注文すれば明日届く。消費者への約束をそのまま企業名としている企業がアスクルだ。個人向けネット通販「LOHACO」(ロハコ)では、1時間刻みで配達時間を指定できるサービスで再配達を低減している。搬送や商品ピックアップでロボットを活用し、将来は倉庫の無人化を目指す。

横浜市にあるアスクルの物流拠点では、アーム型ロボットが商品を取りだす実験を繰り返している。アームの先にある手(吸着パッド)には、掃除機のような空気の吸い込み口があり、ペタッとくっつく仕組みになっている
横浜市にあるアスクルの物流拠点では、アーム型ロボットが商品を取りだす実験を繰り返している。アームの先にある手(吸着パッド)には、掃除機のような空気の吸い込み口があり、ペタッとくっつく仕組みになっている

 金属パイプのコンベヤーをカタカタと音をたてながら樹脂製の青い箱が流れていく。箱が定位置に止まると、あたかもキリンの首のように頭を下げたアームロボットが箱の中に先端を突っ込む。空気を吸い込む音が響き、ロボットが再び首を持ち上げると、その先には「天ぷらそば」と書かれたカップ麺が張り付いていた。

素早く商品を取り出し、別の箱に入れるピックアップの作業をこなす。ロボット制御システムのMUJIN(東京・墨田)と共同開発している

 横浜市にあるアスクルの物流拠点「ASKUL Logi PARK 横浜」の中には透明な柵で区切られた一角がある。「Robotics Lab.」と木製の看板を掲げた実験場だ。その中央に置かれたアームロボットは、箱から箱へと商品を入れ直す。自動倉庫からコンベヤーで流れてきた箱から、顧客が注文した商品を取り出すピックアップ作業の研究で、ロボットは作業を1日に1500回ほど繰り返している。

 ロボットの上部に設置したカメラで箱の中の商品の形状を認識し、アームの先の吸着パッドが掃除機のように空気を吸い込んで商品を持ち上げる。

 柔らかいもの、硬いもの、大きいもの、小さいもの。多彩な形状の商品を扱うネット通販向けのピックアップ(取りだし)の作業をロボットに代行させることは難しいと考えられてきた。アスクルはロボット制御システムのMUJIN(東京・墨田)と共同で、実際の物流現場でロボットを導入するための開発を進めている。

 ロボットを導入することで、アスクルが追求してきた消費者に「早く届ける」という価値をより安定的に提供できるようになる。アームロボットが人と同様にピックアップ作業をこなすようになれば、物流業界で広がる人手不足の問題を解決する筋道が見えてくる。24時間休みなく稼働できるため、将来的に1日の作業量は人間を超えていく可能性もある。同社が18年9月に始動した関西の新拠点では、19年度中にピックアップロボットを本格導入することを目指す。

 アスクルの横浜の物流拠点では、高さ5.5メートルのラックに約3万5000ケースを収納する自動倉庫も稼働している。広い倉庫内に置かれた棚から人間の作業員が商品をピックアップしていた頃と比べると作業効率は5倍に向上した。倉庫の自動化を進めたことで「顧客から注文を受けてから、最短で20分で出荷できる」(アスクル物流拠点の責任者でフューチャープラットフォームアーキテクチャECR本部センターマネジメント統括部長の川村修氏)という体制を作り上げている。

アームロボットの他、自動倉庫や自動梱包機など、倉庫を自動化するためにさまざまな設備を導入している
アームロボットの他、自動倉庫や自動梱包機など、倉庫を自動化するためにさまざまな設備を導入している

数年で物流拠点の無人化を目指す

 「当初は『社名でお届け時期を約束していいのか』という議論もあった」と、事業立ち上げにも参加したアスクルの執行役員で、フューチャープラットフォームアーキテクチャECR本部長CPO(チーフ・プラットフォーム・オフィサー)の天沼英雄氏は振り返る。物流拠点の拡充を続け、98年には当時珍しかった当日配送も始めた。現在は、全国で9カ所の物流拠点を運営している。

 翌日・当日配送を滞りなく実現するには、需要の多い都市部に近い倉庫を拡充する必要がある。そうなれば土地代が高くなり、複数階層にわたる倉庫を利用するケースが増える。人手不足の問題も拡大する中、自動倉庫で在庫を高く積み上げられるようにする、ロボットを使って夜中でも操業させるといったコスト削減が必須となる。「数年をかけ、人がいなくても24時間稼働するセンターを最終的にできればいい。山は高いが、今から始めないとできない」(天沼氏)と先を見据える。

アスクル執行役員フューチャープラットフォームアーキテクチャECR本部長CPO(チーフ・プラットフォーム・オフィサー)の天沼英雄氏
アスクル執行役員フューチャープラットフォームアーキテクチャECR本部長CPO(チーフ・プラットフォーム・オフィサー)の天沼英雄氏

 本当にロボットは人間の代わりになるのか。アスクルの研究では、吸着パッドの改良や映像認識や制御の精度を高めたことで、在庫商品の約半数のピッキングに対応できるようになった。それでもスピードについては課題が残っている。実際に動作する様子を見ると、1つひとつの商品を取り出すだけなら、人間に迫る速度が出ているようだ。それでも人間の作業員であれば、1つの商品で複数の注文があったときに複数個を箱から一挙に取りだせる。

 ロボットの場合は、アーム先端の吸着パッドは1つの商品しか持ち上げられないので、複数個の注文があった場合にはその数だけ作業を繰り返す。同じ商品を3つ取りだすには、人間の約3倍の時間がかかるというわけだ。それでも今後の技術向上の余地はある。24時間休みなく働くことができるロボットへの期待は大きい。