけは、技術担当役員が米ピボタルを15年に訪問したことに遡る。当時ヤフーでは、Pivotal Cloud Foundry(PCF)というピボタルが推進するオープンPaaS(Platform as a Service)基盤を社内に導入しようとしており、提携のために技術担当役員がピボタルの米国本社を訪問。その際にアジャイル開発を推奨し、導入支援を行っている組織、Pivotal Labsの存在を知った。役員はアジャイル開発の素晴らしさを実感。帰国後すぐに、ヤフーでも導入しようということになった。
早速、15年9~11月にエンジニア数人をピボタルジャパンが運営しているPivotal Labs Tokyoでの研修に送り込んだ。その1人がヤフオク!のアプリ開発を担当している山下真一郎氏(ヤフー コマースカンパニー ヤフオク! 統括本部アプリ開発部iOS/Android開発技術リーダー)だった。
「企画からリリースまでを、いわゆるWF型で開発することもあり、リリースまでに1年ぐらいかかっているものもあった。しかし、このやり方は今の時代には合わなくなってきており、仮説を検証し、すぐに構築してリリースする方法論が必要だった。ヤフオク!では、ちょうど改善のフェーズに入っており、Pivotal Labsが推奨する方法論が最適だと判断した」(山下氏)。
Lean XPの採用で欠陥率が10分の1に
アジャイル開発の中でもPivotal Labsが推奨したのは「Lean XP」という開発手法だった。新規ビジネスを早期に立ち上げるリーン・スタートアップの概念を踏襲したリーン・ソフトウエア開発と、ケント・ベック氏らによって定型化されたエクストリーム・プログラミング(XP)という手法を組み合わせたものである。
「特に、XPで生成されるプロダクトは品質が高く、従来採用したことがあった開発手法に比べてアプリの欠陥率(不具合の発生率)が10分の1に激減するという大きな効果があった」(山下氏)。欠陥率は、最終リリース前に外部のテスト部隊に頼んでシナリオテストを実施して測定している。「欠陥率が激減したことにより“手戻り”が大幅に減り、短期間で頻繁にリリースができるようになった。その結果、XPは使えるとの評価に至った。リーン・スタートアップは開発のプロセスとして重視しているが、XPの特徴に着目して社内に広めていくことにした」と山下氏はLean XPに着目した理由を説明する。
実は以前、スクラムも試したことがあった。最大の違いは、「XPは、ペアプログラミング(2人1組で開発するプログラミング手法。以下ペアプロ)やCI(継続的インテグレーション)、テスト駆動開発(短い工程を繰り返す開発)といった開発スタイルについて、“プラクティス(実践方法)”という形式で細かく定義している。それに対してスクラムは、チーム内のコミュニケーションに主眼を置いた開発プロセスに関するフレームワークである」(山下氏)。実はXPでは、4つのカテゴリーに分けて19のプラクティスを定義している。スクラムにXPを組み合わせることもできるが、ヤフオク!ではXPのプラクティスをそのまま採⽤することにした。
その後、ヤフオク!の開発部門では、社内に8209Labs(ヤフオクラボズ)という名称の組織を16年に発足させ、Lean XPに則った開発を続けてきた。Pivotal Labsの研修に参加したクリエーターたちが、ヤフーに戻った後も同じスタイルで開発できるようPivotal Labsと全く同じ開発環境を構築したのである。その後、オークションの出品者が商品の特徴をライブ動画で説明する「ヤフオク!ライブ」の開発にも適用するなど、Leen XPをフル活用している。
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