EC最大手、支払いアプリ「支付宝(アリペイ)」の運営、新小売の展開、クラウドサービスの提供……。中国・アリババ集団(アリババグループ)の強みはこれらだけではない。中国の中小・零細小売店約130万店をネットワーク化し、仕入れ、物流、マーケティングなどの機能を提供するBtoBプラットフォーム事業でも、日用品・消費財分野で中国最大手の地位を確立している。
アリババ集団は、中国全土にある600万強の中小・零細小売店のうち、北京や上海といった大都市を除く中国の2級都市から6級都市に展開する約130万店に対して、飲料・食料などを含む日用品・消費財分野で、仕入れ、物流、デジタルマーケティングなどの機能を提供するBtoBプラットフォーム「LST(零售通:Ling Shou Tong)」を、2016年末から展開している。
開始当初の登録店は約3000、扱うブランドは1つ、専用倉庫も1カ所だった。現在は約130万店にまで登録店を増やし、中国の日用品・消費財ブランドの85%以上を取り扱い、倉庫も数十を抱える。同業の中で最大手の地位を確立している。
中小零細店がネット経由で商品を発注・仕入れできる
アリババ集団が展開するLSTとは、登録した中小・零細店舗に対して、配信内容を随時変更できるデジタルスクリーンや専用BIツールなどを提供して、会員組織化したもの、と考えると分かりやすい。登録した小売店は、さまざまなメーカーがLSTのBIツール(専用サイト)上に出店した“旗艦店”を通じて、商品を発注・仕入れできる。いわば、アリババ集団が運営する中国最大のECサイト「天猫(Tモール)」のBtoB版である。発注した商品は、アリババがEC向けに中国全土に構築した物流網を使って店頭まで届けられる。
また小売店はBIツールを通じて、例えば毎月の売れ筋商品をチェックしたり、潜在顧客に対して、例えばアリババ傘下のスマートフォン向けアプリを通じてデータに基づくマーケティングを展開したりもできる。場合によっては、リアル小売店で得られる情報だけでなく、Tモールで得られた購買情報などを合わせて分析し、潜在顧客に対して商品をレコメンドすることも可能だ。「LSTを活用することで、従来よりも効率的な店舗運営を可能にし、店舗の収益増に貢献できる」(アリババグループ LSTビジネス部門ゼネラルマネジャーの林小海<ケビン・リン>副社長)わけだ。
一方、商品を提供するメーカーは、LSTを通すことによって、倉庫の設置や営業担当者の配置など自ら多額の投資をしなくても、中国の地方都市に展開する中小・零細小売店で、自社の商品をスムーズに販売できる。「中国の小売市場において、中小・零細小売店が占める市場シェアは、依然として40%以上。特に日用品・消費財分野で、この販路を活用できるかどうかは、メーカーにとって重要になる」とリン氏はLSTの重要性を解説する。
売れ筋の異なる複数の販路を整備
アリババが短期間に投資を重ね、このLSTを強化してきた理由は、中国における最大手流通事業者としての地位を確立し、さらなる収益増を図るためだ。「ECという販路だけでは中国の消費者のすべてをカバーできない。さまざまな販路を確立し、アリババに預けてもらえれば多くの消費者に商品を届けられる体制を構築する。そうすることで、多くの有力メーカーとアリババの関係を緊密化し、メーカー、消費者、小売り、アリババの全員がメリットを得られるWin-Winの関係を形成できる」とリン氏は言う。
実際、商品のカテゴリーによっては、主となる販路がかなり異なる。例えば、「紙おむつは、全販路のうちECで販売される比率が50%を超えているが、飲料は同1%程度にとどまり、リアル小売店、それも地方都市や農村の小規模店で多数が売れている」(リン氏)。だからこそアリババは、「淘宝(タオバオ)」やTモールといったECや、大都市で商圏6キロメートル内の顧客とオンライン、オフラインを融合させて緊密な関係を築く、同社の新小売戦略を代表する生鮮スーパー「盒馬鮮生(ファーマーションシェン)」、それに傘下に収めた大手スーパー「大潤發(RTマート)」などの既存小売店などにとどまらず、地方の中小・零細小売店に対する販路を確立し、多くの商品をアリババ集団で取り扱える体制を整えようというのだ。
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