ネット通販が浸透する一方で、物流業界の慢性的な人手不足が拡大している。最大の要因は、受取人の不在による「再配達」が増えていること。ネット販売に関わるあらゆる企業にとって、宅配は顧客との重要な接点。ネット通販とラストワンマイルをめぐる物流変革の最前線を探る。

楽天はラストワンマイルの配送を含む独自物流網を構築する「ワンデリバリー」構想を推進している
楽天はラストワンマイルの配送を含む独自物流網を構築する「ワンデリバリー」構想を推進している

 経済産業省が19年5月16日に発表した統計によると、18年の電子商取引(EC)の市場規模は17兆9845億円で、前年比8.96%増となった。あらゆる世代の消費者にネット通販が浸透する中、企業と顧客をつなぐ物流網に異変が起きている。ネット通販の急拡大と、人手不足による宅配危機だ。「買ったものが届かない」「遅い」となれば、即座に顧客の不満へとつながる。ネットでモノを売るあらゆる企業が、ひっ迫する物流の課題に直面し、策を講じなければならない時代。先進企業はどう対処しているのか。本特集では楽天の取り組みから紹介する。

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 宅配最大手のヤマト運輸が2017年に踏み切った配送料金の値上げと、荷受けを減らす総量規制は、ネット通販業界に衝撃を与えた。「いきなり(大量の)荷物は受け取らない、値段は倍ですということが起こった」。楽天の三木谷浩史会長兼社長は、19年1月に開催した出店者向けイベントで、独自物流網の構築を目指す「ワンデリバリー」構想の意義を改めて説明した。

 物流業界筋に聞くと、かつてヤマト運輸は荷物量の多い出店者の荷物をお得意さま価格で配送していたが、宅配危機をきっかけに「どんぶり勘定」を見直したという。そうした配送料の厳密な適正化は、出店者の目からみると急激な値上げに映り、大きな混乱を引き起こした。

 顧客との接点であるラストワンマイルの配送網を他社に依存してばかりでは、安定的なサービスを提供できない。そんな危機感から、サービスを防衛するという意味を含めて、18年に発表したのが楽天のワンデリバリー構想だった。三木谷氏は「社運をかけてやる」と意気込む。

楽天の三木谷浩史会長兼社長は、出店者向けイベントで独自物流網の強化や配送料の全店統一に向けた取り組みについて説明した
楽天の三木谷浩史会長兼社長は、出店者向けイベントで独自物流網の強化や配送料の全店統一に向けた取り組みについて説明した

宅配の3個に1個は再配達

 楽天が独自物流網の構築に注力するきっかけとなった宅配危機。その背景にあるのが「再配達」の増加だ。「いつ届くか分からないけど再配達してもらえばいい」。そんな感覚が消費者にとって当たり前になっている。何度来てもらっても配送料は同じで、消費者にとって何も損はないからだ。

 物流の代行業やコンサルティングを手掛けるイー・ロジット(東京・千代田)社長で、物流関連の書籍を多数執筆している角井亮一氏は「宅配ドライバーが運ぶ荷物の3個に1個は再配達だ」と分析する。

 角井氏が関与する宅配通知アプリ「ウケトル」の利用動向を18年4月に分析したところ、約17%が再配達だった。ただこの数字は、宅配事業者が1日の中で何度も再配達のために訪問している場合、その数はカウントされていない。実際の比率は3割前後になるという。もし再配達を撲滅できれば「配送効率は1.5倍になる」(角井氏)ことから、物流業界の課題を一気に解消できる。

 再配達をいかに減らすか。その手段としては3つの方向がある。まず「早く届ける」。次に受け取りの都合がよい「日時を選択可能にする」、もう1つは置き配などの「不在時の置き場所を確保する」だ。各社は、これらをカバーするさまざまな配送サービスを投入している。楽天も独自の物流網を構築することで、3つの方向をすべてカバーしようとしている。

再配達をなくすには「早く届ける」「日時を選択可能にする」「不在時の置き場所を確保する」と3つの方向がある。図では主なネット通販企業と、本特集で紹介する企業の取り組みを挙げている
再配達をなくすには「早く届ける」「日時を選択可能にする」「不在時の置き場所を確保する」と3つの方向がある。図では主なネット通販企業と、本特集で紹介する企業の取り組みを挙げている
次ページ以降の内容
  • 物流拠点を10カ所に倍増
  • 年内に配送料金の統一に向けた一手
  • 再配達の削減、奥の手はドローン

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