パロアルトインサイトCEO(最高経営責任者)の石角友愛氏とCTO(最高技術責任者)の長谷川貴久氏が、米国のビジネスと技術の最新情報から、次のトレンドを予測する連載。今回は米アップルCDO(最高デザイン責任者)、ジョナサン(ジョニー)・アイブ氏退職のインパクトを読み解く。
スティーブ・ジョブズがアップル本社の社員食堂で社員と一緒にランチを食べていたことはよく知られている。私も2011年にアップル本社に入社して以来、3回スティーブをカフェマック(それが社食の名前だった)で目撃したことがある。食べているのはいつもペパロニピザで、決まって同じ人物と食べていた。6月に退職が発表されたジョニー・アイブだ。他の社員に紛れて食べていてもオーラにあふれ、誰も二人の会話を妨げたりすることがないように一定の距離を保っていた。
1回目と2回目に目撃した時は、スティーブは目を輝かせて、細い腕を使いながら身ぶり手ぶりを交えながら一生懸命、次のアイデアを説明しているようだった。ジョニーは向かいに座って真剣な顔で聞いたり、アイデアを投げ返したりしていた。
3回目に彼らを目撃した時は違った。いつもは陽気に話しているのに、その時は全く会話がなかった。まるで彼らのテーブルだけ時が止まったように、二人で向かい合って無言で座っていた。ジョニーは少しうつむいていて、スティーブはピザを半分残していた。ケンカでもしたのかな、意見の相違でもあったのかな、と思っていたら、その数カ月後にスティーブが他界した。あの時はもう長くないことを知っていたのだろう。
アイブ氏という最大の“資産”を失ったアップル
スティーブが他界してすぐ、社内で追悼式が行われた。全社を挙げての追悼式で、ジョニーが話をした。私が知る限りでジョニーが大勢の前で話したのは、その追悼式が最初で最後だ。人前で話すことを嫌うジョニーが、あの場で追悼の言葉を述べたのは、それだけスティーブを尊敬し、好きだったからだろう。彼のスピーチは「YouTube」などでも公開されているので、ここで内容を記すことはしないが、本当に素晴らしかった。英国紳士らしいユーモアにあふれていて、一瞬悲しみを忘れさせてくれるような内容だった。
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