面白いCMを繰り出す企業と言えば「KINCHO(キンチョウ・金鳥)」で知られる大日本除虫菊(大阪市)を思い浮かべる人も多いだろう。中でもつり下げタイプの虫よけ剤「虫コナーズ」は、長澤まさみのアクの強いキャラクターと関西弁が話題に。人気女優が演じる“オバハンぽさ”の狙いとは。

“虫コナーズ的”な類似品との差別化を強調した『初めてぶらさげた人』篇
“虫コナーズ的”な類似品との差別化を強調した『初めてぶらさげた人』篇
今回のキャラクター:長澤まさみ
■製品:キンチョウ「虫コナーズ」
■企業:大日本除虫菊

<クリエーターズファイル>
■クリエイティブディレクター:中治信博
■プランナー:中治信博/古川雅之/直川隆久
■コピーライター:中治信博/古川雅之/直川隆久
■プロデューサー:五十嵐一敏/市橋弘子
■ディレクター:大森立嗣
■撮影:槇憲治

「CMは最も優秀な営業部員」

 部屋の窓につり下げられた「虫コナーズ」を見上げながらおもむろに、「この世界には、虫コナーズと虫コナーズやない虫コナーズ的なもんがあんねん」と弟(仲野太賀)に関西弁で話しかける、蚊取り線香のような色のワンピースを着た長澤まさみ。意味深なフレーズと状況設定に、これからどんな物語が展開されるのかと、自然と視聴者は引き込まれていく。

 「浜田さんのお宅はずーっと虫コナーズ的なもんをぶらさげてた」と続ける長澤に、「ふーん」と先を促す弟。「でも今年初めて虫コナーズをぶら下げた」と語気を荒らげる長澤。「ほう!」と弟が応えれば、少し間を置き、「勝った……」と長澤は満足げな表情を見せる。思わず「何に?」と弟。効き目を示した画像ととともに、「どうせぶらさげるなら 金鳥虫コナーズ」とナレーションが入る。最後は窓際で手押し相撲をするほほえましい姉弟のシーン――。

 派手な展開やBGMなどないのに、ふと目を奪われてしまう。これが長澤が出演する虫コナーズのCMシリーズの特徴だ。2016年からブランドキャラクターを務める長澤。20年も既に2本のCMが公開された。

 先述の『初めてぶらさげた人』篇に加え、前年の虫コナーズをぶら下げたままでは効き目が弱まることを「人間でいうたらおでこにパスワードを書いて歩いてるようなもんやで」と警告する『無防備』篇も、そのシュールさについ最後まで見てしまう。

 「CMは最も優秀な営業部員」だと断言するのは、KINCHO(大日本除虫菊)宣伝部の小林裕一氏だ。自身も過去にキンチョウ製品のCMに出演経験のある小林氏は、全国に広がるユーザーに向けメッセージを伝えるには「テレビコマーシャルが最適」と話す。

 その一方で、CMのネガティブ要素をこう分析する。

 「そもそもCMはテレビ視聴者には不要だが、仕方なく見ている。昔ならその間にトイレへ行こうなんて言われてましたよね。今はテレビそのものがながら見になってしまい、“邪魔者”に注意を払ってもらうには、相当のインパクトが必要。『初めてぶらさげた人』篇では、『勝った』の一言を言うまでCMでは考えられないほどぜいたく”間”の使い方をしている。この間が注意をひく」

 かたくななまでにアクの強いCMは、すべて見てもらうための努力であり、「KINCHO」ブランドを訴求するための決意とも受け取れる。「楽しいと思ってもらわないと内容が入らない。視聴者側から『見たろか』と思ってもらわないといけない」と、小林氏はユーモア重視の姿勢を強調する。

『無防備』篇は、期限切れをそのまま使う人に向けたメッセージだ
『無防備』篇は、期限切れをそのまま使う人に向けたメッセージだ

なぜ「関西弁」なのか

 小林氏は「クリエイター側からの提案をむやみに断らない」のが方針の1つ。「これは断られるだろうな……と、つくり手が思うハードルをぐっと下げて面白いアイデアを出してほしい」からだ。

 とはいえ「つめこみすぎたCM」はタブーだという。限られた時間内で伝えられるメッセージは1つだと考え、「一言、二言に、いかにインパクトを持たせて覚えてもらうかが勝負。関西弁に特にこだわりがあるわけではないが、KINCHO側もクリエイターも関西人が多い。自分たちに響く言葉を突き詰めるとやっぱり関西弁になってしまう」。

 虫コナーズが発売された当時のCMは、おばさんが2人で歌いながら踊るという今とは対照的なものだった。発売以来大ヒットとなった虫コナーズだが、続々発売される類似品もすべて虫コナーズと認識され、粗悪品を使った人から「効けへん」とクレームが入ることもあったという。

 そこで「発売当初は名前を浸透させることが目的だったが、思い切って趣向性をガラリと変え、改めて機能性をアピールすることにした」と小林氏。

 人気女優である長澤が、コテコテの関西弁を話すギャップが受け、大きな話題となった。しかしなぜキャラクターに長澤を選んだのか。

関西出身ではない長澤だが、関西弁の指導を受けて流ちょうに話せるように(写真は17年の『どうなったと思う?』篇)
関西出身ではない長澤だが、関西弁の指導を受けて流ちょうに話せるように(写真は17年の『どうなったと思う?』篇)

シリーズ1作目は是枝裕和監督作品だった

 小林氏は長澤起用の理由をこう説明する。

 「新しいCMにしようと考えたとき、キャラクターの条件は3つあった。ユーザーである主婦と同じ女性で、商品のメジャー感と同じように知名度があること。そしてお芝居が上手なこと。KINCHOのCMは現場でセリフが変わることもしばしばなので、演技力は必須条件。長澤さんは条件すべてに当てはまるうえ、絵コンテに出てくる女性を演じている姿が目に浮かんだのが決め手だった」

 シリーズ第1作『はずしてみたら?』『ふんばる手』篇では、長澤は高畑淳子とコンビを組み、虫コナーズが「効いてないようにみえて効いていること」「最後まで効き目が続くこと」を訴えた。

 実はこのCM、長澤が出演した映画『海街diary』でメガホンをとる是枝裕和監督が監督を務めている。くしくも撮影場所は映画の舞台と同じ、神奈川県鎌倉市だ。

 「映画と環境が似たためか、長澤さんもこのシュールなキャラクターを自然に演じてくださった。その後も毎年、企画に合わせて相手役を変えてシリーズを重ねているが、売り上げが安定しており、CMの効果を実感している」と小林氏。

 1966年に「ハナ肇とクレイジーキャッツ」の桜井センリが、殺虫剤「キンチョール」のCMでボトルを逆さに持ち、「ルーチョンキ」とアドリブを放ち大ヒットしことをきっかけに始まったKINCHOの面白CM。これでもかと言わんばかりのハードルの低さを武器に、ともすれば無視される恐れのあるCMの注目度を、長年にわたって高く保ち続けてきた。もはやKINCHOの“芸風”と呼べる域にまで達していると言っても、過言ではないだろう。

松尾スズキと共演した17年の『効き目もローンも』篇でも、振り切った演技を見せる長澤
松尾スズキと共演した17年の『効き目もローンも』篇でも、振り切った演技を見せる長澤

CMギャラリー<是枝裕和作品>

シリーズ1作目『はずしてみたら』篇(2016年)
シリーズ1作目『はずしてみたら』篇(2016年)
『ふんばる手(ぶぁ~)』篇(2016年)
『ふんばる手(ぶぁ~)』篇(2016年)

(写真提供/大日本除虫菊)