創刊21周年を迎えたリクルートジョブズ(東京・中央)の「タウンワーク」は、若手注目度ナンバーワンの平野紫耀と実力派俳優・藤原竜也を新CMに起用した。ともにブランドロゴが描かれた「箱」をかぶって登場し、2人の顔が映るのはラストの数秒間のみ。斬新な構成の裏に、同社のある変革があった。

2019年9月に放映開始したアイドルグループKing & Princeの平野紫耀が出演するタウンワークの新CM「タウンワーク誰かな・登場 ダンス編」。人気絶頂の彼の顔が映るのはラスト2秒のみ
今回のキャラクター:藤原竜也、平野紫耀
■企業:リクルートジョブズ
■商品:タウンワーク

<クリエイターズファイル>
■クリエイティブ・ディレクター:篠原誠
■プランナー/コピーライター:鈴木晋太郎、青木美菜代、杉井すみれ
■アートディレクター:阿部泰成
■演出:井口弘一
■撮影:クマダタカキ
■音楽プロデューサー:緑川徹、原口友也
■広告代理店:電通

飽きやすく、テレビのながら見が多い若者の記憶に残せ

 ♪タウンワーク誰かな? バイトするなら誰かな?――。繰り返される軽やかなメロディーに乗ってエアロビクスで体を動かす男性。全身ピカピカのメタル調ボディースーツで森を歩き、キャンピングカーでおびえる老夫婦に近づいていく男性。どちらもタウンワークのブランドロゴと「バイトするならタウンワーク」のフレーズが描かれた黄色の箱を頭にかぶっている。最後に歌で名前を告げられ、箱を脱ぐと現れるのは、人気絶頂のアイドルグループKing & Princeの平野紫耀と実力派俳優の藤原竜也だ。最後に2人はニコリともせず、箱に書かれたフレーズを言う。

 「バイトするなら、タウンワーク。」

 「あれ、何?!」。SNSはおよそ何度見ても理解できないCMの話題であふれた。人気タレントを2人も起用しながらほとんどその顔を映さない。リクルートジョブズの求人情報メディア「タウンワーク」の新CMは、視聴者に大きなインパクトを残した。

「タウンワーク誰かな・登場 SF編」で箱をかぶるのは…
「タウンワーク誰かな・登場 SF編」で箱をかぶるのは…

 この一見不可解で理不尽さがちりばめられたCMの裏には、一貫したコンセプトと緻密なデータに裏付けされた戦略があった。

 「カスタマーはアルバイトを探しているのであって、バイト情報が載っている求人メディアを探しているわけではない。その前提で、今後アルバイト・パートを探すであろうカスタマーを含め、いかにバイトとメディアのブランド名をひも付けた状態でカスタマーの頭に強く残すかが目的」と、タウンワークのプロモーション全般を担当するリクルートジョブズ デジタルマーケティング室マーケティング部の徳光謙氏はCMの狙いを説明する。

 例えばWebのリスティング広告は検索ワードに基づいて広告が表示されるため、アルバイトやパートを探している顕在層にはリーチできるが、「いつか探すだろう」という潜在層には届きにくい。徳光氏はこの潜在層がアルバイトやパートを探すときにタウンワークを選ぶ可能性を高めることが重要だと考えている。これまでお笑いタレントの松本人志ふんする“バイトの神様”が「バイトするならタウンワーク」と連呼するなど、インパクトの強いCMに挑戦してきたのもその一環だ。

 だが、社会の変化のスピードが速くなるなか、プロモーションで重視している若年層の“ある特性”が、大きな課題として立ちはだかるようになった。

 「若い人たちは我々が想像する以上に日々の情報消費量が多い。必然的に飽きやすく、取捨選択も激しくなる。そのなかでインパクトをキープし続け、さらに成長するために、見たことがない新たなCMを作るべきだと思った。そこで今回の新CMからはバイト+ブランド名に加え、『1回見たら頭に残る世の中にないクリエイティブ』をコンセプトに据えた」と徳光氏は4年半続いたシリーズから、さらに大きな一歩を踏み出した理由を明かす。

 それほどの決断を託すキャラクターに平野と藤原を選んだのはなぜか。そこには「この2人でなければならない理由」を裏付けるデータがあった。

藤原竜也が出演する「タウンワーク誰かな・登場 SF編」

若年層だけでなく全世代をカバー

 タウンワークは18年に創刊20周年を迎えた。地域ごとに115版を発行し、Webとのクロスメディア展開で全国に求人情報を届ける。歴史がある故、飽きられないようCMでは常に新しさを追求してきた。「競合が増え続けるなか、感覚だけでクリエイティブを決めることはできない。投資額も大きく、次につなげるためにも絶対に手は抜けない」と徳光氏はCM制作への熱意を見せる。

 若者をメインターゲットにする以上、登場するCMキャラクターは旬やタイミングが命だ。選定の際には年代ごとの認知度や検索トレンド、今後の出演作といった客観データに加え、そのタレントの言動がCM内のキャラクターに親和性があるかという点まで徹底的に調べ上げるという。「タレントの性格と合わない設定では違和感が出てしまい、良い効果につながらないという過去の学びがあった」(徳光氏)

 これらの緻密な調査データから導き出されたのが、平野と藤原だった。デビュー以来、注目度のカーブが急激に上がっている平野と、一流俳優でありながらユーモアがあり全世代に高い人気を誇る藤原。メインターゲットの若年層だけでなく全世代にユーザーを抱えるタウンワークだからこそ、2人のマッチングが最適解だったのだ。

藤原は全年代の認知度が高く、映画『カイジ ファイナルゲーム』が2020年1月に公開されるというデータも起用を後押しした。SNSでは「すげースーツ着てる」「このまま地下のバイトでも行くのか」と盛り上がった
藤原は全年代の認知度が高く、映画『カイジ ファイナルゲーム』が2020年1月に公開されるというデータも起用を後押しした。SNSでは「すげースーツ着てる」「このまま地下のバイトでも行くのか」と盛り上がった

 あまりに意表を突くCM設定だが、「ダンス」や「箱」にこだわったわけではないという。「最初のコンセプトをぶらさずに提案された企画を議論した結果、今回のクリエイティブにたどり着いた。結果として多くの反応をいただき、SNSでの話題量は1年前の同時期と比べて5倍程度。ブランドの地位を確固たるものにしてくださった松本さんの後だけに、不安はある。でもやるべきだとチーム全体が腹をくくった。インパクトを残しているという意味では狙い通りで、今後もPDCAを回して学びを蓄積していく」(徳光氏)

 ぜいたくな起用には続きがある。顔が数秒しか映らないが故に「(2人を)もっと見たい」との要望が出ることを見越し、Web限定で2人のさまざまな表情が見られる動画を公開した。注目度を上げるため、あえてCMより公開を遅らせた効果もあり、再生数は2人合わせて20万回を超えた(19年11月現在)。CMメイキング動画の再生も36万回以上という人気の高さだ。タウンワークの「CM変革・第一章」は、水をも漏らさない緻密なデータ分析の勝利となった。

19年11月から放映が始まった平野の第2弾CM「スーパープレイ編」
藤原の第2弾CM 「BARBER編」も19年11月から放送されている

(写真提供/リクルートジョブズ タウンワーク)

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