居酒屋メシに合うジンソーダ

 前述の通り、サントリーは翠を「第三のソーダ割」として売り出すことを目指して開発した。その背景には2つの要因がある。1つは世界的なジン人気だ。アルコール飲料に特化した市場分析会社の英IWSRによると、世界のジン市場は08年から18年にかけて130%超も成長しており(the IWSR2020)、ウイスキーの本場・英国ではそのウイスキー市場を上回るほどだ。国内市場でも同期間で120%超伸長している。吉村氏はその理由として「リフレッシュメント需要、(蒸留酒の特徴として)糖質・プリン体を含まないことによる健康需要」を挙げる。

 翠の開発に至る2つ目の背景は、100年にわたるサントリーのジン開発の歴史だ。1907年に「赤玉ポートワイン(現赤玉スイートワイン)」を発売後、19年に開設した大阪工場でスピリッツ・リキュールの開発がスタート。36年に同社初のジン「HERMES GIN」が、37年発売の「角瓶」に先んじて発売された。その後も「日本で洋酒文化を広げたい」「世界に誇れる国産の製品をつくりたい」という創業者・鳥井信治郎の思いが脈々と受け継がれてきた。

 上記の“ジン景気”に乗ってサントリーが2017年に発売したジャパニーズクラフトジン「ROKU」は、サクラの香りなど和のテイストが受け入れられ世界的な人気商品に。この上昇気流をさらに高めようと、より門戸の広いスタンダードなジャパニーズジンの開発に取り掛かった。角瓶のハイボール、「こだわり酒場」のレモンサワーとソーダ割りでの成功が続いていたため、スタンダードなジンもソーダ割りで訴求することにした。

「ROKU」は4000円のプレミアム製品である一方、「翠」は700ミリリットルで1380円(希望小売価格、税別)と初心者でも手が出しやすい価格設定にした
「ROKU」は4000円のプレミアム製品である一方、「翠」は700ミリリットルで1380円(希望小売価格、税別)と初心者でも手が出しやすい価格設定にした

 食中酒として和食にも合いやすいように、ジュニパーベリーやコリアンダーシードなど伝統的な8種のボタニカル原料に加え、ゆず・緑茶・しょうがの3つの和素材を使用した。ゆずの香りで食欲を刺激し、緑茶のうま味が食事と調和、ほのかなしょうがの辛味が後味をスッキリとさせる効果がある。

 翠のターゲットは炭酸割りの酒が好きな30~40代男性で、芋焼酎をソーダ割りで飲むなどさまざまな酒をたしなんでいる人。翠ジンソーダを飲んだ感想を調査した結果、「芋焼酎のソーダ割りが減って、このジンに代える」「新しい感覚、新しい風が吹いている感じ」とポジティブな声ばかりだったという。「ジンは飲めば評価が高いものの、手に取ってもらうまでが難しい」と吉村氏。CM設計に当たり「いかに自分ごとに落とし込むかが課題だった」と打ち明ける。そこでCMでは焼き鳥や焼き魚などの居酒屋メシを登場させ、「自分がいつも行っている」居酒屋メニューとの相性をアピールすることでトライアルのハードルを下げた。

 その後の快進撃は冒頭に述べた通り。うれしい誤算は、ターゲット層のみならず20代の若い層や女性がこのCMに反応したこと。女性同士のオンライン飲み会でも人気だという。

 桜井の凛とした爽やかさと、角田の隠しきれない好奇心が絶妙なバランスのCMだけに、続編への期待が高まる。21年2月にはWebで公開されている50秒動画の短縮版がテレビで放映される予定だ。実はこちらの動画でも角田はまだ「翠ジンソーダ」を飲んでいない。彼が翠ジンソーダを口にするCMを目にする日は、果たして訪れるのだろうか。

演技力のある2人は撮影現場でもさまざまなアドリブを繰り出す
演技力のある2人は撮影現場でもさまざまなアドリブを繰り出す
今回のキャラクター:桜井ユキ
■企業:サントリースピリッツ
■商品:サントリージャパニーズジン「翠(SUI)」

<クリエイターズファイル>
■クリエイティブディレクター:菅野紘樹、権八成裕、橋田和明
■企画:権八成裕
■プロデューサー:石川淳、橘慎哉
■コピーライター:吉岡丈晴
■アートディレクター:柿崎裕生
■演出:箱田優子
■撮影:今村圭佑
■曲名:11PMのテーマ
■作曲:三保敬太郎
■ナレーター:桜井ユキ

(写真/サントリー)