全日本空輸(ANA)がリーン・スタートアップを最初に適用したのは、スマートフォン向け座席予約アプリの開発だった。2016年8月に既存アプリの改修に着手し、約半年後の17年3月にリリース。従来の開発手法に比べ、開発期間を大幅に短縮できた。リーン・スタートアップ採用の背景には、ユーザーの声に応えて迅速にサービスを立ち上げる開発体制にシフトさせていくという狙いがあった。

 ANAが16年2月に発表した中期経営計画(16~20年度)には、“攻めのスピード経営”を実現するためのキーワードとして、“リーン・スタートアップ”という言葉が登場している。そのリーン・スタートアップを実践した第1弾が、スマホ向け座席予約アプリの開発だった。

“モバイルファースト”を実践できるプロセスを採用

 ANAはインターネットの台頭に合わせて、オンラインによる座席予約を1997年11月から開始している。その後、2002年にはインターネット予約の数がセンターでの電話予約を上回り、13年には街中のカウンターを全廃した。開始当初、インターネットの利用者の中心層は40~50歳代の男性ビジネスマンで、そのビジネス需要に対応したものだった。しかも、パソコンでの利用を想定したものだった。

 ところが近年、予約の中心がスマホによる利用に移行してきていた。そのため、まずはパソコン版の予約システムをスマホ版に移植してサービスを提供してきたのだが、開発体制は従来型を踏襲したものだった。

 ウォーターフォール型をはじめとした従来型の開発手法では、システム開発を管理することに重点が置かれるがために、ドキュメント作りに時間をかけ、数多くのチェックポイントが設けられる。結果、開発サイクルが長くなってしまうという欠点があった。「スマホが主流の“モバイルファースト”の時代にあっては、顧客視点を重視し、短期間で開発でき、カスタマーエクスペリエンスを向上させる新たなプロセスが求められていた。それがリーン・スタートアップの考え方であり、アジャイル開発手法だった」とANAの業務プロセス改革室イノベーション推進部部長 兼 ANAHD デジタルデザインラボ エバンジェリスト 兼 オリパラ推進本部担当部長・野村泰一氏は話す。

 リーン・スタートアップを取り入れた業務プロセス改革室イノベーション推進部(イノ推)は、基幹系システムの開発を担当するITサービス推進部が手掛けていない別のシステムを開発する組織として12年に発足した部署だ。前述したように“モバイルファースト”の時代を迎え、新たな開発プロセスを模索していた。そうした中で15年2月、アジャイル開発を推奨しているクラウドプラットフォーム提供会社の米ピボタルの東京オフィスを訪問・視察したことがきっかけで、リーン・スタートアップを具現化するためのアジャイル開発手法と出合った。

リーン・スタートアップを適用した開発の実践風景(出典:全日本空輸)
リーン・スタートアップを適用した開発の実践風景(出典:全日本空輸)

 イノ推が重視した開発スタイルは、チームモチベーションを向上させ、かつデザイン思考という点だった。ピボタル社内には卓球台があり、立ったまま会議を進めるなど、開発チームのモチベーションを上げて行くためのさまざまな工夫があった。しかも、(1)開発したものはすぐにテストする“テスト駆動型”のアジャイル開発 (2)1人が作りもう1人がチェックするペアプログラミング (3)100%内製化 (4)同時並行のユーザー確認――というピボタルの教えが、求めていた開発手法に合致したのである。

 そこで、「ピボタルが推奨する方法論を、そのまま素直に受け入れる形でシステム開発を進めていくことにした」(野村氏)。まさに“正統派”のアジャイル開発を実践した。16年8月に既存アプリの改修に着手し、約半年後の17年3月にリリースすることができた。従来の開発手法に比べて開発サイクルを大幅に短縮できたという。

リーン・スタートアップの導入により期待された開発サイクル(出典:全日本空輸)
リーン・スタートアップの導入により期待された開発サイクル(出典:全日本空輸)
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