強さ、格好よさ、セクシーさ――。自社のサービスを強調せず、新垣結衣の「まだ誰も見たことのない」表情にこだわるGMOクリック証券のCM。最新10作目は新垣が友人とキャンプをする自然な姿を映し出す。全作品でクリエイティブディレクターを務める志伯健太郎氏にCMシリーズの狙いを聞いた。

新垣結衣が出演するGMOクリック証券の10作目CM『Life is Friendship.』篇(2019年12月12日公開)
新垣結衣が出演するGMOクリック証券の10作目CM『Life is Friendship.』篇(2019年12月12日公開)
今回のキャラクター:新垣結衣
企業:GMOクリック証券
キャラクター:新垣結衣

<クリエーターズファイル>
■クリエイティブディレクター:志伯健太郎(GLIDER)
■アートディレクター:小関友未(GLIDER)
■プロデューサー: 早坂匡裕(GEEK PICTURES)
■監督(演出ディレクター):山田智和(CAVIAR)
■カメラマン: 大河原真生
■広告代理店:パレード

アウトドアでガッキーが本音を語る

 新垣結衣が出演するGMOクリック証券のCM「Life is~」。シリーズ最新作「Life is Friendship.」は、シリーズ初のドキュメンタリーだ。

 ブルーのシャツに淡い色のレインコートを着て長い髪を下ろした新垣は大きな木の前で友人とじゃれ合う。つり橋を渡り行き着いた川の前で、今度は髪をアップにまとめた新垣が質問に答える。「尊敬してる人? ……え、いっぱいいます。とても出会い運がいいので。私の周りは尊敬できる人ばっかりです」。

吊り橋を渡りながら自然な笑顔を見せる
吊り橋を渡りながら自然な笑顔を見せる

 川ではキャップをかぶって釣りにも挑戦する。「女優じゃなかったらたぶん、地元にいると思うんですけど、まだいろんなことを試している気がする。一問一答みたいに」。

 ここまでは彼女の独白が続くが、友人たちとの会話も登場する。「こんなに自然に触れ合ったのは……5、6年ぶりくらい」。

開放的な自然の中でテレビでは見せないような表情があふれる
開放的な自然の中でテレビでは見せないような表情があふれる

 テントを張り、夜に仲間とバーベキューを楽しんだりハンモックに揺られたり、花火をして遊んだり時間がたつにつれてリラックスする新垣の姿が映し出される背景に、インタビューの音声が流れる。

 「幸せにならなきゃって思うと焦りそう。だから、ま、生きてればいいんじゃないですか。今の自分の世界で、ああ、楽しいなとか、よかったな、気持ちいいなと思うことがあれば、それでいいような気がしますねえ」

無防備にハンモックを揺らす
無防備にハンモックを揺らす

 そして、最後にCMテーマ「Life is Friendship.」を言葉にする新垣。本編ではサービスの広告を一切しないCMとして話題の本シリーズ、最新作の設定は以下の通りだ。


古今東西。時代も時空も飛び越えて。
新垣さんは、旅を続けます。
時に学び。時に気づき。時に語り。
人生とは何か?自分とは誰か?
妖精の様に世界を舞い、
哲学者の様にコトバを紡ぐ新垣さん。
そのコトバは、普遍性を持つ言霊となり、
また次の旅へと新垣さんを誘います。

GMOクリック証券公式ホームページより

Life is friendship篇

信頼と品格を備えたCMを作る

 2006年のサービス開始以降、低い手数料や使いやすいUI/UXなどで外国為替証拠金(FX)取引を中心に事業拡大を続け、12年に年間のFX取引高で世界一となったGMOクリック証券。15年にはジャスダック上場を果たし、それを機に本格的なCM戦略の転換を図った。中でも上場の前年、14年スタートの新垣を起用した一連のCMシリーズは、インパクト重視だった従来の路線と決別し、ワンランク上の企業ブランド構築を目指した同社の、いわば“大勝負”でもあった(関連記事「まだ見たことのない新垣結衣で 大勝負に出たGMOクリック証券」)。

 勝負の結果は、今なおCMキャラクターに新垣を据え、視聴者に期待を抱かせ続けている映像を見れば明らかだろう。評判のCMシリーズを開始当初から支えてきたのが、クリエイティブディレクターであるGLIDER(東京・港)の志伯健太郎氏だ。時に異国情調を漂わせ、どこか不思議な世界観で作り込まれてきた同社のCMだったが、最新作はあえて演出なしで「素の新垣結衣」を表現する。その狙いとは……。


――これまでの9作品は、まるでプロモーションビデオのように緻密に作り込んだ世界観で、さまざまな表情の新垣さんを描いてこられました。企業名は最初と最後のロゴしか露出せず、本編では株やFXの取引といったサービスを連想させる演出が一切ない。珍しいCMですが、このシリーズが生まれた背景を教えてください。

志伯健太郎氏(以下、志伯氏) GMOクリック証券のCMシリーズ「Life is ~」は14年から始まりました。GMOクリック証券側からは広告の大転換期ということもあり、お金にまつわる“生っぽさ”には触れたくないという考えを伝えられ、信頼と品格を打ち出す方針が決まりました。GMOクリック証券は、クリエイティブスタッフがブレーンストーミングから同席し、CMの骨格を組み立てていくという他社と比べてもあまりないやり方で、ビジョンを共有しやすく、みんなで同じ方向を向いて作れるのがいいですね。商材を見せない広告というのは、とても珍しい。

 まず方針に沿って、「人生の真実を探す旅」というシリーズを通じたテーマを設定しました。新垣さんには旅人になってもらい、旅をしてもらおうと思いました。そのためこのシリーズではほとんどセットは使用せず、ロケをメインに撮影しています。世界観を保つためロケ地については非公表にしています。

今回のドキュメンタリータッチのCMの舞台は大自然
今回のドキュメンタリータッチのCMの舞台は大自然

――CMキャラクターを新垣さんに決めた理由は何ですか。

志伯氏 透明感があること、多くの人から愛され、ネガティブなイメージを持つ人がほとんどいないこと、日本を代表するの女優であることが決め手だと聞いています。

――今回は前9作品の作り込まれた世界観から一変し、友人たちとキャンプを楽しむ素の表情を撮られています。なぜ方向性をがらりと変えたのですか。

志伯氏 今回のCMは他のどんなCMとも違い、共演者も商品セットもないため、演出時間が長いのが特徴です。かなり多く作品を作ってきているため、これまでにないものを考えるのは大変なんです(笑)。

 とてもお忙しい新垣さんのスケジュールを鑑みたうえで、全く新たなイメージの作品を、となったときに、人気者の新垣さんの素の姿は多くの人の興味を引くのではないかと。プライベートがあまり知られていないからこそ、その一面を垣間見えるような表情を引き出せたらと考えました。

――シーンはキャンプ以外にもアイデアがあったのですか。

志伯氏 他には新垣さんがどっきりの仕掛け人になったり、ペットと遊んだり、などの案は出たのですが、コンテンツを突き詰めていき、ドキュメンタリーに決まりました。

これまでの作り込んだ映像と異なり、リアルさ自然さを追い求めた
これまでの作り込んだ映像と異なり、リアルさ自然さを追い求めた

セリフ、コンテ、演出なし

――明るい時間から始まり、最後は夜のバーベキューや花火のシーンもありました。どれくらいの時間をかけて撮影していたのですか。

志伯氏 朝は午前7時ごろからスタートして午後9時ごろまで、10時間以上カメラを回していましたね。今回は本当にナチュラルな新垣さんを撮りたかったので、セリフや演出などを書いたコンテはなく、新垣さんに事前に伝えていたのはシチュエーションや場所、何をするのかのみでした。スタートの声も掛けずにカメラを回し始めているんです。

演出なしで仲間たちと楽しむ新垣
演出なしで仲間たちと楽しむ新垣

――途中で新垣さんのモノローグがありますが、これもセリフではないのですか?

志伯氏 本当にセリフは一切なく、完全に彼女の言葉です。この(モノローグの)ときだけは、1人になってもらって監督か僕がインタビューをしています。新垣さんにとって、CMで自身の言葉で語るというのは初めての試みでした。

 ドキュメント性を出すために周りのスタッフにもカメラを回してもらうなど、複数のカメラで撮り続けました。

一瞬の表情も逃さないよう複数のカメラで撮り続けた
一瞬の表情も逃さないよう複数のカメラで撮り続けた

――「Life is ~」シリーズは注目度が高く、新作を期待する人も多いのですが、今回の「Life is Friendship.」への反応はいかがでしたか。

志伯氏 「まだかな」と待ってくれている人、新作を発表した途端に「待ってました」と喜んでくれる人は多いですね。反応は「かわいい」はもちろん、「ガッキーの素顔を引き出してくれたGMOクリック証券ありがとう」と言う声も多かったです。

 プロ中のプロである彼女にとってはよほどのことでなければ素を出してもらえないだろうと、演出は排除したのですが、撮影が進むにつれ新垣さんも、「本当に演出しないんだ」と理解してくれたようで、時間とともに見たことのない自然な表情を見せてくれるようになりました。

撮影は早朝から夜まで続いた
撮影は早朝から夜まで続いた

――次回作へのアイデアはもう温めていらっしゃいますか。

志伯氏 もはや来るところまで来たかなと(笑)。素を出すというコンセプトは、もう十分な成果を出したので今後はいいかなと思っています。僕は、例えば2年ごとに発表される(米国の)NIKEのフットボールのCMのように、同じ題材で毎回手を替え品を替えて作り上げる秀逸なCMを目指しています。

ファンの多い本シリーズ。次回作への期待も高まる
ファンの多い本シリーズ。次回作への期待も高まる

(写真提供/GMOクリック証券、パレード)

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