中国に進出した日本企業の中で、アリババ集団が運営するクラウドサービス「アリババクラウド」を利用するケースが増えている。導入の決め手は「価格」「中国のビジネス環境を踏まえた機能やサービス」「広域利用のしやすさ」。日本企業の現地法人に導入を働きかけてきた野村綜研(北京)系統集成と、実際に利用に踏み切った日立製作所に実情を聞いた。

日立製作所の中国法人、日立(中国)は社内向け、社外向けサービスともに、アリババクラウドを活用している
日立製作所の中国法人、日立(中国)は社内向け、社外向けサービスともに、アリババクラウドを活用している

 「2016年ごろには、日本企業の現地法人に『アリババクラウドを導入しませんか』と持ちかけると門前払いされることも珍しくなかった。17年ごろから少しずつ導入する日本企業の現地法人が出てきて、18年からはその数が増え始めている」

野村綜研(北京)系統集成のITインフラコンサルタント、森川貴康氏
野村綜研(北京)系統集成のITインフラコンサルタント、森川貴康氏

 こう話すのは、中国の現地企業ならびに日本企業の現地法人向けにITソリューションの提供や運用・保守を手掛ける野村総合研究所(NRI)の現地法人の1つ、野村綜研(北京)系統集成で、15年からアリババクラウドの導入などを勧めてきたITインフラコンサルタントの森川貴康氏だ。同氏によれば、日本企業が今、アリババクラウドの導入を決断しているポイントは、3つあるという。「価格」「中国のビジネス環境を踏まえた機能やサービス」「広域利用のしやすさ」だ。

価格の安さが導入の決め手に

森川氏が講演で示したスライド。アリババクラウドの価格優位性が一目瞭然
森川氏が講演で示したスライド。アリババクラウドの価格優位性が一目瞭然

 まず価格。日本でも名を知られた米国企業が提供するクラウドサービスなどと比べた場合、「利用料金の1年分一括先払いなどを利用すると、年間利用料金は2分の1から3分の1になる」(森川氏)という。5年分一括先払いを利用すると、年間利用料金はさらに半額にまで落ちる。日立製作所グループの中国事業全体の共通インフラにするため、17年からアリババクラウドを導入し、グループ内で活用し始めた日立(中国)の大橋泰男CIO(最高情報責任者)も、「アリババクラウドを導入した決め手の1つは、その価格競争力だった」と明言する。

 それでいて機能やサービスが見劣りするわけではない。例えばセキュリティーサービス。競合するクラウドサービスの場合、外部のサービスを組み合わせて導入する場合が多く、作り込むコストと時間が必要になる。これに対してアリババクラウドは、「充実したセキュリティーサービスを自前で組み込んであるため、低コストでしかも早期導入が可能」(森川氏)だ。

 例えば、グローバルで決めたセキュリティー基準を中国でも守りながら、現地で複数のブランドサイトをいち早く立ち上げたいというニーズを抱えていた資生堂の現地法人は、このニーズを満たすクラウドサービスとしてアリババクラウドの導入を決断。現在、中国の18のブランドサイトすべてをアリババクラウド上で運用している。

森川氏が講演で示したスライド。アリババクラウドはその低価格のほか、セキュリティーなどの機能が高く評価されている
森川氏が講演で示したスライド。アリババクラウドはその低価格のほか、セキュリティーなどの機能が高く評価されている

 セキュリティーサービスだけではない。アリババクラウド上でユーザー企業に提供されている通信インフラや、ビジネス向けアプリケーションは、アリババ集団が実際に中国で展開しているビジネスで実績のあるものばかり。日本企業が中国でビジネスを進めるうえでも、使い勝手がいい。

日立(中国)の大橋泰男CIO(最高情報責任者)
日立(中国)の大橋泰男CIO(最高情報責任者)

 日立の大橋氏はその効果をこう話す。「事業の中身によっては、中国で収集したデータを日本に持ち出すのは、中国の法律上、グレーの場合もある。アリババクラウド上で提供されているアプリケーションやソリューションは、中国のビジネス慣行や法律を踏まえているので、法的リスクを犯さずに、導入してすぐにビジネスに活用できる」。

 また、ニトリの現地法人は、中国市場向け自社ECサイトを構築する際、中国版Twitterと言われるSNSアプリ「微信(ウィーチャット)」とECサイトを連係させようと考えた。そうして導入したのがアリババクラウドだ。アリババ集団は、「淘宝(タオバオ)」や「天猫(Tモール)」など中国最大のECサイトを運営する企業である。そのノウハウが詰め込まれたアプリケーションを活用することで、ECサイト構築はもちろん、裏側の管理システムやウィーチャットとの連係機能までも、数カ月という短期間でスムーズに開発することができたという。

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