8年前、2011年に書籍『リーン・スタートアップ』が米国で発売されて以来、世界中で大きなムーブメントが巻き起こった。そのサービス開発手法やマネジメント法は、スタートアップのソフトウエア開発から生まれたが、大企業、それも製造業やインフラ企業にまで波及。短期集中連載の第1回では、改めてリーン・スタートアップとはどんな手法なのか、米エアビーアンドビーの導入例と合わせて解説する。
リーン・スタートアップとは、シリコンバレーの起業家、エリック・リース氏がまとめたサービス開発の手法だ。その源流は、トヨタ自動車のリーン生産方式、アジャイル開発、デザイン思考などにあるが、それらをまとめてイノベーションを継続的に生み出せるようにした点が特徴である。この手法は、アバターを使ったソーシャル・アプリを提供するIMVU(インビュー)という企業で、エリック・リース氏がCTO(最高技術責任者)として活動する際に生まれた。
IMVUの開発手法は、びっくりするようなものだった。まず、作った製品は「何となく動くだけの時期尚早でひどいもの」。しかも、有料で提供を開始した。そして、ある程度顧客を確保したら、普通では考えられないほど頻繁に製品を改訂。製品に対する意見をユーザーに求めたが、希望はほとんど取り入れず、ユーザー相手に実験ばかりしていたそうだ。
これが大成功した。アバターの登録は6000万を超え、年商5000万ドル以上の利益が出たという。真面目な日本企業の社員には信じられない方法、とんでもない方法のように見えるかもしれないので、もう少し詳しく紹介したい。
リーン・スタートアップは、次の図に示すように「構築―計測―学習」という3段階のサイクルで進める。まずは、「こんな製品が必要ではないか」という仮説を立てて、製品を構築する。このときに、カギとなるのが、「実用最小限の製品(MVP:minimum viable product)」を作ることだ。MVPは実際にユーザーに使ってもらい、ニーズや反応を計測するための製品なので、必要な機能を装備していなくても構わない。実際、エリック・リースの会社、IMVUの製品は当初、バグだらけの何となく動くだけの製品だった。
MVPをユーザーが使った結果、可能性や改善点が見つかったら、そこから学習してもう一度「構築―計測―学習」のループを回す。MVPの機能を追加して製品を磨き、反応を計測して、さらに学習するという手順だ。学習して対策を講じても改善できない場合は、「ピボット(方向転換)」するのも重要。そもそもの仮説が間違っていてニーズがないと分かれば、固執せずに製品のコンセプトを変える。
この手法の何がいいかというと、思い込みによる無駄な努力がなくなるということだ。誰も必要としていない製品や機能を何カ月もかけて開発して、結局誰も使わないという悲劇を防げる。粗削りなMVPをユーザーに使ってもらった段階で、全くニーズがなければ開発を止めればいいからだ。最近では、ユーザーの嗜好が細分化しているし、変化も激しい。作り手の思い込みだけで作る旧来の方法では限界が出てきたことから、リーン・スタートアップがIT企業を中心に広く受け入れられたのだ。
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