同じリブランディングでも、なぜ各社で考え方が異なるのか。成功のポイントは何か。今回の特集では分野ごとに2つの製品を例に挙げて探る。1回目はキリン「淡麗 グリーンラベル」とサントリーの「金麦」を取り上げる。
どんな商品でも時代の変化にさらされる。常に順風満帆というわけにはいかない。強力な競合製品が登場したり、顧客のし好が変わったり……。そうした大きな変化に直面したとき、リブランディングが必要になる。
ブランドそのものをゼロから見直すのがリブランディングだが、本特集では、同じ製品でも従来と異なる市場に訴求することもリブランディングとした。成功事例を通じて、長く愛されるブランドづくりのヒントを探っていく。
キリンビールの「淡麗 グリーンラベル」(以下、グリーンラベル)とサントリービールの「金麦」は、発売当初から一貫したテーマで広告を展開するなどブランドの価値を向上させてきた。その両製品が2019年、相次いで大規模なリニューアルを行ったが、両製品の見せ方は異なっていた。グリーンラベルでは18年から音楽コンテンツを軸にした質の高いテレビCMをより多くの人に見てもらえるよう、戦略的にデジタルメディアを活用した。
金麦はこれまでの「幸せな家庭の食卓」というテーマを時代に合わせてアップデートした他、製品のパッケージをメディアとして活用したり、天然水を使用するサントリー全体のブランド力も使ったりしている。なぜ両社の考え方は異なるのか。それは今までの好意度が大きく影響しているようだ。好意度とは、ブランドに対する消費者の評価を「好き・嫌い」で捉えたもの。企業は消費者の共感を得られるような情報を提供していくことで好意度を高めることができるが、それにはどんな情報を発信するかがポイントだろう。
好意度を上げるため広告を一新し、SNSを活用したコミュニケーションを推進した。パッケージは「淡麗」のロゴを小さくし、「麒麟」のマークと「70%」という数字を目立たせるデザインに変更した。
サントリービール
「金麦」のテレビCMの新シリーズを開始し、30~40代の購買意欲を喚起した。女優の檀れいが出演するシリーズを継続しながら、新たに木村拓哉が出演する新シリーズも展開。夫婦両方の目線で食卓のシーンを描いて幅広く共感を得ようとした。
課題は購入者数と販売量の低下
キリンのグリーンラベルの売れ行きは、19年4月にフルリニューアルした追い風を受けて絶好調といえる。購入者数はリニューアル前週比で34%増、19年4月1日から18日までの出荷数は前年比15%増。出荷数はスタンダードの「淡麗」を上回っているという。好意度は前年比で女性のみで3.5ポイント、20代男女では7ポイントも上昇。全世代でも2.1ポイント上昇し、購入者数と出荷量の増加につながった。
グリーンラベルは02年、「淡麗」ブランドの新シリーズとして発売した糖質70%オフの機能系の発泡酒だ。発売当初から、ブランドカラーは商品名にある「グリーン」で、広告のビジュアルの背景は必ず芝生や木々などの自然で統一した。糖質70%オフという機能を開放感や爽快感、リラックス感など、自然をイメージするビジュアルに置きかえ、「からだも気持ちもここちよい」というコンセプトを表現。「おしゃれ・おいしい・糖質オフ」という、グリーンラベル独自の世界観と価値を築いてきた。その結果、調査で「淡麗のグリーンラベル」ではなく「キリンのグリーンラベル」という認知が高まっていることが分かったという。
発売から15年までのパッケージは「淡麗」というロゴを中心としたデザインだったが、調査結果を踏まえ、16年のリニューアルを機にパッケージを刷新。淡麗のロゴを小さくし、その代わりに「麒麟」のマークと「GREEN LABEL」というロゴを目立たせるデザインに変更した。洗練されたデザインのパッケージと自然をテーマにしたテレビCMは、女性からの支持も高いという。キリンビール マーケティング本部 マーケティング部 ビール類カテゴリー戦略担当の野際陽介氏は「スーパーやコンビニでビールを買うとき、グリーンラベルは恥ずかしくない、という女性ユーザーの声も少なくない」と話す。
グリーンラベルを販売している店舗は非常に多い。だが、ここ数年は購入者数も販売量も減り続けている状況だったという。キリンビールではその真因を「広告の質と量が下がり、店頭露出も低下。それに伴いブランドの好意度が下がった」と分析し、19年にリニューアルの実施が決まった。ただ、下がり続けていた好意度を急に回復させることは、容易ではない。そこで、まずは18年から好意度を高めるための地盤づくりを行った。
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