リブランディング特集5回目は老舗ブランドを取り上げる。七味メーカーの八幡屋礒五郎(長野市)はインドのガラムマサラを、おこしメーカーのあみだ池大黒(兵庫県西宮市)は女性向けの製品を発売した。いずれも老舗のイメージを打ち破るが、狙いは全く異なる。

左はミックススパイス「七味ガラム・マサラ」(12グラムで540円、税込み、以下同)。右は創業以来の看板商品「七味唐からし」(14グラムで400円)
左はミックススパイス「七味ガラム・マサラ」(12グラムで540円、税込み、以下同)。右は創業以来の看板商品「七味唐からし」(14グラムで400円)

 七味唐辛子メーカーの八幡屋礒五郎は2018年4月、インドのミックススパイスであるガラムマサラを独自にアレンジした「七味ガラム・マサラ」を発売した。同社の七味と同様のブリキ缶入りで、唐辛子をインドの象が鼻で抱えるイラストという“和印折衷”のパッケージと、ほぼ長野県内でしか買えない希少性で話題になり、19年4月末までに10万缶を販売した。

 一方、おこしを扱う菓子メーカーのあみだ池大黒は11年、若い女性向けを狙った新ブランド「pon pon Ja pon」を発売。おこしの技術を活用しながら、「いちごミルク」「ブルーベリーヨーグルト」「アーモンドカフェ」「スパイスカレー」など、おこしの味とイメージを一新。斬新なフレーバーとカラフルなパッケージで人気の製品となり、新たなブランドを確立できた。

 両社とも江戸時代に創業し、200年以上の歴史を持つ老舗の食品メーカー。だが、八幡屋礒五郎は従来のブランドイメージを引き継ぐパッケージを考え、あみだ池大黒は、おこしの新ブランドに向けてパッケージを見直した。両社の考え方の違いは、製品コンセプトにあった。八幡屋礒五郎は自社ブランドをさらに強化する狙いがあり、七味と同じブリキ缶を踏襲した。pon pon Ja ponはあみだ池大黒の名前を表立って出していない。新しい市場を開拓するため、既存ユーザーになじみがあるパッケージとは別の見せ方を打ち出したからだ。

八幡屋礒五郎とあみだ池大黒のアプローチの違い

八幡屋礒五郎
「七味ガラム・マサラ」の製品化に当たって、これまでの七味と同じブリキ缶を踏襲した。模倣品を排除し、自社ブランドをさらに強化する狙いがある。この他にも、七味と同じイメージの製品を次々と開発している。

あみだ池大黒
女性向けを狙った新ブランド「pon pon Ja pon」を発売するとき、あみだ池大黒の名前は表に出さなかった。新市場を開拓するため、これまでのパッケージとは異なるデザインにした。この他にも、おこしと異なるイメージの製品を次々と開発している。

八幡屋礒五郎、老舗のブランドを模倣品から守るデザイン

 八幡屋礒五郎は、江戸時代の元文元年(1736年)に創業し、280年以上続く老舗の唐辛子メーカー。初代が善光寺境内で唐辛子を売り始めたのが始まりだ。軽くかさばらないため土産物として最適で、善光寺名物として人気を集めた。斜めに唐辛子を描いた赤と金のブリキ缶は、大正時代に6代目が考案し100年近く受け継がれたデザインで、七味唐辛子のアイコンとも言える存在になっている。

 現在では長野県内だけでなく、全国の百貨店やスーパーに販路を広げ、主力製品の「七味唐からし」だけで年間100万缶以上を販売する全国ブランドの製品となった。そんな老舗が新しくガラムマサラを開発した理由は、自社ブランドを守るためだった。

 室賀豊社長は9代目に当たる。1987年に入社し、2004年に社長に就任した。入社当時の同社の従業員はわずか9人。手作業で七味を生産する家内制手工業で、効率が悪く品質管理もきちんとできていなかった。

 「現在の七味はプラスチックの小袋に密封したものを缶に入れているが、当時は直接入れていた。これでは日持ちしないので、販路は長野周辺に限られる。また原材料も県外からの購入のみで、作柄のばらつきなど品質に不安があった。何より、材料が県外産なのに『長野名物』を名乗っていいのかという思いもあった」(室賀氏)。

 そこで室賀氏は生産の機械化や県内の農家との契約栽培へ移行。さらに08年には自社農園を開設するなど、効率化と品質向上を推し進めた。今では長野県で栽培できない陳皮(みかんの皮)や柚子(ゆず)などを除いて、多くの原料が県内産だ。さらに、自社の畑を持つことで、品質を管理しやすくなるだけでなく、必要な品種や作物を自由に栽培できる。新たな商品開発に取り組みやすい体制も整えた。

 こうした改革が功を奏し、さらに98年の長野オリンピックとそれに先立つ長野新幹線(北陸新幹線)の開業という追い風もあって知名度は上がり、観光客や長野県民を相手に商売をしていた小さな七味店を、全国に販路を持つ企業にまで成長させた。ところが、そうなると別の困った問題が浮上してきた。模倣品が出回り始めたのだ。

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