伊藤園が生み出した世界初のペットボトル緑茶飲料「お~いお茶」は、茶葉の栽培から関わり自社生産を徹底するなどおいしさを追求し続けている。そのCMキャラクターに既存の市川海老蔵に加え、2017年には有村架純を起用。18年にはCMで共演を果たす。イメージチェンジを図った効果はあったのか。
<クリエイターズファイル>
■シニア・クリエーティブ・ディレクター:藤田貴久(電通)
■クリエーティブ・ディレクター:池田裕一(電通)
■アートディレクター:小沢葉純(電通)
■コピーライター/プランナー:服部悠(電通)
■演出/撮影:谷一郎(谷一郎事務所)
■広告代理店:電通
日本らしさを伝えられる人に
雪が舞い散る和の雰囲気が漂う空間で、有村架純に温かいお茶でもてなす市川海老蔵。お茶をいれながら、「人を想(おも)い、ぬくもりをつなぐもの」と優しく語りかける。その言葉に「それがお茶なんですね」と、しみじみと味わっている有村が手に持つ湯飲みが、いつの間にか電子レンジでチンできる「お~いお茶」に入れ替わっている――。2000年から伊藤園「お~いお茶」のCMキャラクターを務める海老蔵と、17年から起用された有村は、18年の秋にCM内で初めて共演した。
有村の初登場は17年2月から放映された春限定の桜パッケージのCM。満開の桜を背景に、白いワンピース姿で爽やかな風に吹かれた初々しい有村の姿が印象的だった。長年キャラクターを務める海老蔵に加え、有村を追加投入したのは、若者のお茶離れを食い止めようという狙いがあったからだ。
伊藤園マーケティング本部広告宣伝部緑茶ブランド広告チーフの谷川俊樹氏は、「お~いお茶は緑茶飲料では長年トップシェアをキープしているが、若い人は緑茶自体に苦い、渋い、薄いなどといったネガティブなイメージを持っている。ガラッとイメージを変えることで若者へのリーチという課題の解決策の一つにしたかった」と打ち明ける。
お~いお茶の前身は1984年に開発した業界初の缶入り緑茶飲料「缶入り煎茶」。低迷する緑茶(茶葉)市場の活性化を図ったものの、85年の発売以降、特に若者の「煎茶の読み方が分からない」という理由で思うようにヒットしなかった。そこで若年層にも親しみやすいネーミングを模索し、行き着いたのが俳優の故・島田正吾が当時茶葉のCMで使っていた「お~いお茶」のフレーズだった。
その狙いは的中した。89年にお~いお茶を発売したところ、幅広い年代から支持されて前年度比2倍以上、缶入り煎茶の発売翌年度と比較すると6倍以上となる約40億円にまで伸長した。
発売以後、キリン「生茶」が登場した2000年の1カ月を除いて緑茶飲料市場でトップシェアを維持し続けるお~いお茶。ヒットの起爆剤になったのが、缶より携帯利便性を高めるために開発した世界初のペットボトル緑茶飲料だ。緑茶に含まれる成分が浮遊物として発生する“オリ”を独自の特許技術「ナチュラル・クリアー製法」で取り除き、90年に1.5リットル容器での発売にこぎ着けた。
96年に500ミリリットルを投入すると、売り上げは毎年倍増するほどの大ヒットに。その後も飲料メーカーで唯一、電子レンジで温められるペットボトルや緑茶の劣化原因になる「光」を遮断するペットボトルを開発するなど、ペットボトルでおいしく緑茶を飲むための工夫を重ねてきた。
これからの人が朝ドラヒロインで一躍国民的女優に
そんな伊藤園のCMキャラクターは息が長い傾向にある。その狙いを谷川氏はこう説明する。
「実はまだ伊藤園は創業から50年。歴史が短いが、一から立ち上げておいしさを追求し続けて、地に張ったものがあるという自負がある。同じキャラクターを使い続ければ、例えばお~いお茶といえば〇〇さんとイメージが定着しやすく覚えてもらいやすい。効率よくメッセージを伝えられる」
キャラクター選定は、「日本らしさを伝えられる、人気はあるがどこか古風で地に足が着いた志のある人」(谷川氏)を基準としている。00年に中谷美紀からバトンを受け継いだ海老蔵は、まさしくこの基準に当てはまった。
NHKの朝ドラ「あまちゃん」で注目されブレークした有村は、伊藤園の別ブランドTEAs' TEAのCMに出演していた。そうした時期に「もっと生かせる場面はないかと模索していたところ『ひよっこ』のヒロインに決まり、より国民的な存在となった。まさに、お~いお茶のCMキャラクターにぴったりな存在だと思った」と、谷川氏はお~いお茶の新キャラクター起用の背景を語る。
春の限定パッケージに始まり、光を通さないパッケージの機能性、さらには世界に向けてお~いお茶の魅力を海老蔵とともに伝え続けている。「実は社内では長年、もっとCMを改善できるのではないかと指摘されていた。有村さんと海老蔵さんのコンビになってから、良くなったと評判が上がった」と谷川氏は手応えを感じている。若者への訴求についても、「SNSの反応を中心に掘り起こせてきている」と谷川氏は言う。
「緑茶市場のボリュームゾーンは40~60代。将来を見据え市場拡大という大義を考えたとき、若い人に向けて世界に誇る文化であることを訴求していくことは意義がある。だが、広告だけで何かを変えられるとは思っていない。全社一丸で取り組んでいく」と谷川氏はさらに気を引き締める。
(写真提供/伊藤園)