アサヒビールが新しく発売する“微アルコール”ビールテイスト飲料「アサヒ ビアリー」は、責任ある飲酒を推進し、お酒の楽しみ方の多様性を尊重するという同社の取り組み「スマートドリンキング(スマドリ)」関連商品の第1弾。新たな飲酒習慣を浸透させるため本田翼とハマ・オカモトを起用し、通常よりも早いティザー広告を展開した。
新しい考えを浸透させるべく早めのCM放映
「時代は、変わった。」――。ナレーションとテロップに合わせ、カフェで仕事をするビジネスマン、オンライン会議の様子、ベースを抱えたハマ・オカモトがPC画面越しに会話する姿。「オンとオフはシームレスになった」とナレーションが続くと、ビアリーを脇に置きながらオンラインで会話をする男性や、明るい時間に夫婦でビアリーとパン作りを楽しむ様子、缶を開ける本田翼の至福の表情が映る。「アルコール分0.5%という新しい選択肢。微アル」と、製品特性とともにシズルカットが流れ、さまざまなシーンでアサヒビアリーをおいしそうに飲む姿が次々に映し出される。
「微アル。新しい日常には、ビールのようなうまさを楽しめて、ちょっと心地よくなれるくらいが、最高だ」
アサヒビールの「アサヒ ビアリー(以下、ビアリー)」は2021年3月30日に首都圏・関東信越地区で先行発売される、アルコール分0.5%の低アルコールならぬ“微アルコール”ビールテイスト飲料だ。一度、ビールを造った後にアルコール分をできるだけ取り除くという、日本ではあまり行われていない製造方法を用い、アルコールはほとんどないのに本格的なビールのうまさが楽しめるのが特徴だ。
この新製品のテレビCMが放映され始めたのは21年3月4日。同社では新しい製品の発売前に流すティザー広告は、通常、発売の1~2週間前にスタートする。いつもより2週間近くも早くCMを流した背景には、「新しい考え方によって生まれた製品であることを浸透させる」という意図があった。
ビアリーはアサヒビールが20年12月に宣言した「スマートドリンキング(スマドリ)」と呼ぶ、新しい飲酒習慣を推進する取り組みから誕生した商品の第1弾。スマドリとは、不適切な飲酒を撲滅し、さまざまな人々の状況や場面における飲み方の選択肢を拡大し、多様性を受容できる社会の実現を目指すという考え方である。
海外では不適切な飲酒を避けて、お酒を飲める人があえて飲まないことを選択する「ソバーキュリアス」が増え、ノンアルコールや低アルコール市場が拡大し続けている。このトレンドが日本でも広がると同社はみている(関連記事:アサヒビール、2021年は生ジョッキ缶&微アルコールで勝負)。
アルコール飲料に特化した市場分析会社IWSRが発表した最新調査によると、世界のノンアル市場は伸長し続けており、24年には20年比で31%増加するとのこと。アサヒビール専務取締役マーケティング本部長の松山一雄氏は、「これからは節度を持って自律的にアルコールを楽しむ時代になっていく」と指摘。一方、日本では09~12年にかけて一時成長しかけたノンアル・低アル飲料市場は14年に縮小したまま横ばいを続けている。
世界のトレンドに反して日本が伸び悩んでいる要因として、「味や飲みごたえなど商品に対する要求が満たされていない。本当に驚く商品を作ることで伸びていく」と、松山氏は分析する。それが今回のビアリー開発につながった。
とはいえ、新たな切り口の商品をすぐに浸透させるのは難しい。そこで通常よりも早いタイミングでのCM投下となった。実売ターゲットはビールユーザーを含む幅広い年代層であるにもかかわらず、CMは20~30代をターゲットに制作したという。その年代は他の年代よりも度数の低いアルコールを求める声が大きく、コロナ禍において「少し酔いたい」需要が高まっていることも、同社の調査で分かったからだ。
あえて2人を日常のワンシーンに溶け込ませる
若年層への訴求力を考慮して選んだのが本田とハマだった。「女優・モデルという本業に加え、趣味でゲームも楽しむ本田さんのマルチな活躍ぶり。そしてベーシストでありながらラジオや執筆活動もこなす、ハマさんの強い情報発信力」(アサヒビールマーケティング本部 宣伝部の千田隆明氏)を見込んでの起用だった。
とはいえ、CMの演出は特に2人だけをフィーチャーしたわけではない。さまざまな日常のワンシーンの中に、自然な2人の表情が盛り込まれている。その理由は、ビアリーが生活のあらゆるシーンに溶け込み、どんな人でも楽しんでもらえる飲み物であるという価値を伝えるためだ。
一方、超低アルコール故、未成年による飲酒も気にかかる。そうした危険性を考慮し、ビアリーではCM内でアルコールが含まれる飲料である点をいつも以上に強調すべく、未成年や妊婦、飲酒運転に関する注意書きを表示する“レギュレーション”を厳しく設定した。
千田氏によると、「微アル誕生」編では、時代の要請で微アルが誕生した点を強く印象付けることを意識したという。
「1作目でWhy(なぜビアリーが生まれたか)を伝えた。今後は、ともすれば“ビールもどき”とも捉えられがちなビールテイスト飲料だが、ビアリーは100%ビール由来であるというWhatを訴求し、いろんなシーンで楽しんでもらえるHowの部分をより具体的に伝えていきたい」(千田氏)
アサヒが掲げる「スマドリ」という新しい飲酒習慣が正しく消費者に浸透するかどうか。第1弾商品であるビアリーとCMにのしかかる重圧は、そのアルコール度数ほど軽くはないだろう。
(写真提供/アサヒビール)