DMM英会話が5年以上前に制作したCMの再放映が、2020年5月前期のCM好感度1位を獲得して話題になっている。お笑いタレントのおぎやはぎ・矢作兼と同じくアイクぬわらが出演。バラエティー番組のスタッフが制作するなどCMでは異色の布陣だ。脚本も手掛けた矢作氏に舞台裏について聞いた。
<スタッフリスト>
■企画・脚本:矢作兼、オークラ
■演出・監督:矢作兼、塩谷泰孝
■プロデューサー:小室良太(シオプロ)
■撮影会社:DEEP
■制作会社:シオプロ
コント感覚で楽しめるCM
生徒役のおぎやはぎ・矢作兼が「DMM英会話で発音の練習しよ」と、ノートPCの画面に映る講師役の超新塾・アイクぬわらに「ポテト」「トマト」と順に尋ね、アイクが「ポテェイト」「トメェイト」とネーティブの発音を指導する。次に「タマゴ」と聞かれたアイクは「タメェイゴ」と答え、「いや、エッグだろ」と矢作に突っ込まれしょげてしまう――。
2020年5月前期「作品別CM好感度調査」(CM総合研究所)で1位を獲得した、DMM英会話のCM「ポテト編」の一幕だ。実はこのCMは14年10月に放映されたもので、再放映のタイミングで大きな注目を浴びた。「最近よく見かけるな」と思う読者も多いだろう。DMM英会話創始者で代表の上澤貴生氏は、「新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛が続く4~8月に、CMの露出量を増やした」と打ち明ける。つまり、ステイホーム期間に認知拡大を狙う戦略だったのだ。
これまでは新しいことに挑戦する気分が高まる年始の1月や、新生活がスタートする3、4月に集中的に流していたという。しかし外出自粛を「まだまだ認知が浸透していないオンライン英会話というものを知ってもらえるチャンス」と前向きに捉えた。実際、4~8月の新規会員者数は前年同期に比べ約50%も増加した。
とはいえ、ただ露出量を増やしただけではここまでの効果は得られなかっただろう。上澤氏は「SNSでも“コント1本見た気分で面白い”といった声が多かった。特に子供に人気で、子供の入会者が増えた実感がある」と、矢作とアイクの掛け合いの面白さが新規顧客獲得につながったと見る。
DMM英会話は13年スタートのオンラインに特化した英会話レッスンサービス。低価格と独自のオンラインシステムを通じて、マンツーマンでいつでも英会話の練習ができる便利さ、120カ国7000人という外国人講師の多彩さが人気を集めている。オンライン英会話の顧客満足度や認知度など16項目で1位を獲得し(20年4月、インテージ調べ)、オンライン英会話市場シェアは5割近くと“一人勝ち”の状態だ。それでも上澤氏は、「英会話学習はまだ通学制が圧倒的な人気。オンライン英会話には、認知を広げられる余地がある」とCMの意義を強調する。
同社がCM戦略で重視しているのは、「オンライン英会話とはどういうものかを直感的に伝えること」と「楽しいこと」。矢作とアイクのコンビによるCMは、いずれもパソコンの画面に映ったアイクに向かって矢作が話しかけ、英語のレッスンシーンを再現しながらアイクのボケが入り、それを矢作が突っ込み、オチに至る。2人のやり取りを面白がりながらも、オンライン英会話の輪郭がはっきり見える演出だ。
そもそも2人を起用したきっかけは何だったのか。上澤氏は「DMM英会話の社員が偶然矢作さんとアイクさんと一緒に食事をした際、ちょうど日本人と外国人の組み合わせで、かつ2人の掛け合いがとても面白かったので、そのまま出演を依頼した」と明かす。
再放映の好評を受け、20年7月28日には新しく11作品(テレビCM3編、ウェブ限定8編)を公開。こちらも8月前期の「銘柄別CM好感度」で2位(CM総合研究所)を獲得し、話題性の強さを証明した。“刺さるCM”を連発する矢作氏に3年ぶりの新作撮影の裏側を聞いた。
時代が追い付いてきた
――約5年半前に制作された第1弾CM「ポテト編」が好感度1位になりましたが、率直なご感想をお聞かせください。
矢作兼氏(以下、矢作氏) やっぱり時代の先を行っていたな、と思います。やっと追い付いてきたな、と(笑)。当時も話題になっていないわけではないけれど、コロナ禍の影響でみんなの目に留まったんでしょうね。見てさえくれれば伝わる自信はありました。
――「ポテト編」が生まれた背景を教えてください。
矢作氏 DMMさんからCM出演を依頼されたときに、「どうせだったら、全部やはぎさんが作ってください」と言われて。そんな仕事珍しいでしょ。でも、ネタも必要だってことで考えたんです。何本か作ってまとめてDMMさんにお渡ししたら、あれが一番気に入ってもらえたみたいですね。
――20年7月には新作が公開されました。テレビ、ウェブ合わせて全部で11本ものネタがありますが、全てやはぎさんが作られたのですか。
矢作氏 基本的にはそうなんですが、オークラ(放送作家のオークラ氏)と考えたものもある。……あんまり覚えてないんですよね。しゃべりながら何となく作ったものもあれば、あらかじめ考えてとっておいたネタもある。「シャーペン編」「自己紹介編」なんかは、あらかじめ考えたネタですね。
――CM用のネタ作りで苦労した点はありますか。
矢作氏 DMMさんから、「ポテト編」みたいなものを1本作ってほしいと言われたのが一番大変だったかもしれない。似てるものを作ると超えられないんです。それをずっと考えていて、出てきたのが「ラジオ編」。「ラジオ、スタジオ、アラディオ(粗塩)」は、前回(「ポテト、トマト、タメェイゴ」)と同じパターンですね。
あとはCMということで実質12秒くらいしかない中で、ひねったりせず、誰にでもすぐ分かりやすいネタにしています。僕の笑いは王道を避ける傾向があるんですが、CMを作るときだけはちゃんと「王道脳」を使いましたよ。
――DMM英会話のCMはおぎやはぎさんが出演される「ゴッドタン」(テレビ東京)など、多くのバラエティー番組を制作するシオプロ(東京・港)が手掛けたという点でも話題です。この布陣に至った経緯を教えてください。
矢作氏 DMMさんからは「全部やって」と一任されたけれど、僕は監督も編集もできないから。考えた結果、「もうシオプロでいいんじゃない?」と(笑)。編集は面白い“間”を分かっている人でないとダメだから、笑いの間を分かっている人に撮ってほしいという思いもありました。あうんの呼吸だから、編集も納得の仕上がりで制作費も通常の10分の1程度に抑えられたそうですよ。それが1位になったんだからすごいよね。これを読んでる企業の方、僕に丸投げしていただけたら面白いCMを安く作りますよ(笑)
――確かに他のCMに比べて、DMM英会話はどこか雰囲気が違うような……。
矢作氏 ダサいでしょ(笑)
――照明が明るいですよね。
矢作氏 CMの制作スタッフはおしゃれな集団ですから。照明やらカメラやら、こだわりがすごいですからね。その点シオプロは、みんなが使ってるおしゃれなやり方を知らないからね(笑)。こだわらないから。撮影も早かった。スケジュールは7~8時間くらい抑えられていたけど、実際には2~3時間で終わりました。
――矢作さんとアイクさんはYouTubeでも英会話チャンネル「矢作とアイクの英会話」を開設され、スタートから9カ月で16万人以上(20年8月24日時点)が登録するほどの人気です。コント形式と解説動画がありますが反響はいかがですか。
矢作氏 意外と解説動画のほうが再生回数が増える。みんな、ふざけるよりちゃんと英語を勉強したいみたい(笑)。コントでもちゃんと使えるフレーズを選んで作ってるんですよ。あまりにもコント色が強くなって表現が難しくなったから、アイクに投げることもあるけど、最初からできるところは自分で英訳しています。
――サラリーマン時代は海外に赴任されるなど、英語スキルをお持ちの矢作さんですが、オンライン英会話は試されたことはありますか。
矢作氏 僕、DMM英会話の会員ですから。週3~4日、25分間の1レッスンを数カ月続けてみたんですが、25分だけでも筋トレのように365日継続したら絶対に上達すると思います。最初は知らない外国人の先生との会話はもどかしい時間ですが、それでも続けていたら絶対に伸びる。留学しなくても話せるようになる方法だと思います。最近、レッスンができていなかったので、もう1回やろうかな。オリンピックでリポーターができるくらいにはなれるように、勉強します。
(写真/稲垣純也)